クラスの子の家族が、近くのファミレスに夕飯を
食べに連れて行ってくれた。レストランで偶然、
真奈美ちゃんに会った。真奈美ちゃんは高校の
友達らしき女の子と4人でいたけど、あたしに
気が付いて手を振った。
良かった。真奈美ちゃん、昔の通りだった。
抗争のせいで返事が来ないと思っていたのは、
あたしの気のせいだったのかな。単に忘れて
いたり、学校などが忙しかっただけかも。
クラスの子の家族が、近くのファミレスに夕飯を
食べに連れて行ってくれた。レストランで偶然、
真奈美ちゃんに会った。真奈美ちゃんは高校の
友達らしき女の子と4人でいたけど、あたしに
気が付いて手を振った。
良かった。真奈美ちゃん、昔の通りだった。
抗争のせいで返事が来ないと思っていたのは、
あたしの気のせいだったのかな。単に忘れて
いたり、学校などが忙しかっただけかも。
斉藤のおじさんが殺されてちょうど1年経った。
偶然にも今日はおととい亡くなった前野さんの
奥さん、綾子さんの葬儀の日だ。あたしは
ずいぶん前に1回だけ見かけたことがある。
さすがに気の強そうなおばあさん、という
印象だった。
今年のお正月は西岡組は喪中なので、静かな
ものだ。挨拶まわりもないし。あたしたちは家族で
ずっと過ごした。
部屋住みの子たちも、ほとんど家族のところに
帰っている。当番でもないのにずっとうちに
いたのは、俊弘さんと伸次さんだけだ。ほかの
人は例年通り、実家に帰ったり女の人のところに
行ったりいろいろだ。俊弘さんと伸次さんは、
「女もいてへんし、帰るとこなんてあらしまへんわ」
と冗談めかして言っていた。
2日の日にイキナリ川上さんが帰って来た。
いつもの年はこの時期だけは何日か留守にする
のに。今年は元旦にお母さんを訪ねて行った
だけで、あとはずっとうちにいた。本当に珍しいこと
なので、
「こんな時ぐらいサービスしないと清美さんに
愛想つかされるで」
とママにからかわれていた。清美さんというのは、
ずいぶん長く付き合っている川上さんの彼女の
ことだ。
川上さんはママにからかわれて笑いながらも、
「なぜかこっちのほう(ウチのこと)が気になって」
と、言っていた。あたしの知る限り、最近は特に
大きなモメゴトとか起こっていないはずだけど、
正月そうそうなんだか少し不安になった。
今日で今年もおしまい。
今年は友達関係でも家でもいろいろあった年だ。
あれからもちろん集会には出ていない。いっちゃん
からも何も言って来ない。最初からうすうす感じては
いたけど、族にもあたしの居場所がないことが早い
うちにはっきりわかってよかった。でもまたどこにも
居場所がなくなっちゃった。
和枝たちも学校でも別に何も文句は言って来ない。
なんだかんだ言って抜けちゃえばそれまでなのか。
それともパパのことがあるから、あたしにはヤキを
入れてこないだけ??
