今日はパパの密葬の日だった。


組関係の人もカタギの人もたくさん来てくれて、

花輪もいっぱいになった。


組葬ではないのにあたしの学校へは万が一の

襲撃を考えて、教師や生徒や父兄の参列を

見合わせるようにと警察から通達が行ったらしい。


あたしはそれを聞いてすごく悲しくて腹が立った。

死んでからもそんなふうに言われるなんて、

パパがかわいそうや。


けどママはパパは極道だったんだし、抗争で

死んだのだから警察の言うことはもっともで、

パパが生きていても同じことを言っただろうと

言っていた。


カタギの人に迷惑がかかることをとても嫌っていた

パパだったから、ママの言うことが正しいかも

知れないと思ったら、怒りが少しおさまった。


それでも、瑛子ちゃんをはじめ何人かの学校の
子たちが親と一緒や友達同士で来てくれた。

担任の先生もクラス委員2人と一緒に来てくれた。

いったい誰がやったんやろう。光龍会のヤツだって

ことはわかっている。絶対そうに決まっている。


光龍会のヤツら、あたしが1人残らずぶっ殺してやる!!


パパが撃たれた。


昼間、家に散弾銃が撃ち込まれたの。

すぐ病院に運ばれたけどダメだった。


もう今日はなんにも書けない。



パパや若い衆たちと、瑛子ちゃんの置いていって

くれた人生ゲームをやった。


あたしは2位。パパは3位。ビリは久志くんだった。


久志くんは罰として一曲歌わされた。でも久志くんは、

歌がうまいし好きだから内心喜んでいるようだった。


みんなでこうして遊ぶのなんて久しぶりだ。今日は

本当に楽しかった。親子3人っていうのもいいけど、

やっぱり大勢っていうのも慣れてるしにぎやかで

いいな。


あたしもパパに負けないくらい寂しがり屋なのかなあ。




お互いの塾の帰りに待ち合わせて、瑛子ちゃんと

会って一緒にうちに来た。


使い古しの人生ゲームを持って来てくれたので、

懐かしくてママとその時たまたま家にいたタケと

ヒロちゃんでやった。瑛子ちゃんは、またやりに

来るからと言ってゲーム盤を置いてってくれた。



(・・・その①からの続き)


ちょっと間を置いてヤスヒロが言った。
「はぁ。極道なんてもったいないすよ、川上の兄貴」
「そやけど、あいつも事情があるさかいに」
パパは突然しんみりと言って、黙って窓の外に目を

