河出書房の短編集シリーズ奇想コレクションから、今回はコニー・ウィリスを。
本書は4本のみでそれなりのページ数のものばかりなので中編集とでも言った方がいいかも。
さらに、この4本でSF賞12冠獲得。
1作目「女王様でも」(1992年。34ページ)
ヒューゴー賞、ネヴュラ賞、ローカス賞、アシモフ誌読者賞、SFクロニクル賞受賞。
特殊な処方で女性の生理を無くす事が可能になり(排卵はあり)、それが当たり前になった世界で、女性は元に戻るべきという教義のサイクリストに急に入信すると言い出した娘とその家族たちのドタバタ劇。
ページ数が短く、全体的にあまり説明してないのでちょっと分かりにくいところがありますが、それはわたしが男性なので色々と実感できないのが理由なのかも(^^;
なんと言うか、子供は親が心配するほど深く物事を考えていないという話です。
あっさり言いすぎか?
「ギャフン」という死語が頭に浮かぶ短編(^^;
2作目「タイムアウト」(1989年。85ページ)
本邦初訳。
時間というのは現在子という粒子で出来ており、それを入れ替える事で時間旅行が出来るという理論を実験するために集められた中年の男女が経験する不思議な経験。
現在子という考え方がちょっと面白いです。
例えばデジャヴですが、何らかの理由(激しいストレスとか)により個人の現在子の過去と現在が入れ替わってしまったため、以前、来た事があると錯覚するとか。
タイムトラベルと感染病(本作では水疱瘡がキーになってます)というと著者の「ドゥームズデイ・ブック」と似ていますが、「犬は勘定に入れません」の方が印象は似ています。
解説読むまで気づかないようなちょっとした仕掛けなどがいかにもウィリスらしい。
いつもだまされます(^^;
(というかちゃんと読んでないだけかも)
3作目「スパイス・ポグロム」(1986年。142ページ)
本邦初訳。
イグナトゥス賞(スペイン)、アシモフ誌読者賞。
スペース・コロニー<ソニー>では、異星人のエアアロオゼ人のオオギヒフォエエンナヒグレエ(読めん!)の世話を任されたクリスが四苦八苦していた。
オオギ…(通称オーキフェノーキ)は言葉を中途半端にしか理解してないため、何度言っても色々なものを買い込んで来てしまい、クリスのアパートは物であふれ返りそう。
クリスの恋人でNASA職員のスチュアートはエアアロオゼ人との交渉に忙しく「とにかくしたいようにさせろ。機嫌をそこねないように」と言うだけ。
ある時、オーキフェノーキが連れて来たハッチンズという男と一緒に食事をしていると、エアアロオゼ人が1つの単語を1つの意味でしか理解できない事に気づく…
舞台は日本のスペース・コロニー。
大家が渚さんだったり、三越百貨店で買い物したり、日本人のわたしにとっては馴染みのある言葉がたくさん出てきて楽しい。
映画スターを夢見る、見かけは可愛いですがかなりひねくれている幼い姉妹が良い味出してます。
言葉遊びの多い作品なので、うっかりすると迷います(^^;
1つの単語を1つの意味でしか理解できないというのは怖いですね。
最初に覚えた単語が何なのかによってその後のコミュニケーションがガラっと変わってしまう。
4作目「最後のウィネベーゴ」(1988年。87ページ)
ヒューゴー賞、ネヴュラ賞、アシモフ誌読者賞、SFクロニクル賞、SFマガジン読者賞受賞。
新型パルボウィルスにより全世界の犬が絶滅し、動物愛護協会が絶大な権力を握るようになった世界。
記者のデイヴィッドは地上で最後のRV車、ウィネベーゴの取材の途中でジャッカルの轢死体に遭遇。
犬の代わりとして重宝されているジャッカルに何かあった場合、必ず通報しなければならないが、デイヴィッドはかつて自分が飼っていた犬を事を思い出し、通報を迷う。
交通事故で死んでしまった自分の犬とジャッカルと最後のRV車ウィネベーゴが不思議な因縁の元、過去の出来事とのつながりに一つの回答を出す事に…
これもウィリスらしい絶妙な伏線の張り方で「なるほどこう来るか」と思わずうなる作品。
他の3作が楽しいドタバタ劇だったのに比べ、こちらは思わずグっと来る哀愁の一品。
特に主人公が飼っていた犬の描写が実に生き生きとしています。
雪に戯れる犬の様子などウチのワンコと重ねてしまい、ジーンと来てしまいます。
(ウチのはまだ生きてますよ)
犬好きな人はぜひ読んでください。
