1999年発表のオーロラ賞受賞作品。




2009年のある日。

スイスにあるヨーロッパ素粒子物理学研究所(CERN)で、ある画期的な実験が開始されようとしていた。

鉛の原子核を衝突させる事で1、150兆電子ボルトのエネルギーを発生させビッグバンの10億分の1秒後の宇宙を再現し、

理論上存在が確認されているヒッグス粒子を生み出すという、人類史上最大の実験。

しかし、その瞬間起こったのは予想外の出来事だった。

全人類の意識が21年後の2030年の世界へ1分43秒間飛んでしまったのだった…




本書で重要な役割を果たす人物が二人います。

一人はプロジェクトの責任者、ロイド・シムコー。

もう一人は共同研究者のテオドシオス・プロコピデス(通称テオ)。




ロイドはフラッシュフォワード現象のさなか、ある光景を目にします。

結婚間近の日本人科学者ミチコとは別の女性と結婚している自分の姿を。

自身、両親の離婚を経験し、結婚に対して永遠性を望むロイドは、それまで堅固だったミチコとの関係に疑問を持つようになります。

また、ロイドはこの現象の解明をしなければなりません。

フラッシュフォワード現象中の2分弱の間に、意識を失った人間達のため多くの大事故が誘発されます。

車や列車、航空機など、操るものがその役目を放棄した瞬間に無制御のまま多くの命が失われます。

これが自分達の責任なのかの解明が必要なためです。




一方のテオはフラッシュフォワード現象の際に何もヴィジョンを見ませんでした。

実は、テオはその時期に何者かに殺害されていたと、他のヴィジョンから知らされます。

テオは情報集めに奔走し、自分の殺人事件を何とか阻止しようとします、




最近は、このような時間SFを良く読んでいて、作者毎に色々な時間の解釈があります。

一つは過去・現在・未来は確定しており変更はきかないという考え方。

本書ではロイドがこの考えを取っています。

たとえばわたしが明日の夕食をにカツどんを食べようと思い、実際にそうなったとします。

しかし、わたしがカツどんを食べる事は既に確定しており、自分で選んだと思いこんでいるだけ。

簡単に言えば、こんな感じ。




もう一方としては未来は未確定で変更可能という考え方。

時間軸は一本でその上を歩いているようなものですが、例えば過去に何らかの変更を加えると未来が変わる。

昔からよくある考え方で、タイムパラドックスという問題を抱えてますね。

個人的にはやり直したい過去は無数にあるのでそれを変更できたらどれだけ幸せかと思いますが…




さらに派生型でパラレルワールドというのもあります。

夕食にカツどんを食べたわたしAとカレーを食べたわたしB、ラーメンを食べたわたしC…と、選択肢がある限りドンドン増えていく世界。

選択肢にはある程度の限界がありますが、それでも人間レベルで考えれば無数のパラレルワールドが発生する。

ただ、この考え方もある意味、確定論とも言える。

カツどんとカレーしかない世界でわたしAがカツどんを選んだらわたしBにはカレーしか残らない。

選択肢が無くなるという事は未来が確定しているという事になる…

難しいですね。




それとはまた異なり、因果は巡るという考え方も。

途中でそれたとしても結局は元に戻る。

一度支線を走ったとしても結局は本線に戻るというもの。

ホラー映画の「ファイナル・デスティネーション」はこの路線。

死ぬ事は確定していて時期と場所がズレただけなのが、この映画。




それ以外にも、時間は宇宙空間に局所的に発生した自然現象に過ぎず、外部の観察者から見ると過去から未来に向かう時間や、未来から過去に向かう時間があり、時間に従属する内部の観察者にとっては時間はあくまで過去から未来に向かう。




もう何だか分けがわかりません(^^;




本書では21年後の世界を見たおかげで人生に絶望する人、希望を持つ人、色々出てきます。

夢に向かって邁進している人にとって21年後に何の成果も上げていない自分を見てしまうと、やる気が無くなります。

逆に現在に絶望している人が21年後の自分が幸せな人生を歩んでいるのを知れば、希望が見出せます。

わたしだったらどうでしょうか?

やはり見たくないというのが本音かな。




3部構成の本書ですが、第1部はフラッシュフォワード現象により引き起こされた大混乱をすさまじいスピード感で描写した、まるでジェットコースターのような疾走感あふれるパーツ。

第2部はフラッシュフォワード現象の解明とテオの殺人事件の真相究明。

第3部は一気に飛んで2030年の世界。そこでは一体何が待ち受けているのか?




カウントダウンの間にセリフを挟みこんで緊張感を煽ったり(これが実に巧い)、「フレームシフト」の主人公、ピエールの事と思しきセリフが数行出てくる遊びなど、ソウヤーの余裕も感じられる本書ですが、アメリカではドラマ化されています。

ドラマの方は飛び先が21年後ではなく6ヵ月後になっていて、登場人物も色々変更されているようです。

21年後では未来世界の描写(CGやセット)に金がかかるし、アクション要素を入れようとすれば若者を主人公に据えたいところなので、この変更はやむなしかも知れません。

ロイドがえらく若くなってたり、原作には無いキャラがほとんど。

竹内結子がケイコ役で出演という事が話題になってました。

今のところDVDとかは出てないようで、レンタル開始されたら1話は見てみたい。




これでソウヤーの邦訳単巻作品は一通り読み終えました。

あとはネアンデルタール・パララックス三部作というのがありますが、こちらはちょっと置いておこう。

この後、コニー・ウィリスの「航路(上・下)」(約1、300ページ)に取り掛かるので、4月はこれで終わりかな。




ちなみにCERNとか大型ハドロン衝突型加速器(LHC)とかは実在の施設だそうで、

ある人から教えてもらって初めて知りました。

その切はどうもありがとうございましたm(__)m。

本年3/30には7兆電子ボルトの衝突実験が実施されたそうです。




お金があったら見学してみたい。

http://atlas.kek.jp/







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