弘美が転校して1学期が過ぎた。新しい学校で
友達できて楽しくやってるかなあ。
学校の帰り、和枝とあと学校は違うけど同じ
中2のチームの子たち何人かが声をかけて
きて、今夜また集会があるので来るように
言われた。あたしはもう行くつもりがないことを
伝えた。
それを聞くと、その中の1人のいっちゃんと
いう子が言った。
「なんや、根性ねえな。サツがそんなに
怖いんか。これやからカタギはあかんのや」
「別にビビッたいうわけやないねん」
あたしはちょっとムッとして言った。
いっちゃんはいつもはおとなしいあたしが口答え
してくるとは思っていなかったらしく、一瞬びっくり
してから更にキツイ口調でまた言った。
「抜けるのに挨拶ナシか。だいたいあんた
ナマイキなんや。先輩たちにも平気でタメ口
ききよるし。抜ける言うなら、きちっとケジメ
つけてもらおか」
こないだから仲間だと思っていた族の子たちに
疎外感を味合わせられてばかりいたあたしは、
ついカッとなって言い返した。
「ケジメ、ケジメって小指でも持ってけば
ええのん?アンタこそカタギのくせに
極道みたいな口、きかんといてや」
「なに!?」
今にも掴みかかって来そうな様子の
いっちゃんに、和枝があわてて何か
耳打ちした。いっちゃんは顔色を変えた
けど、声の調子は変えずに言った。
「ヤクザの組長の娘やからって、いい気に
なりやがって。あたしらがビビる思うたら、
大間違いやで。今にひどい目にあわしたる
からな」
この人、いったいあたしに何をしようと
いうんやろ。しかもあたしは別にいい気に
なんかなってないし。
いっちゃんとその仲間が去ってから、残って
いた和枝が言った。
「ごめんね。いっちゃんのことは気にせんといて。
あの子、口では強気やけどなんもしてけえへんと
思うわ。実は最近あたしもチーム抜けよう思うてん
ねんけど、あたしの場合、玲菜ちゃんと違って
正式にチームに入ってるから、先輩たちの手前も
あってなかなか抜けられへんと思うわ。もう
ちょっと様子うかがって見るつもりなんやけど」
と言っていた。
こないだの先輩たちといい、今のいっちゃんと
和枝といい、みんなバリバリのカタギなのに
うちの若い衆たちが言うようなこと言って、
へんなの。せっかくカタギの家に生まれたのに、
わざわざ立場をややこしくすることないのに。
それに極道みたいな口きくわりに、あたしの
ことはいい気になってるとか言って勝手に
怖がって差別しているし。
でもこれでもう本当に族と関わることも
ないだろう。
結局、ケーサツに迎えに来たのはママ1人だった。
それもそのはずで、おとといは12月13日。
毎年この日はパパたちは何か大きい行事がある
らしく、必ず全員で神戸の西岡組本家の方に行き、
家にいたことがない。だからそれを知ってて
あの刑事はうちに電話する前に、
「おまえ運がええなあ、今日はオヤジが留守で。
オヤジに知れたら、ただでは済まへんど」
って言ったんだ。
ママは親の中で1番に飛んできた。ものすごく
ショックを受けている様子で、やっぱり顔見知り
らしい例の担当の刑事にペコペコ謝っていた。
小学生の頃、パパの留守中に1度だけ家に
ガサ入れ(家宅捜査)があった時、怖がる
あたしをかばいながら、大勢の刑事たちを
相手に毅然と対応していたときのママとは
別人のようだった。例の刑事のほうは、
今までのあたしに対する態度とは打って変わって、
ママにはニコニコと対応していた。
とにかくママのこんな姿を見るのはやっぱり
居心地悪い。帰りのタクシーの中で、“パパには
今日捕まったことは秘密にする”とママは言った。
その代わり、あたしももう2度と集会には行かない
と約束した。
聞かれもしないのに一応今日が初めての参加だと、
また嘘をついてしまった。今までも“和枝の家に
宿題をしに行く”と言っては集会に出ていたことが
バレているような気がしたけど、ママはそのことに
ついては何も言わなかった。
でも本当にもう集会には行くのやめよう。ちょうど族の
世界でもあたしはヨソ者扱いということがわかって、
やめるタイミングを探していたところだったから。
今日、和枝に誘われて集会で走っているところを、
歳末取締りなんとかで出ていたパトカーに追いかけ
られて捕まってしまった。うまく逃げ切れた子もいた
けど、全部で26人も捕まった。その中に和枝も
多賀子もあと何人かのうちの学校の2年生もいた。
警察署の少年課の大きな部屋で、何人かの
グループに分かれさせられ、それぞれ別の刑事が
ついて取り調べを受けた。あたしのグループに
当たった若い刑事はあたしの名前と住所を聞くと
スグに別の刑事のところへ行って何かコソコソ
しゃべっていたけど、そのうちなぜかその刑事と
担当を交代した。
新しくこっちに来た刑事はパパくらいの年齢で、
パパのことを良く知ってるみたい。ということは
元四課(捜査4課=マル暴担当)か?