向けてしまった。助手席に座っていたママは、パパの

ことをチラッと振り返ってまた前を向いた。ヤスヒロは

また黙々と運転に専念していた。


一体どんな事情なんだ?よくパパもママも、あたしが

誰か大人の人のことを突っ込んで聞こうとすると、

それが組の人でもカタギの人であっても必ずこの

言葉を使って締めくくっちゃう。その度になんだか

はぐらかされた気分になる。こないだ川上さんが

教えてくれなかった別荘に行っていた理由と関係が

あるんかなあ。


川上さんに限らず、最近うちの若い衆たちを見ていると、

だいたいが皆カタギの家に生まれているのにどうして

この世界に入ることになったのか、どこで一般のカタギの

人と違う道を歩むようになったのか、と考えをめぐらせる

ことがある。


時々、パパのことも同じように考える。カタギの家に

生まれたパパが、どういうキッカケで極道の世界に

入り、組長として一家を構えるまでになったのか。

そして、やはりカタギの娘であるママと知り合って

結婚するに至ったのか。今は無理でもいつか

あたしが大人になったら、全て話してくれるかも

しれない。


そんなことを考えていたら公園に着いた。パパが

ヤスヒロにあとで迎えに来るように言って小遣いを

渡すと、あたしたちは3人で中に入った。中は割と

混んでいたけど、噂どおりとてもきれいで気持ち

よかった。池のまわりを散歩したり、植物を眺めたり

した。


お昼は公園の中の店で買ったものを芝生に座って

食べた。3人きりでこんなふうに出掛けるのなんて

滅多にないことなので、あたしたちは子供みたいに

はしゃいだ。ごはんのあともまた芝生に寝転んで

いろんな話をした。あたしが小さい時のこと、今のこと、

将来のこととにかくたくさん話した。やっぱりパパや

ママとこうやっていろいろ話せるのっていいな。

これから前にみたいにもっといろいろと話していこう。


だんだん夕方が近くなって来たので、あたしたちは

出口の方へ向かった。ヤスヒロの運転する車が

スーッと近寄って来た。すっごいグッドタイミング。

家に帰る途中、公園と同じ頃にできた新しい橋の

上からあたしたちの住んでいる街全体が見渡せる

ところがあった。たくさんのカップルが車を停めて

外に出て、夕暮れの街の景色を楽しんでいた。


パパもはしゃいで言った。
「わしらも見て行くか」
車を降りて橋の手すりのところから下を見た。まだ

あたりは比較的明るく完全な夜景ではないけど、

とてもきれい。この方がきれいかも。しばらく3人で

街を眺めて、どっちがうちか探したりした。


あたしの街。あたしが生まれ育った街。小島組の街。


このきれいな街の中で、血なまぐさい抗争やら

何やらが繰り広げられて来たのが嘘のようだ。


このところずっと抗争の話もなく、まわりはあたしたち

以外は若者同士のグループかカップルばかりだと

いうのに、ふと一瞬、“もし今襲われたら逃げられ

へんやろな”という思いが頭をかすめた。なんでか

わかんないけど、突然。


「もう行こか」
パパが言って、あたしは我に返った。あたしたちは

また車に乗り込んで家へと向かった。今度はあたしが

助手席に乗った。




今日は珍しくほとんどの若い衆が出払っていて、

うちには俊弘さんがいるだけだった。その俊弘さんも

しばらくしたら出て行って、うちにはパパとママと

あたしだけになった。こんなこと何年ぶりだろう。

今日は天気もいいし最近は抗争も落ち着いているので、

若い衆たちもみんなリラックスしているみたい。


あたしたちもリビングでくつろいでいると、パパが

唐突に言った。
「こないだこの先にオープンした公園、なかなか

きれいいう評判やろ。知ってるか、おまえら?」
「そうなん?」
ママがあたしに訊いた。
「友達にそういう話は聞いたことあるよ」
あたしは言った。
「そこ、これから行ってみようや」
パパがもう腰を浮かさんばかりに言った。

「ええーっ、今から?」
ママがビックリして、ちょっとイヤそうに言った。
「そうや。なんもそんな驚くことないで。まだ昼前やんけ。

玲菜も今日は塾、休みやろ?」
「でも、あそこ車がないと行けないんよ」
あたしが言った。

「何、事務所に1人か2人おるやろ、運転の出来る

ヤツ。電話入れてみい」
ママが立とうとすると、パパはさらに言った。
「ええわ、ええわ。わしが運転する。3人だけで行こ」
「無理よ。あんた何年運転してない思ってんの?」
ママの言う通りだ。パパは全くのペーパードライバー

なんだから。調子に乗って運転して、事故ったりしたら

たまらない。ママは事務所に電話をしに行った。


しばらくして、あたしのあんまり馴染みのない

パンチパーマの若い子がやって来た。妙に

かしこまっているところをみると、新入りらしかった。

ヤスヒロ、とパパは呼んでいた。こうしてあたしたちは

いきなりピクニックに行くことになった。


「そうと知ってたらお弁当でも作ったのに」
車に乗り込んだ時、ママが言った。
「急に思い立ったんやから、しゃあないやんけ。

向こうで何か買えばええがな」
パパが口を尖らせて言う。あたしは黙ってそんな

2人を見較べてコッソリほほえんだ。パパは時々

子供みたいになる。


ヤスヒロはずっとかしこまって運転していたけど、
「うちの方には誰が留守番に来とる?」
とパパが聞くと、
「高橋の兄貴です」
と答えた。あの角刈りのいかつい人かな?あたしは

