【第四部】 拷問
そんなこんなで、2時過ぎた頃だろうか、A4用紙3枚くらいの供述調書が持ってこられた。こっそり名前を見ると、どうやら店長の調書らしい。(これで店長は解放されたのだろう)
まぁ店長はほとんど犯人と接触していないのだから、供述することも多くはなかったということだ。私の方はまだまだ序の口だ。
その後もちょこちょこ3者協議が行われつつ、3時過ぎにようやく私の供述もラストを迎えた。が、まだ終わっていなかった。まず、ノートPCにプリンターを接続し印刷開始。これがまた遅い。いつの時代のプリンター使ってんだよ!って文句言いたいところだが、最新型使ってたら税金の無駄遣いって言われかねないから古いのを大事に使っているのかもしれない。あーー腹立つ。
A4用紙5枚也の印刷が終わり聴取終了かと思いきや、「まだ待っててください。どうせ訂正があるから。」と言い残してA氏は出て行った。
約10分後、戻ってきたA氏の手には、付箋だらけの調書が・・・
ノーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
終わると思っていただけにこのショックは大きかった。時刻は4時前だよ。張り詰めていたものが切れたというか、とにかくドッと疲れた。
付箋のついた箇所を訂正するキータイプ音に苛立ちすら覚えるほどだった。
でもA氏だって疲れてるはずだ。早く終わらせようとしているに違いない。ここはグッと堪えるしかない。そう自分に言い聞かせてA氏が打ち終わるのをひたすら待った。供述調書より先に被害届(A4用紙2枚)が出来上がっていたので、よく読んでおかしなところがないか確認するよう言われた。
被害届の内容は概ね問題なかったが、最後の文面が「厳重に処罰してください」となっていたのには抵抗を感じた。私としては、壊れた箇所を修理してくれたらそれでいいですと言ったつもりだったのに、何故?という気持ちだった。どうしてこういう文面なのか聞いたところ、「ビルの管理を任されている立場の人間なら、こういう輩に対して穏便な対処を望むようなことを言うべきではない。」だそうだ。言われて見ればそうなのかもしれないが、罪を憎んで人を憎まずという言葉は警察官には無縁なのか。何だか哀しくなってきた。
結局、供述調書が完成し署名押印(右手人差し指)し、被害届にも押印し、犯人の逮捕拘束を依頼する意味合いの書類にも押印するなど、全てが終わったのは4:40だった。5時間だよ。その間、小さなお茶のペットボトル1本しか出なかったよ。
なんだろうこの仕打ちは。悪い奴捕まえた善良な区民を、深夜に5時間も拘束して質問責めにした挙句、お茶1本でバイバイですか。
ふざけんなーーーーー!もう二度と事情聴取なんかに協力してやるもんか。
終わり
【第三部】 事情聴取
~パトカーの中にて~
供述調書を作るのにどのくらいかかるか聞いてみた。すると、「2~3時間くらいかな」と言われた。
たかがと言っては不謹慎だが、器物損壊事件(あと、建造物侵入も追加された)程度で3時間も事情聴取されるのか。じゃあ、もし殺人事件だったらどんだけ時間が掛かるのか。想像しただけでも恐ろしい。
0時前なので迷ったが、ビルオーナーには一報入れておいたほうがいいだろうと思ったので、携帯に連絡することにした。就寝されていて電話に出られなければそれでもいいと思った。(着信が残るので一報入れようとしたことはわかるはず)
しかしあっさり繋がった。夜分の失礼を詫びつつ、今から事情聴取を受ける羽目になった経緯を簡単に説明した。
電話を終えた頃、パトカーは警察署前に着いていた。
~取調室2にて~
実は私のほかにもう一人、事情聴取に呼ばれた人がいる。それは、私に非常階段の点検を要請したテナントの店長である。彼は非常階段の踊り場に服が散乱しているのを見つけ、もしかしたら階段のどこかに不審者(全裸の男?)が潜んでいるのではないかと不安になり、私(管理室)のところに階段を調べて欲しいとお願いにきたのだ。
警察としては、私は犯人の確保者であり、店長が俗に言うところの第一発見者にあたるらしく、店長の供述も必要なのだそうだ。店長としては時間的にも帰りたいし、終電間近なので困ると主張し、聴取を拒否していたのだが、捜査員は「1時間くらいで終わるし、終わったら自宅まで送るのでご協力願えませんか。」と断りづらい状況に追い込んで、半ば強引に署までご同行の流れに持ち込んでいた。
のちにビルオーナーからこの件に関してはお叱りを受けることとなった。今回の事件に関する私の取った対応は、概ね良かったと評価していただいたのだが、テナントの店長を巻き込んでしまったことは間違った判断だと言われた。
ビルオーナーは常々、「テナントやお客様がビルを快適に利用できるよう管理して欲しい。」と仰っている。その点において、テナントの店長の通報で私が点検し不審者を発見したという、バカ正直な説明をしたことは誤った判断だったということだ。私が自主的に館内巡回で不審者を見つけたことにすれば良かったのだ。こんなときは、自分のバカ正直さが嫌になる。ビルオーナーは私のことを、「融通の利かない奴だなぁ」と思われたことだろう。
さて、本題に戻ろう。私より一足先に警察に同行した店長と犯人は、どこかの取調室で既に事情聴取を始めているはずだが、どこにいるのかはわからなかった。(私に見えないようにしていたのだろう)
私は取調室2に通された。部屋の扉は開けたままだった。もし閉められていたら、ちょっと嫌な気分になっていただろう。
私の取調べ担当官は組対係(組織対策係)のA氏だった。肩書きは、司法警察員 巡査部長という何やら聞き慣れないものだった。
