1990年発表のソウヤーの処女長編。
地球環境に酷似した惑星コルキスへの47光年の調査旅行に参加した一万人の乗組員だったが、
宇宙船アルゴ船内で一人の女性乗組員が不審な死を遂げる。
艦内制御を司るAI=イアソンの情報からは自殺と思われるが、元夫のアーロンはその死に不審を抱く。
イアソンは何かを隠している…?
本書は、倒叙形式という文体で書かれています。
ドラマ「刑事コロンボ」のように、最初に犯人がその殺人の方法を提示して、それを後から解き明かしていくという文体。(まぁ、ミステリーに造詣の深くないわたしは聞きかじりの情報を提示しているに過ぎませんが(^^;)
また、本書は、AIであるイアソンの主観で語られます。
アーロンが探ろうとして引き出す情報は全てイアソンが管理しており、イアソン側としては、捜査妨害はいかようにも出来るわけで、そのままではとても真相究明まで到達するとは思えません。
ところがそこを何とかする(というか何とかなる)のが人間の意外性という点。
とは言え、本書がミステリーっぽいスタイルを維持しているのは前半とラストくらいで、
あとはかなりハードSF+サイバー・パンクな小説となっています。
(異星からのメッセージの解読やコンピュータウィルスとか)
イアソンがアーロンの思考パターンを解明するために、メモリー内にアーロンの脳スキャンデータを蓄積し、アーロンのシミュレーションプログラムを作成するところなんかは、後に描く事になる「ターミナル・エクスペリメント」の元ネタっぽくて面白かったし、ラストのイアソンとアーロンの激しい論争も結構盛り上がる。
イアソンがなぜ殺人を犯したかの理由がまたぶっ飛んでる。
残念なのはちょっと尻切れトンボなところ。
謎解きの部分もコロンボのような捜査テクニックが披露されるわけではなく、自白中心なのでミステリーとしてはイマイチ。(そもそもミステリー小説ではないんですけどね)
まぁ、長編初めてという事と、300ページほどの紙数でまとめたところを考慮すれば及第点かなぁ。
もう少し紙数を増やして完全版と完結編とか出してくれるとありがたいですが。