パパの組の人でも、部屋住みじゃない人たちのことは

ほとんど知らない。挨拶くらいはしたことある人も多いし、

家でのパパと部屋住みの子たちとの会話から名前を

きいたことある人たちはたくさんいるけど、名前と顔が

一致しない人ばかりだ。


それからパパは上機嫌で、あたしに話す合間に

ヤスヒロにもいろいろ話しかけた。
「どや、川上のヤツはキツイやろ?」
パパが聞いた。そう言いながらも川上さんはパパの

ご自慢の若い衆だ。
「ええ、まぁ。勉強になっとります」
この答えでやっぱりヤスヒロが新入りだと言うことが

わかった。川上さんは新しい人が来るといつも

任されているのだ。


パパはご機嫌なままに続けた。
「あいつ、見かけは今風のビジネスヤクザみたいで

冷めてるいうか、昔ながらの義理・人情なんかカケラも

なさそうな顔しとるやろ。今はああいうのが流行るんやな。

そうなると、腹の出たわしらオジンヤクザは弱いさかいに」


確かに川上さんはいつもパパにくっついているのと

迫力ある独特な雰囲気はあるけれど、ヤクザがよくする

イカニモな髪型やファッションをしていないせいか、落ち

着いた物腰も手伝って、最近よく街で見かけるコジャレた

ビジネスマンにも見えるでも、やっぱりどこか普通の人

とは違う雰囲気があるらしく、だいたいの人には一目で

ヤクザとわかるらしい。


パパはしゃべり続けた。
「雰囲気のせいで誤解されやすいけど、今どき

なかなかおれへんで、あんな筋の通ったヤツも。

わしもやけど、下につけるモンもラッキーや。

今のうちによう勉強しとき」


へえ。それは意外。パパが頼りにしているのは

知ってたけど、外見通り仁義だのの古臭いものには

縁のないクールな人だと思っていたけどな。あたしは

パパのそんな言葉を聞き流しながら、窓の外を見て

いた。あたしは車に乗って考え事をしながら外を見る

のが好きだ。


(その②へ続く・・・)




パパは昨日から珍しくヒロちゃんとタケの2人だけを

連れて、神戸に行ってしまっている。あたしは午前中の

塾から帰ってから、なんとなく庭でブラブラしていた。

そのうちそれにも飽きて、玄関先で掃除をしたり、水を

撒いたり靴をみがいたりして忙しく働いている伸次さんと

俊弘さんを座って眺めていた。


しばらくして家から川上さんが出てきて、門の外にとめて

あったパパのプライベート用の車の方に歩きながら声を

掛けてきた。
「これからおやっさん迎えに神戸まで行くんやけど、

一緒に行かへん?」


最近は以前ほど若い衆たちと話していないところへ

もってきて、川上さんがパパやママに頼まれた時以外で

あたしをどっかに誘うことなんて滅多にないので、内心

首をかしげながらもその笑顔につられて思わずうなずいて

しまったあたしは、後ろの座席でなく助手席に乗り込んだ。

助手席のが景色もよく見えるし、話もしやすいから好きだ。


走っているあいだ、塾や学校のこと、最近観たテレビや

聴いている音楽、そして友達のことなどを話したりして

いた。あたしはしゃべり疲れてしばらく窓の外を見て

いたけど、ふと思いついて訊いてみた。


「こないだ話したとき、あたしが小さい頃のことで

何か覚えてるかって訊いてはったけど、その頃

何があったん?あたしマジで覚えてへんねん」
川上さんはしばらく考えてから口を開いた。
「俺、前にも話した通り玲菜ちゃんが生まれて

半年位の頃におやっさんのとこに来たんですけど、

そのすぐあと3年半くらい別荘行ってたんですよ」


へえ、知らなかった。川上さん、懲役に行っていた

なんて。あ、でも元からいたんでなく、あたしが幼稚園

くらいのときに初めて出会ったっていう印象があるのは

そのせいか。よかった。あたしの記憶がヤバイのかと

思ったやん。

「なんで別荘行くことになったん?」
「ちょっとその辺の事情はかんべんしてください」
ふーん、いったい何やらかしたんやろ。
「とにかく出てきてからもいろいろあって、他の組から

