河出書房新社の日本オリジナル短編集、奇想コレクションの1冊。

収録作は以下のとおり。



 

1.黄泉の川が逆流する



 

初出1982年。



 

死者の復活が可能となった世界で、母親を病で失った少年の家族が彼女を復活させる話。

言葉をしゃべらずうつろな微笑をたたえた母親との生活に少年は、家族はどうなっていくのか…

 



ぞわぞわとした不安感にあふれたホラー。

巻頭にコレを持ってくる編者の気合を感じる。

ちなみにシモンズデビュー作だそうです。



 

2.ベトナムランド優待券



初出1987年。今回初訳。



 

近未来。ベトナム戦争のリアルなシミュレーションゲームに息子夫婦と孫たちと一緒に参加した元ベトナム帰還兵の老人が、 最後に選んだ道とは?



 

3.ドラキュラの子供たち



 

初出1991年。ローカス賞受賞作。



 

チャウシェスク政権崩壊直後のルーマニアに集まった学者、医者、宗教家、実業家たち。

彼らが見たのは、エイズに感染した子供たちを収容した孤児院での想像を絶するほど悲惨な状況。

そこでは伝説の闇の種族の暗躍があった…



 

吸血鬼とエイズを結びつけた話は以前、ギャグ漫画で見た事ありますが、こういった結び付けは面白い。

特にアフリカでエイズが蔓延した理由付けは…



 

4.夜更けのエントロピー



 

初出1990年。ローカス賞受賞作。



 

保険業を営む主人公は、不幸な事故で長男を失ってから家庭崩壊し、週末に娘を引き取る日々。

彼が仕事柄集めていたちょっと間抜けな事故事例も合わせて、自身の人生のエントロピーが拡散していく様を描く…



 

で、いいのかな?

ラストの解釈は読者次第かな。

ちなみに本作で主人公が集めた間抜けな事故・事例は本当にあった事らしい。

 



5.ケリー・ダールを探して



 

初出1995年。



 

人生に見切りをつけて自殺を図った元教師ジェイクスが目覚めると、そこにはかつての教え子ケリー・ダールがいた。

「ゲームをしましょう。わたしを止めて。殺してもいいから」といわれ無理やり彼女のゲームに参加させられるジェイクス。

ジェイクスとケリー、二人だけしか存在しない世界で行われるゲームの目的は?



ケリー・ダールというのは実際に存在するキャンプ場の名前だそうで、シモンズ本人がそのあたりで道に迷い、

変わった体験をしたそうです。

森林公園での不思議体験というとスティーブン・キングの「トム・ゴードンに恋した少女」みたいな感じ。

 

まぁ、本作とは関係ないですが。



6.最後のクラス写真



 

初出1992年。世界幻想文学大賞、ブラム・ストーカー賞、星雲賞受賞作。



 

60歳になる小学校女教師ギースは今日も授業を始める。

生徒たちは生ける屍と化したゾンビの子供たち。

鎖につなぎ強制的に机に座らせて、チャイムに合わせていつも通りの授業を行う日常。

少しでも人間性が戻らないかとはかない希望を抱きながら…

ある夜、学校に大人のゾンビの群れが襲ってくる。

一晩中かかって、100体以上のゾンビを撃退し疲れ果てたギースは、子供ゾンビの教育をあきらめ彼らを解放する。

一人、教室に残ったギースの元に再び子供ゾンビがやってくる。

覚悟を決めたギースが見たものは…



 

最後にホロっと来ます。



 

7.バンコクに死す



 

初出1993年。ブラム・ストーカー賞受賞作。



 

ベトナム戦争従軍時、戦友トレーと共に休暇でバンコクに訪れたメリックは、トレーに誘われるまま怪しげなクラブに赴く。

そこでは伝説の悪魔の王子とナーガの生まれ変わりの女マーラが、男に死の奉仕を施す場所だった。

それにのめり込んだトレーは死の奉仕を受けるが、情報漏えいを恐れたマーラの取り巻きにより殺される。

20年後、医師となったメリックはマーラを探し当てる。

彼の本当の目的とは?



 

たまたま会社で昼食中に読んでいたところ、少しばかり気分が悪くなりました(^^;



 

本書に取り上げられた短編は、7.は別にしても、他は全て子供に辛い話ばかり。

特に3.はかなり酷い扱いをされる子供たちが出てくる話です。

 



なんとなくホラー色が強く感じるのは最初と最後がホラーだからかな。

特にラスト2作のイメージが強烈(^^;

 



シモンズのホラー作家としての力量が発揮されています。
 

 

松尾たいこさんの装画はほのぼのとした感じですが…

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