23:50 事情聴取(供述調書作成)開始
A氏はノートPCとポータブルプリンターを持って入室してきた。どうやら供述調書は、聞き取りながらPCに打ち込むスタイルらしい。(手書きじゃないので時間が掛かりそう)
まずは私の住所・氏名・年齢・職業(会社名・本社住所)・電話番号を根掘り葉掘り聞かれた。今の住居に住んで何年になるかまで聞いてきた。そんなことは事件と何の関係もなかろう。今の住居に10年住んでいれば信用できて、1年足らずなら信用できないとでも言いたいのだろうか。本意が全く理解できん。
そんなことに腹を立てても進まないので、聞かれるままに答えた。静かな部屋に、A氏の叩くキーボードの音がやたら五月蝿く耳障りだった。事実、エンターキーを叩く勢いはハンパなかった。(キー壊す気か)
A氏の聴取を受けている最中、何度も別の捜査員が入ってきて、「あなたは最初彼になんと声をかけたのか」とか「そのとき彼はなんと言っていたか」とか「彼に対して壊したかどうか聞いたのか」とか、ちょいちょい割り込んできた。私の聴取は今A氏がやっているのに何で横からちょっかい出すんだろう?と最初のうちは不思議だったが、だんだん状況が読めてきた。
どうやら途中でちょこちょこ入ってきていた捜査員は、別室の店長を聴取している担当官と別室の犯人を聴取している担当官らしいのだ。
聴取の途中でA氏が席を外すこともしばしばあった。つまりどういうことかというと、犯人・店長(第一発見者)・私(確保者)の供述が一致しなければならないようなのだ。だからある部分で3人の供述が食い違ったら、聴取担当官が集まって協議し、統一を図るという寸法だ。
例えば、私が犯人のことを「30代後半くらいに見えた」と言い、店長が「40代前半くらいに見えた」と言ったとする。で、犯人に年齢を聞いて47歳と判明した場合、私の供述は「45歳くらいに見えた」ことにしておきます。という具合だ。実年齢と供述に差がありすぎると、私の供述に信憑性がなくなってくるからだそうだ。年齢より見た目が若い奴だっているだろうに無茶苦茶だ。改ざんと言ってもいい。
というか、供述の一言一句で一致させるための協議をしていたら、いつまで経っても終わらんぞ全く。
第四部へ続く。
【第二部】 現場検証
「○○警察です。事件ですか、事故ですか。」
『器物損壊事件です。・・・』
状況説明を求められたので、全裸の男がカードリーダーを壊し、今その男を管理室で休ませている(確保している)ことや住所などを話した。すると、すぐに捜査員を向かわせるので待つように言われた。
数分後、1人の警官がやってきた。犯人(警察的にはこの時点では容疑者)を管理室で待たせているので早く連れて行ってくれと頼んだら、まだ他の捜査員が来るから待ってくれと言われた。するとまもなくして、制服・私服入り乱れて7~8人の捜査員がやってきた。(たかが器物損壊でこんなに?)
二手に別れ、半数が容疑者のところへ行き、残り半数は私と一緒に現場へ向かった。所謂、現場検証というやつだ。ひとしきり奴を発見したときの状況や壊れたカードリーダーを発見したときの状況を説明したところで写真撮影となった。
奴が全裸で座っていたところを指差してパシャ。壊れたカードリーダーを指差してパシャ。床に落ちたカードリーダーの前面パネルを指差してパシャ。
犯人確保に至る状況は説明したし、現場検証もほどなくして終わったので、あとは奴を連れて行ってもらって終了。と思っていたのだが、そうもいかないらしい。
捜査員曰く、「人一人を逮捕(手錠などははめてないが)連行し、警察署に拘束するとなると、それなりの事情聴取(供述調書作り)が必要になります。被害届も提出していただく必要がありますので、署までご同行願えますか。」
そう来るか。
『私一人なので、管理室を空ける訳にはいかないのですが、明日じゃダメですか?』
「先程も申しましたように、人一人拘束するには供述調書が必要なのです。彼が犯人であるというあなたの供述調書がなければ、彼を拘束できないのです。」
要するにあれだ、捜査員たちは彼が器物損壊するところを見ていない(現行犯じゃない)し、私も見ていない。全裸の彼が最上階にいて、そこにあるカードリーダーが壊れていたという状況証拠に過ぎない。これまで私が状況説明したことを聞き取った程度ではダメだってことだ。そんなものは事情聴取でもなんでもないと。奴が酩酊状態なのをいいことに、何だったら私が口から出任せ言って(無実の)奴を逮捕させようとしてるんじゃねーかって疑いもあるってか。そりゃ確かに奴がカードリーダーを壊すところは誰も見てないし、そこには防犯カメラもない。証拠は無いけど、カードリーダーの凹みを鑑識が調べれば、奴の皮膚片なり血痕なり採取できるはずだが、器物損壊事件程度じゃ鑑識は動かない(動かせない)らしい。
何とか明日にできないか食い下がったが、それではどーあっても奴を連れて行けないらしい。キッチリ型に嵌った供述調書(奴が壊すところを見てはいないが、あらゆる状況から奴が犯人であることを疑いようがないと証明できるような調書)が無ければ奴を連れて行けないっていうんじゃ仕方ない。署まで同行するほかあるまい。
このとき時刻は23:40、幸いにもほとんどのテナントが営業終了しており、管理室への用事もほぼないだろう。そもそも管理室の通常業務は22:00までなんだから、もし誰か来たとして留守で対応できなくても言い訳は効く。もしも緊急事態が起これば、携帯電話に連絡が入ることになっているので何とかなるだろう。
そんなこんなで、生まれて初めてパトカーに乗ることとなった。
第三部へ続く。