その刑事はあたしを興味深そうに見たあと、
他の子たちへの形だけの取り調べとは全く
違う態度でチームのことやあたし自身のことを
いろいろ根堀り葉堀り聞いてきた。一緒にいる
子たちの不思議そうな視線もあり、不愉快だった。
それにチーム関係のことは、本当に知らないこと
ばっかりだったので正直にそう言った。警察に
捕まるのは初めてで、ちょっと怖くもあった。でも
その刑事はそんなこととは気付かず、
「そのデカイ態度ととぼけて知らんふりする
作戦は、父親そっくりやのう」
と言った。あたしのことを信用してないらしい。
それにしてもあたしが知らないだけで、パパは
よく警察に捕まったりするのかと思ったら
悲しくなった。でもそういう時に、とぼけたりする
のかと思ったらちょっとおかしくなった。
刑事はあたしたちみんなの家に電話した。親が
迎えに来るまでここにいなくてはいけないらしい。
うちはいったい誰が電話に出ただろう。そして
誰が迎えに来るだろう。気が気じゃない。パパも
ママもすごーく怒るだろう。
学校はまあまあ。今ではクラスのほとんど全員が、
普通に接して来ている。皆、あたしが同じヤクザ者の
家族でも、それをタテにして威張るような多賀子とは
違うとわかってくれたのだろう。
でももうグループが出来上がってしまってだいぶ
経つので、、やっぱり完全にみんなの中には入り
にくい。あたしの気にしすぎもあるかも知れないけど。
髪を短く切った。ショートカットまではいかないけど、
前髪と横はちょっと長めで、耳にかかるくらい。
うしろは耳の下くらいまでの長さ。ちょっと新鮮な
気分。だいぶ黒い部分も伸びて来た。
今日は14歳の誕生日。
みんなで近くの店に、お好み焼きを食べに行った。
すっごくおいしかった。たくさん食べちゃった。
家に帰ったら、冷蔵庫にケーキが入っていた。
みんなで食べたあと、伊藤クンが大きな箱を持って
来た。今年は大きなゴリラのぬいぐるみだった。
ちょっととぼけた顔で、すごくカワイイ。8人全員で
買い物に行って選んでくれたんだって。
たかしくんと美幸さんからも、ちょっと大人っぽい
デザインのレターセットとボールペンが届いていた。
パパとママは腕時計とCDラジカセを買ってくれた。
ここ数日、和枝に誘われて集会に出た。
久しぶりだ。あたしが出たり出なかったりして
いるので、こないだとは別の女の先輩に、
「アンタみたいにどっちつかずなのが、1番
ムカツクねん」
と言われた。
この先輩の言っていたのと意味は違うけど、
どっちつかずなのはあたしが1番よくわかってる
っちゅーねん。あたしの立場なんかもよく知らん
くせに、この人にそんなことを言われる筋合いない。
腹が立ったけど、ここで先輩とケンカしてしまったら、
和枝のカオも潰すと思って黙っていた。男の先輩が
間に入ってくれて、
「まぁまぁ、カタギの子にそんなキツイこと言わん
でもええやん」
と言ってくれた。
あたしはびっくりした。カタギの人から“カタギ”と
いう言葉を聞くのも初めてだったし、あたしのことを
“カタギの子”とか言って、まるで自分たちはカタギじゃ
ないみたいな言い方だ。
カタギっていうのは、極道以外の人、つまり
この人たちも当然カタギだと思っていたあたしは
ビックリ。しばらく意味が飲み込めなかった。
聞き間違えかと思ったくらいだ。
あとで前にファミレスに連れてってくれた女の
先輩に聞いたら、族の世界ではツッパってる子や
チームに入ってる子以外、つまり普通の子や
マジメな子はカタギなんだそうだ。
「ようするに、アンタみたいな子のことや」
あたしの家のことは何も知らないその先輩は、
笑って言っていた。
ゾクではあたしはカタギらしい。複雑な気持ちだった。
カタギでもなんでもどっちでもいいけど、“結局
ここでもまたよそ者扱いか”と思ったら、急に
ゾクでの仲間意識も嘘っぽいもののように感じた。