「しかし、エルディンクの民を救っていただいたとはいえ代価もなしに閲覧では面白味に欠けるとは思いませんこと？」
彼女は蠱惑的な笑みを一行に差し向ける。
「このヴァルト館には古い言い伝えがありますの。なんでも、幼くして鬼籍に入った初代当主の娘デボラは寂しさのあまり夜な夜な廊下や台所をさ迷い歩き、両親を探しているとか。わたくしもずっと寝物語に聞いていましたの。もっとも、せいぜい宵っ張りの子どもを寝かしつける方便としか思っていませんでしたが」
「ですが、ここしばらく使用人が噂してますの。誰もいないはずの廊下に足音が響いていたり、閉まっておいたはずの干し肉がいつの間にか無くなっていたり…。何かが館のなかを彷徨いているのやも。もしかしたら、それがデボラの霊かもしれません。万が一野盗か与太者であれば、看過できない事態です」
「ですから英雄どの。この館をくまなく探し、異音の正体を突き止めてくださいまし。願わくば、デボラの霊であって欲しいものです。わたくし、一度も亡霊を見たことがないものですから」
【導入】
エルディンクを覆う影を退け、報告と情報収集のためにグスタフと共に領館に向かう一行。
エルディンク周辺を治めるのはギュンツブルク家という貴族であった。生憎、当主夫妻は不在であったが、長女のゼルマが一行を歓待する。なんでもギュンツブルク家は混沌との戦いに尽力した家系であり、混沌殲滅の主翼を担うため危険な書物も特別に所蔵されているそうだ。しかし、その閲覧にはシグマー教会の許可が必要という。とはいえエルディンクへの多大なる貢献を鑑みたゼルマは、閲覧に特別な条件を課す。
それは夜な夜な館のあちこちから聞こえる異音の正体を突き止めること。異音の正体が初代当主の娘、デボラであればと期待するゼルマであった。
【登場人物】
ゼルマ・ギュンツブルク
ギュンツブルク家の長女。14歳。紫がかった銀髪、白乳色の肌、うす赤い瞳とアルビノめいた容姿。青いドレスはアラビィのラピスラズリが染色に使われている様子だが、上質な服装とは異なり、スカートの裾は不自然なまでに擦りきれている。また、よくよく観察すると上衣も細かな傷がいくつも刻まれている。野駆けせねばこのような傷はつかないであろう。
【領館について】
ギュンツブルク家の領館はヴァルト(森)館と呼ばれ、暗鬱なるドラグヴァルトの森を切り開き、およそ250年前に建築された。古いエンパイア様式の木造屋敷で、西側には石造りの鐘楼が建てられている。
鐘楼の石壁には刀傷が残されており、度重なるビーストマンの襲撃にも耐え抜いてきた月日を感じさせる。しかし、屋敷内に物見櫓が増築されて以来、鐘楼が使われぬようになって久しい。
サイフリート・アイヒマン
ギュンツブルク家のお抱え魔術師にして図書館の司書。40代半ばで、妻は早々に亡くし、息子はアルトドルフの大学に通っている。ギュンツブルク家には祖父の代から仕えており、家庭教師も兼任している。大学では天空の学府に所属しており、占術や歴史への造詣は深い。しかし、魔術の腕は三流であり、本人も自覚している。
質素な青いローブは皺もなく、蓄えた褐色の髭は整然と刈り込んである。
〈画像なし〉
ローランド・ゼイバスチャン
ギュンツブルク家の執事長。のべ30人ほどの使用人を束ねている初老の男性。年相応に皺が刻まれ、髪はごま塩ではあるが、姿勢は常に張りつめ、実年齢より随分と若く感じられる。上質な灰色の胴着と洋袴は恐らく熟練の職人の手によるものであろう。
ギュンツブルク家への忠誠心が強いがゆえに、ゼルマの素行に胸を痛めている。
アーロン・バス
20代半ばの吟遊詩人。巧みなリュート奏者。褐色の髪に鷲めいた細くとがった顎、痩せた体格。質素な赤い胴着、丈の長い緑の洋袴、白いシャツは長旅のためか擦りきれている。放浪者であり、現在はヴァルト館に滞留している。殉教の騎士ランツェレットとシグマーの聖女グウィニヴィアの悲恋を題材とした「夜と昼の恋歌」が十八番。
"バケツ頭"リカルド・ラング
ヴァルト館の衛兵隊長。浅黒く、横に広がった四角い顔つきで、がっちりした熊めいた体格。30代半ば。年期の入った鎖帷子に、樹を象徴する紋章の描かれた陣羽織を羽織る。エンパイア人であるが、兜はブリタニア様式。物静かな武人といった様子。
衛兵は20人ほど在籍し、ヴァルト館の警護や周辺警備に当たっている。
【補足】
皆様キャリア満了されていると思われますので、今シナリオ内で転身イベントを挟もうと思います。ご要望等あればよろしくお願いします！