今日で1学期もおしまい。
相変わらずクラスの子たちはよそよそしい。
男子はそうでもないけど。
誰かがあたしに聴こえていないと思って、
「小島さんのお父さんって暴力団の組長なんやて。
しかも平山さんのお兄さんの組らしいよ。だから
あの子らと仲良くしてるんやん」
「ヤクザなんてサイテーやんな。市民を泣かせた
金で贅沢して」
「ほんまや。人殺しとかもしてるかもしれへんし。
覚せい剤とかも」
もう、いや。どうしてこうなっちゃうわけ。
なんでパパが出てくるの?だいたい多賀子の
兄貴は同じ西岡組でもパパの組じゃないし。
それにパパたちはそんな悪いことしてない。
あたしは聴こえてないふりをして、なにげなく
席を立って廊下に出てしまった。涙が出てきた。
あわててロッカーの中に頭を突っ込んで物を
探すふりをした。
くやしいのか悲しいのか自分でもわからない。
聴こえてないふりなどせず、なにか言い返して
やればよかったかも。でも心のどこかで完全に
確信が持てないでいる。
パパ、人を殺したりとか麻薬とかしてないでしょ?
帰りのホームルームの時、先生が弘美が
2学期から別の中学に転校するって言った。
みんなそれをきいてザワザワし始めた。わざと
らしくあたしのほうを見る人もいた。多賀子は
素知らぬ顔をしていた。
学校の帰りに1人で弘美の家に寄った。旅行の
おみやげを届けた日以来だ。そのあとも何回か
電話はしたけど、1度も取り次いでもらえなかった。
おばさんも初めの頃と違って、なんかつんけんして
いるようで気にかかっていた。
今日は強引に上げてもらって約2ヶ月ぶりに
弘美に会った。少しやつれたようでもあったけど、
思ったより元気そうだった。
「弘美、転校しちゃうん?」
弘美は黙ってうなずいた。“多賀子のことが
原因なん?”とはどうしても直接ききにくかった
ので、しばらく2人して黙って座っていた。
「寂しくなっちゃうね。今までもそうやってん、
弘美が休んでるあいだ」
弘美はまだ黙ったままで、あたしのほうを
見ようともしない。
「これからもあたしに出来ることがあったら言っ・・・」
「調子のいいこと言わんといてよ!」
いままでそっぽを向いていた弘美が、急に
あたしの顔をにらんで怒鳴ったのであたしは
びっくりして目を見張った。弘美は続けた。
「今まであたしが1番必要な時に、なんも
してくれへんかったくせに!」
なんのこと?あたし、友達として出来ることは
精一杯してきたつもりなんだけど。
「あんたのお父さん、ヤクザの組長やいうから
あんたと仲良うしとったらあいつらも手出し
でけへんと思うてたのに、あんたがなんも
してくれへんからあたしが・・・」
そういうと弘美はすごい勢いで今まで
座っていたリビングを出て行ってしまった。
同じリビングにいたおばさんはオロオロしている。
あたしはピョコンと頭を下げると弘美の家を出た。
うすうすわかっていたとは言え、そんな理由で
弘美があたしと仲良くしていたなんてショック
だった。それになんで今日はどこ行っても
あたしが悪者になってるの?あたしが組員って
わけでもないのに、なんでみんなふたことめには
ヤクザ、ヤクザって言うの?
小さい時からなにをしてもパパのことがついて
まわった。なにか良いことをすれば“へぇ、
お父さんヤクザなのにあの子はけっこう
しっかりしてるんやね”とコソコソ言われた。
なにかちょっとだけ、誰でもしているような
悪いことをしたら“やっぱりお父さんが
ヤクザやから無理ないわ”って陰口を
たたかれた。
みんなあたしに何を期待しているの?
何をすればただのあたしとして見てもらえるの?
パパもママもあたしが小さい時、パパのことで
いじめられて泣いていると、
「おまえは何も悪いことしてないんやから、
気にせず堂々としていなさい」
としかった。
あたしだってそう思いたいけど、まわりはそうは
思ってくれへんやん。だから今まで必要以上に
いい子ぶってみたり、悪ぶってみたり行ったり
来たりしていた。
時々、どうふるまったら皆が納得してコソコソ
言わなくなるのか、わからなくなって頭が
おかしくなりそうになる。