おととい和枝は夕飯のあとも若い衆やママと

しゃべって12時過ぎまでいて、川上さんと

あたしが歩いて送って行った。


パパは珍しく食事中もほとんど口を利かず、

そのあともさっさと事務所の方へ戻って

行ってしまった。


多賀子が昨日と今日、やたらとクラスで

あたしに話し掛けてきたり、まとわりついて

来たのでクラスの皆は驚いていた。


どうせ和枝からパパのことを聞いてゴマを

する気になったのだろう。あたしの大っ嫌いな

タイプだ。しかも気のせいか、多賀子が

まわりに来るようになってから、クラスの

子たちが冷たくなったような気がする。




夕方、リビングに座ってキッチンから聴こえてくる

ママと今日の食事当番の伊藤クンの会話を

聞くとはなしに聞きながらパパたちが観ている

ニュースの画面をながめていると、玄関の

インターフォンが鳴った。


見に行ったタケが戻ってきてあたしに言った。
「友達の和枝さんいう人がみえてはるよ・・・」

あたしが玄関に出て行くと、私服の和枝が

立っていてもうほとんどくつを脱ぎかけながら

早口で言った。
「ちょっとだけかくまってくれへん?

他の族の子らに追われてるんや」
和枝はほかにも何か言おうとしたけど、

息を切らしていてそれ以上は言えなかった。

とりあえずあがってもらうことにして、リビングに

通した。


あたしたちが入って行くと若い衆たちが一斉に

こっちを見た。みんなびっくりした顔をしている。

パパはニュースの特集でどこかのオートショーの

中継に夢中になっていたけど、
「やあ、玲菜のお友達でっか?」
と、言いながら和枝に笑顔を向けて、改めて

和枝を見てびっくりして笑顔がひっこんだ。


「小学校の時と去年一緒のクラスやった和枝ちゃんや」
あたしはかまわず言った。和枝はパパに、
「こんばんは」
と頭を下げてから、みんなにも頭を下げた。みんなも

やっと驚きから立ち直って挨拶を返した。


無理もない。金髪にくりくりパーマで化粧もして

いる和枝は、服装も雰囲気もとてもあたしと同じ

中2には見えないのだから。


ママがリビングでのやりとりを聞き付けて、

キッチンから出て来て和枝を見て言った。
「まぁ、和枝ちゃん。久しぶりね」
さすがのママもちょっと驚いたみたい。


でも和枝もみんなと同じくらい驚いたようだった。

族の子たちから逃げ込んだ先に、10人以上もの

極道が揃っているとは思っていなかったろうから。


「もうすぐ夕飯やから、食べて行きなさいね」
ママの言葉を背にあたしは麦茶のビンと

コップを持って、2階のあたしの部屋へ

和枝を連れて行った。


和枝の話によると、たまたまうちの近くの公園で

チームの仲間何人かとたまってしゃべっていると、

偶然仲の悪いチームの子たちが大勢通りかかって

喧嘩になり、相手は武器を持っていて数も

多かったので、みんなバラバラに逃げたらしい。

なんか“敵のチーム”とか言ってまるで組の抗争みたい。

あたしのうちが近かったのを思い出して

飛び込んで来たらしい。


「そやけど、中に入ってもっとびっくりしたわ。

そういえば玲菜ちゃんのおやじさん、親分さん

やったもんね。忘れていたわ」
和枝が言った。


伸次さんがごはんだと呼びに来た。







あと10日で夏休み。試験も終わったし、今は

短縮授業中。今日はヒマなので部屋の整理を

していたら、古い手紙がたくさん入った箱を

みつけた。


なんとなく開けて読み返していたら、2コ上で

隣の市に住んでいる真奈美ちゃんの手紙が

たくさん出てきた。真奈美ちゃん、どうしてるかな。


そういえば近頃手紙が来ないなあ。あたしが

中1の終わりに返事を書いたきりだ。まさか

パパのことが関係あるんじゃないだろうな。


真奈美ちゃんのお父さんは、新藤栄会長の

光龍会系の組の組長なんだ。だから分裂前

まではパパと仲が良くて、家族ぐるみで遊びに

行ったり来たりしていたけど、今はパパ同士の

付き合いはなくなってしまった。けど、また

会いたいな。


真奈美ちゃんはやさしくておもしろくて

いい子だから、このまま付き合いを

やめちゃうのはおしい。



今日から期末。


抗争のことで家があわただしくて、なんとなく

勉強に身が入らなかったんで、いまいち自信ない。

言い訳か?2学期はがんばろう。早く夏休みに

なんないかなあ。


弘美はとうとう期末にも来なかった。あたしのノートの

コピーと試験のスケジュールをいちおう弘美の家の

郵便受けに入れておいたけど、受け取ってくれた

だろうか。でも結局試験に来なかったんだから、

どっちでも同じことか。


クラスでは弘美の欠席は多賀子のいじめのせいだと

いうウワサになりはじめている。多賀子は相変わらずで、

1、2年のツッパった子たちをしきっている。


和枝もなんだかんだ言いながら、まだ多賀子たちと

一緒に行動しているようだ。



旅行から帰ったら、みんな無事生きていた。

まずはひと安心。


帰り、班の子たちで弘美の家におみやげを

置いてきた。でも弘美のお母さんは、この前とは

違ってあたしたちが行ったらなんか迷惑そうだった。

どうしてかなあ。


ママに聞いたんだけど、パパはパパで旅行中の

あたしのことをとっても心配していたんだって。

タケが、
「玲菜ちゃん、無事でよかったね」
って言ったので、
「人の心配する前に自分の心配でもしいや」
ってあたしは言った。
「キツイなあ、玲菜ちゃんは」
ってタケは言ったけど、内心は嬉しそうだった。





