アメリカDEA(麻薬取締局)の捜査官アート・ケラーとメキシコの麻薬カルテルの王バレーラ一家との30年に渡る闘争を描いた作品。
かつては恩人として、友として関わったバレーラたちに利用され、部下を拷問の末に殺された事に囚われ、家庭を崩壊させてしまったアートの怨念、
権力を掴みながらつまらない事にこだわり転落する麻薬王の油断とそれに取って代わり莫大な富を手に入れながらも満たされないバレーラ兄弟の悲哀、
一度足を踏み入れてしまっては二度と抜け出せないマフィアの抗争に取り込まれるカランの焦燥、
異端と言われバチカンからの協力を得られないながらも自身の信念に基づき活動を続けるパラーダ枢機卿の孤独、
運命に翻弄されながら愛する人を失い復讐を誓う一人の娼婦ノーラの哀しみ、
そしてそれらを覆い尽くすアメリカ上層部の情け容赦の無い反共政策の陰謀に邁進するホッブスとスカーチの非情。
本書にあるのは血と死、怒り・妬み・哀しみ・欲・暴力・執着・復讐と言った人間のエゴとそれに翻弄される儚い愛。
これらが男にも女にも大人にも子供にも、容赦なく降り注がれます。
読後感じるのは、果てしない空しさ、やり場の無い怒り、そして読み終わった事によるわずかばかりの開放感。
決して楽しい物語ではなく、万人に受け入れられるわけでもなく、読み手を選ぶ小説ですが、
これだけ感情を揺さぶられる小説も滅多にありません。
巻末の訳者あとがきでは、本書は著者の現状での最高傑作であるかのような紹介がされていますが、
まさしくそうなんだろうと思います。
次作品「フランキー・マシーンの冬」という犯罪小説は、ロバート・デ・ニーロに気に入られ現在撮影中との事。
これからもウィンズロウからは目が離せません。