40年近く前の1973年に発表された、星雲賞受賞作品。
はるか未来、「真人」と呼ばれる白人種に支配された地球では、その他の人種やミュータントは徹底的に迫害されています。
「真人」の中でも「タイタン軍団」と呼ばれる容姿端麗な集団が支配者として君臨しています。
人類の頂点に立った彼らではありましたが、ひとつの懸念材料がありました。
それが、チンパンジーのような姿をした異星人からの侵略です。
ある時、異星人の乗り物を偶然奪取したタイタン軍団は、それがタイムマシンである事を突き止め、
複製を完成させる事に成功します。
異星人が残した遺跡を調査するロンド・ヘシュケは、タイタンに呼び出され、過去への調査旅行に同行しますが、
そこで見たのは、現在よりも古びた遺跡。
過去の方が古くなっている!
現在に戻ろうとした彼らの元に異星人のタイムマシンが襲来、撃墜され時間航行能力を失った彼らの元に、
見た目中国系の人々がタイムマシンで現れます。
彼らははるか宇宙空間でレトルト・シティと呼ばれるコロニーに住み、独自に進化した種族。
彼らレトルト・シティの住人に保護されたヘシュケ達は、驚愕の事実を告げられます。
地球上には2つの衝突するベクトルを持った別の時間が存在し、このまま行けば数世紀後には時間が正面衝突し、地球上の全生命は滅ぶと。
地球人は生き残る事ができるのか?
時間を扱ったSF小説は数多くありますが、こういった時間の扱いは特異ですね。
ここでは、「時間とは一種の自然現象で、広大な宇宙にはいくつもの時間が存在する。
時間が存在しない場所もある。」というもの。
中々、理解するには難しい理屈。
われわれ人類が経験している時間とわれわれ人類からすると未来から過去の方向に向かって進化している異星人も、裏を返せば純然たる地球人。
地球人同士の覇権争いという側面も持ってるわけです。
また、レトルト・シティの住民がかつて経験した、斜めに走る時間軸を生きる神にも等しい「斜行存在」。
時間が縦・横・斜め、いたるところに走ってる宇宙…
うーん、この発想は凄いな。
また、「真人」というのはモロにナチスドイツ。
こういうのが出てくるのも書かれた年代によるんでしょうね。
「真人」は核兵器で、異星人はウィルスで、徹底的に相手を破壊・殲滅するまで手を引かない姿勢というのも地球人の精神性なんでしょうか?
未だ、人種間・宗教間で対立の絶えない人類ですから、こうなる事は必至なんだろうかなぁ。
バリントン・J・ベイリーと言うと、本作の他にも「カエアンの聖衣」や「禅銃」が星雲賞を受賞しており、日本ウケはいい作家。
この2作はいつか読みたいと思います。
あのと学会会長の山本弘氏推薦!