今日から旅行だけど気が重い。旅行自体は楽しみ

なんだけど、弘美のこともあるし、パパの事も気に

かかる。もしあたしがいない間にパパになにか

あったらどうしよう。考え過ぎか。


弘美の家をまわって学校まで、伸次さんが

送ってくれた。もちろん弘美は出てこなかった

けれど。


伸次さんというのは、こないだの3月頃新しく

うちに来た人で、パンチパーマをあてた26歳の

見るからに極道ってカンジの人だ。でもどうやら

極道の経験は初めてらしく、しょっちゅう細かい

ことでパパに怒鳴られている。川上さんが

一生懸命面倒を見てやっている。


今朝、伸次さんはあたしを送るのに車を

出そうとしたけど、川上さんに止められた。

あたしが理由を聞くと伸次さんは、
「近頃、運動不足やから歩けって。アハハ」
と言ってなんとなくはぐらかされてしまった。


あたしとしては学校で目立たなくて済むから

歩きでも一向に構わない。


でも運動不足なんてよくいうよ。抗争ばっかで、

かえってみんな運動のしすぎなんじゃない?


でも本当の理由はわかっている。抗争の最中

なので、うちの車に乗ってヘタに目立って

襲撃されたりするとヤバイから。



18日からの旅行の連絡を伝えに、また弘美の家に

行って来た。弘美は会ってくれなかったけど、

お母さんと少し話ができた。


弘美は結局、多賀子たちとは直接対決せず、

脅しのことを親経由で先生に相談したらしい。

そしてその日の翌日、多賀子のグループの子、

主に2年にめちゃくちゃヤキを入れられたらしい。


弘美はお母さんにも何をされたか詳しいことは

言いたがらないそうだ。今はもう怪我は治っている

そうだけど、それ以来どこにも行きたがらず誰にも

会いたがらないんだって。


あたしが思っていたより悪い展開になっていた。

お母さんはとても心配していた。旅行もたぶん

行かないだろうと言っていた。


この件に多賀子の兄貴が絡んでいたのか

どうかは、お母さんの話からではわからなかった。

クラスにはあたしたち友達もいるんだから、

できれば旅行には来るように伝えてもらった。


当日の朝、一応寄って行くことにした。



今日のニュースで、西岡組の組員の人が息子2人を

連れて心中した、ということを知った。


子供たちは小6と小4だった。拳銃でこめかみを

撃たれたらしい。


その組員の人は3年位前に奥さんと離婚して、

子供たちと3人で暮らしていたそうだ。今回の

抗争のことで子供の将来をとても心配していた

みたい。心配しているんならどうして心中なんか

したんだろう。


組のため?組ってなに?家族を犠牲にしたり、

自分の人生をかけてまで、どうして組が

大事なの?よくわからないことだらけだ。


でも一緒にニュースを観ていた川上さんに

言わせると、
「子供たちは組とは関係ないと思うからこそ、

関わらせないためにこいう結果になっちまった

かも知れませんよ。一緒に生活してればどうしたって

関わっちゃうじゃないですか。この人にとっては

ゲームから抜け出すための最後の手段だったん

ですよ、きっと」
と、いうことになる。


またゲームなの?あたしにはそんなの理解

できないな。関わらせるのがイヤで死んじゃう

くらいなら、組をやめてカタギになったらいいのに。

まさかパパも心中とか考えてないだろうな。怖い。

悲しくなった。早く抗争をやめてほしい。


弘美はまだ学校に来ない。あれから何度か

電話したり、直接家に行ったりしたけど一度も

話せていない。どうしたのかな。やっぱり

多賀子たちに何かされたのかなあ。旅行も

もうすぐなのに、どうするつもりだろう。






弘美がまだ休んだきりだ。学校の帰りに弘美の家に

寄ったけど、おばさんが出て“今は人と会いたくないと

言っている”とすまなそうに言われた。おばさんの話からは、

何かがあったのか本当にどこかが悪いのかわからなかった。

また来ます、と言って帰って来た。



光龍会の新藤栄会長の家に西岡組の人が運転する

ダンプが突っ込んだ。すっごいびっくり。怪我人は

なかったかなあ。


パパたちは分裂してから新藤栄さんのことを

すっごい嫌っているけど、あたしはパパたちの

敵でも心配だ。


その西岡組の人たちは、警察と撃ち合いを

したみたい。


こんなことしてたら仲直りできるもんも

できないのに。もういい加減にしてほしい。


弘美が昨日、今日と学校を休んだ。

どうしたんだろう。風邪かな。それとも

多賀子たちと何かあったんだろうか。

明日も来なかったら電話してみよう。