3年生の卒業式だった。別に3年に親しい
知り合いもいないので、ただ形だけ式に出た。
帰りに弘美に誘われて瑛子ちゃんと靖子で
弘美の家に行った。弘美も靖子も最近では
すっかり和枝たちと切れている。でも今まで
さんざんバカにした態度を取って、シカトしてきた
クラスの普通の子たちとも今更仲良くできずに
いるみたい。あたしたちのグループに入って
くる時がある。
弘美と靖子はいきなり族の仲間から遠ざかった
ことで、最近多賀子を中心とした和枝のグループに
呼び出されたらしい。2人はあんなに仲良くしていた
チームの子たちや多賀子のことを散々悪く言っていた。
あたしもあれから家のことの方に気を取られて、全然
集会にも行ってない。あたしも呼び出されるかな?
でも和枝も特に誘ってこないから、行きたかったとしても
行きようがない。でも靖子は、
「あいつらのことやから用心しとくに越したことは
ないで。多賀子なんか特に。家族にヤクザモンが
おるようなヤツやもん。何するかわからへん」
と言っていた。
またヤクザの話か。
あたしはちょっと迷ってから、やっぱりパパのことを
言っといたほうがいいと思って口を開きかけた。
「そやけど、ヤーさんもいろいろいてるやん。
いちがいには言えんのとちゃうの」
瑛子ちゃんがあたしより先に口を切っていた。あたしが
言おうとしていたことと同じようなことだった。靖子は
腹立たしそうに、
「ヤクザなんてみぃんな一緒や。クズばっかしや」
パパたちがクズなんて、大ショック。弘美は何か
言いかけたけど、靖子の勢いに驚いて口をつぐんで
しまった。代わりに瑛子ちゃんが続けて言った。
「絶対にそんなことあらへん。人それぞれや。
玲菜ちゃんのお父さんなんか・・・」
瑛子ちゃんは口をすべらせた事に気付いてあわてて
口を閉じるとあたしの方をチラッと見た。
弘美と靖子も訳がわからず、つられてあたしの方を
見た。あたしはみんなの顔をゆっくり見回しながら
言った。
「うちのパパはな、西岡組系心誠会小島組の
組長やねん。今までだまっててごめんね」
なにあやまってんの、あたし。別にあやまることなんか
何もないのに。自分にちょっと腹が立った。
2人はびっくりしていたけど、弘美があわてて
とりなすように言った。
「あたし、ヤクザがみんな悪いとは言ってないよ。
その逆や。カッコエエやん、幹部とか。始末に
おえへんのは、多賀子の兄貴みたいなチンピラや。
靖子かてそういうつもりで言ったんよ、きっと」
こういう反応は小学校時代にもけっこうあった。
パパのことがわかると、カタギの人の反応としては
全く変わらない人を抜かすと、明らかに嫌悪して
避けるか又はカッコイイとかヘタ打つと怖いからと
言ってゴマをすってくるかのどっちかにわかれた。
あたしはどっちをされてもすごいイヤだった。
反応こそ違え、結局どっちも差別していることには
かわりないから。やたら嫌ってバカにするのも、
同情するのも持ち上げるのも結局は特別扱い。
自分たちと同じ位置では見てくれてないんだ。
例えば魚屋さんやサラリーマンをしている人々が
みんな同じなわけはなくて、同じ職業でもいろんな
人がいてそれぞれいい人も悪い人もいるのに、
ヤクザに関してはみんなそんな簡単なことも
忘れてしまう。
今までと同じことの繰り返しに面倒くさくなった
あたしは弘美に言った。
「もう、ええわ。気にせんといて。あたしが組員
いうわけやないんやし」
みんなもホッとしたのか、それぞれうなずいた。
「それより多賀子の兄貴に何かされたん?」
話題を変えるためにあたしは訊いた。弘美が
待ってましたというように言った。
「直接は何もされてへんけど、電話であいつらに
呼び出された時、兄貴が出て“なめたまねしとって、
このままで済むと思うな”っていうようなことを
言われた」
どうせチンピラとはいえ、仮にも極道のくせに
女子中学生を相手に脅しをかけるなんて
とんでもないヤツだ。あきれた。どこの組の
人だろう。パパ、知ってるかな。