先日読んだ川北紘一「特撮魂 東宝特撮奮戦記」は特撮を作る側の目線、本作は特撮を演じる側の目線。
著者の古谷敏氏は言わずと知れたウルトラマンのスーツアクターの方。
ウルトラマンの後は「ウルトラセブン」でアマギ隊員を演じています。
実はわたしは結構長い間、ウルトラマンの中の人とアマギ隊員が同じ人だとは知りませんでした。
アマギ隊員は背が高くスタイルのいい優しい顔立ちの二枚目で、顔の印象としては和泉元彌氏に似た感じ。
役柄的にもおとなしい感じの人なので、ウルトラマンの中に入ってアクションするようには思えませんでした。
元々、東宝ニューフェースとして役者の道を歩み始めた古谷氏ですから、
当初、顔の出ないウルトラマンには抵抗があり、クレジットに出さないで欲しいとまで言っていたそうです。
今と比べると当時のスーツはゴムのウェットスーツに色を塗った程度のもののようで、
マスクも視界が悪く、30分も着ていると意識朦朧、大量の汗を掻いて脱水症状になり、気分が悪くて始終吐いてたそうで、わたしたちがワイワイ言いながら楽しんで観ていた裏では大変な苦労があったんだという事がよく分かります。
実際、本当に途中で辞めようと思われたそうですが、たまたま行き会った少年たちがウルトラマンについて楽しく話しているのを聞き、思いとどまった後は、辛い気分も吹っ切れてウルトラマンを演じる事に生きがいを感じるようになった話や、最終回を迎える時の心情などは涙なくしては読めません。
「ウルトラセブン」終了後は、イベント会社を経営して各地で怪獣ショーなどをしていたそうですが、
その会社も20年で畳む事になり、その後はあまり表立った活動はしていなかったそうです。
そんな時に、かつての仲間たちに救われるようにウルトラマンのイベントなどに参加、
その中で本書執筆のきっかけを作ったのがアンヌ隊員役のひし美ゆり子さんだったとの事。
氏はウルトラマン・ウルトラセブンに携わる事が出来たおかげで多くの友人に出会えた事を本当に感謝しています。
本書は、そんな心温まるエピソードに満ちた回想録です。
リアルタイムでウルトラマンを観た人たちはもちろん、再放送(わたしはここ)やDVDなどでウルトラマンを知った人たちにも、ぜひ読んでもらいたい一冊です。