西洋の影響を受けすぎたケニヤのキクユ族の伝統を守るために、コリバは同胞を引き連れテラフォームされた小惑星、キリンヤガに移り住む。

「保全局」により管理されたキリンヤガで、唯一の呪術師として一族を導くコリバだが、彼の望むユートピア惑星では彼の予想もしない出来事が起こり始める…

 



本書は主人公のコリバとその周りで起こるエピソードをまとめたオムニバス形式の作品。

プロローグからエピローグまでの10編の短編からなっており、それぞれが88年~96年の間に発表されたものです。

また、各短編がヒューゴー賞やローカス賞を受賞しており質の高い作品集として有名。

 



特に有名なのが「空にふれた少女」

キリンヤガで生まれ育った聡明な少女は、聡明すぎるがゆえに、キクユ族がしてはいけない文字を覚えてしまう。

それを禁じられた少女は自ら文字を考案するが、それすらも奪われ、彼女は一つの決断を下す…

 



なんとも切ないこの話は、確かに本書の中で最も印象的な作品になってます。

 



本書を読み始めて思ったのは、「これのどこがそんなに評価が高いのか?」でした。

 



主人公であるコリバは、とにかくキクユ族の伝統を絶対視しており、それに反する行為は一切認めないというかたくなな態度をとります。

逆子は呪われているので生まれたらすぐ殺す、女性は家事と子育て以外の事は必要ない、文字は西洋文明の一部なので一切不要、など。

物腰は基本的に穏やかで冷静な話しぶりなコリバですが、この一点にかけては絶対に妥協しない。

そのわりには「保全局」との連絡用のパソコンを操り、軌道修正で気候変動を起こし旱魃や雨をもたらすなど、西洋文明を都合よく使う。

こんな調子なので正直言って全く共感できませんでした。

 



ところが、物語が進むにつれ、人間の好奇心と向上心はコリバの抑制を打ち破り始め、必死に伝統を守ろうとするコリバが徐々に孤立化していくに及び、何だかコリバを応援したくなってくる。

これこそ著者の仕掛けた罠ではないか?

だとすると見事にはまってしまったわたしがいるわけです。

 



かなりクセがあるので好き嫌いが結構分かれる作品かも知れません。

ハードSF好きな人には全くお勧めできません。

SF的な要素はほとんど出てこないです。(プロローグとエピローグが最もSFっぽいかな)

 



読み進むに連れて個人的な評価が上がっていった本書ですが、非情に残念なところが一つあります。

それは巻末の「作者あとがき」です。

ここでは、各短編がどんな賞にノミネートされ、どんな賞を受賞したかが1編ずつ詳細に紹介されています。

こういう事を著者本人があとがきでまとめて紹介している本というのは今まで見た記憶がありません。

自分の作品に自信を持つのは構いませんが、どうもこういうのは…

これさえなければ、かなり良い評価で終わったんですが、残念です。

(そこ読まなきゃいいじゃん、と言われそうですが…まぁその通りです)

 



「空にふれた少女」は確かにお勧め

 

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