1997年発表、星雲賞受賞作品。
本書の舞台は発表当時の現代。
登場人物を紹介しますと、主人公のピエール・タルディヴェルは33歳のカナダ人遺伝子学者。
彼はハンチントン病という遺伝病を患っており、長くは生きられない身の上。
そんな彼がネオナチの男から命を狙われ、間一髪で撃退するところから物語りは始まります。
彼の恋人で心理学部の助教授のモリーは、近くにいる人が彼女の母国語である英語で考えた事のみ知る事が出来る限定的なテレパシー能力を持っています。
アメリカ司法省のナチ戦犯専門部局の捜査官のアヴィ・マイヤーは、自分の父親がかつて収容されていたウクライナのユダヤ人収容所で”恐怖のイヴァン”と呼ばれていたウクライナ人ナチ協力者で収容所の責任者イヴァン・マルチェンコを今も追っています。
そして、ピエールの上司であり、遺伝子研究でノーベル賞を受賞したブリアン・クリマス。
現在はネアンデルタール人の遺伝子研究をしており、非常にクセのある冷たい感じの老人。
こういった人々の裏に抱える事情が複雑に絡み合い、物語は形成されています。
本書のSF的要素は非常に少なく、ミステリー要素が大半を占めています。
なぜ、ピエールがネオナチに狙われたのか?
モリーのテレパシー能力はどうして現れたのか?
”恐怖のイヴァン”はどこにいるのか?
こうした謎に加え、遺伝子情報の解明に関する考察や、アメリカの保険制度の問題点の追及にまで踏み込んでます。
話はそれますが、わたしの好きな米ドラマ「ER救急救命室」でも保険がらみで治療を諦めたり、重態なのに保険会社の意向で転院させられたりといった、日本では信じられないような話がいくつも出てきますが、日本に生まれてよかったと、こういう事から感じられます。
話を戻して、本書はSFが読みたいという人にはちょっと物足りないかもしれません。
SF的要素であるモリーのテレパシー能力はあくまで副次的な扱いです(ポイントポイントでは重要な役割を果たしますが)。
なのでSF初心者の人にはオススメでしょう。
ただし、遺伝子情報の解明のくだりは若干分かりにくいかも。
少し予備知識があるといいかな。
今まで読んだソウヤー作品とはちょっと趣が異なり、今までの作品だと割とあっけらかんとした明るい終わり方をしてましたが、本書のラストは涙なくしては読めない感動作品となっており、「こんなのも書けるんだぞ」という著者の意気込みが感じられます。
見事にはまりました。
読んでた時は通勤途中だったんで何とかガマンしましたが、先ほどラストだけちょっと読み直してまた泣けた。
特に、ピエールとモリーの娘アマンダ(本書の中盤で生まれた、色々と複雑な事情のある子供で重要な役割あり)のラストでのセリフには泣かされました。
彼女のその後というのが気になりますが、まぁ、続編は期待してはいかんですね、こういう場合。
このまま余韻を楽しんでいる方がいいんだろうなぁ。
ちなみにハンチントン病というのは「手、四肢、顔、頸、肩などに舞踏様の不随意運動を起こす遺伝性変性疾患」で、
進行すると全身症状に移行、精神障害が現れ10~15年で死に至るという残酷な病だそうです。
またフレームシフトとは「タンパク質の読み枠が翻訳の途中で変化する現象」だそうです。
DNAコードの一部が欠けたり余分に付いたりしてDNAコードが変異する事って感じ。
難しいね(^^;
(南山堂医学大辞典より抜粋)