狙われたりしてたんですわ。けど俺はそんなことに

なってるの知らんから、前と同じように暇なときは

玲菜ちゃんの相手したりしてたんやけど、

・・・ほんまに何も覚えてないんですか?」
川上さんはまた聞いた。


「うん。全然。っていうか、あたしは幼稚園の頃に

川上さんがうちに来て、しばらくはよう遊んでくれた

って記憶しかないねん。それがいつのまにか全然

遊んでくれなくなってて・・・イキナリなんでやろって」
「何か誤解があるようやから言うんですけど、玲菜ちゃんが

幼稚園の頃一緒に遊んでる時、俺がベルトんとこに

持ってたチャカ見付けてやたらと触りたがったことが

あったんです。刺青にも異様に興味持って、いっつも

俺や他のヤツらの背中見たがって。そのうち、自分の体や

持ってた人形にもマジックで刺青みたいな絵描いたり、

幼稚園で描いてくる絵も刺青した人間ばっかりになったり

して」

「へえ。そんなことあったんや」

あたしは全く覚えてなかったので、びっくりすると

同時に幼い頃の自分のアホさ加減に笑ってしまった。

川上さんも一緒に笑って話を続けた。
「今じゃ笑い話だけど、あの時はちょっと問題に

なったんですよ」


ああ。もしかしてそれがキッカケで、家のほうでは

墨入れてる人は上半身裸禁止になったんか。

あたし割に子供時代の記憶はあるほうだと思って

いたのに、意外とアテにならんな。


「そうこうしてるうち、2人で遊んでるときに

襲撃されちゃったんですよ。玲菜ちゃんに

怪我はなかったし、俺もたいしたことなかった

けど。俺や組のヤツの側にいる限りこれからも

そういうことはあるだろうし、次もまた無事で

いられるとは限らない。だから、それからは

できる限り玲菜ちゃんと組のことを遠ざける

ようにしてきたつもりなんやけど・・・。

玲菜ちゃんは本来カタギであるべきなんだし」


川上さんの左肩のあたりにはカナリ大きい疵がある。

昔作った疵で、そのせいで今も時々その疵が痛む

ことと、左腕が肩までくらいしかあがらないということ

しか、あたしは今まで知らなかった。川上さんはそうは

言わなかったけど、それがその時の襲撃の傷だと

直感した。きっとあたしをかばって一生消えない怪我を

負ったのだろう。


すごいショックだった。今の話にも、こんな大変な

ことがあったのに全然覚えてないことにも、こんな

思い出したくないことを話させてしまった自分にも。


あたしってイヤな子だ。若い衆たちはみんなこんなに

いい人たちばっかなのに。みんな本当の家族でもない

あたしのことをいっぱい考えてくれてるのに。イラつい

たりムカついたり、邪魔とかいないほうがよかったとか

思ったりして。


「ごめんね」
あたしはそれしか言えなかったからそう言った。

川上さんはあたしがあやまった理由を勘違いした

みたいで、
「いや、むしろあやまらないといけないのは俺で。

俺は何があっても自分で入った道だからいいんです。

けど関係ない玲菜ちゃんを巻き込んじゃって。俺の

ほうこそ、すいません」


あたしはそれ以上なんと言っていいかわからず、

ただ黙ってうしろに流れて行く景色をみつめていた。


これからはずっと前みたく若い衆たちとちゃんと

しゃべろうと密かに決めた。



ちーちゃんと瑛子ちゃんが遊びに来た。やっと友達を

呼べるくらいに抗争が落ち着いて来たのだと思うと

嬉しかった。


今年は受験生のせいか学校の宿題はあんまりない

けど、塾のがすごいいっぱいある。ちーちゃんも

瑛子ちゃんも、それぞれあたしとは違う塾に行って

いる。とりあえず学校の宿題を素早く片付けて、

それから塾の方に集中するという計画を立てた。


このごろ、なんとなくあたしの中で若い衆たちと

なるべく関わらないようにしている。というより、

あたしも自分のことで忙しいので、自然とそんなに

話す時間がないのだ。


あ、そーか。こうして離れて行けば、他の組関係の

人の子供たちみたいに、若い衆たちと同じ家の中に

いても組のことには介入しないでやっていけるわけ

やな、と思った。なにか新しい道が目の前に開けた

気がした。でも反面、ちょっと寂しい気がする。



今日から夏休み。ここのところずっと平和だ。

あたしの心の中を抜かしては。


まだ抗争は完全に終わってないらしいけど、

家では緊張した雰囲気はほとんどない。

でもあたしは相変わらずイライラしたりして

不安定な気分。


最近あたしのゴリラは事務所のマスコットに

なっちゃって、ずっと事務所に置きっぱなし。

あたしは事務所にはほとんど行ったことは

ないから、中のことはよくわかんないけど。


たまに誰かがうちに持って帰って来て、

枕にしたり遊んだりしている。すっかり

タバコ臭くなっちゃってちょっと不満だけど、

みんなの気が紛れるんならいいか。




とうとう修学旅行に無事行って来た。楽しかった。

もっと長く行っていたかったな。


地元を離れて学校の子たちの中の1人になれば、

組も抗争も関係のないところの出来事のように

思えてくる。そりゃ、旅行中もパパたちのことは

気になったけど、ここ2週間位の間に家の中の

雰囲気もウソみたいに落ち着いて来ているので、

余計に気持ちが軽いのかも知れない。


それでも少し悪いなあと思いながらも、家に帰って

若い衆たちの顔を見ると、ついイライラしちゃう時が

ある。


どうしてこんな気持ちが起こってきちゃったんだろう。

いつからだろう。小さいときから若い衆なんていつも

いて当たり前で、別になんとも思って来なかったのに。

ここ2、3年でこんなふうに思い始めた気がする。

これが反抗期ってヤツか?