【第三部】 事情聴取
~パトカーの中にて~
供述調書を作るのにどのくらいかかるか聞いてみた。すると、「2~3時間くらいかな」と言われた。
たかがと言っては不謹慎だが、器物損壊事件(あと、建造物侵入も追加された)程度で3時間も事情聴取されるのか。じゃあ、もし殺人事件だったらどんだけ時間が掛かるのか。想像しただけでも恐ろしい。
0時前なので迷ったが、ビルオーナーには一報入れておいたほうがいいだろうと思ったので、携帯に連絡することにした。就寝されていて電話に出られなければそれでもいいと思った。(着信が残るので一報入れようとしたことはわかるはず)
しかしあっさり繋がった。夜分の失礼を詫びつつ、今から事情聴取を受ける羽目になった経緯を簡単に説明した。
電話を終えた頃、パトカーは警察署前に着いていた。
~取調室2にて~
実は私のほかにもう一人、事情聴取に呼ばれた人がいる。それは、私に非常階段の点検を要請したテナントの店長である。彼は非常階段の踊り場に服が散乱しているのを見つけ、もしかしたら階段のどこかに不審者(全裸の男?)が潜んでいるのではないかと不安になり、私(管理室)のところに階段を調べて欲しいとお願いにきたのだ。
警察としては、私は犯人の確保者であり、店長が俗に言うところの第一発見者にあたるらしく、店長の供述も必要なのだそうだ。店長としては時間的にも帰りたいし、終電間近なので困ると主張し、聴取を拒否していたのだが、捜査員は「1時間くらいで終わるし、終わったら自宅まで送るのでご協力願えませんか。」と断りづらい状況に追い込んで、半ば強引に署までご同行の流れに持ち込んでいた。
のちにビルオーナーからこの件に関してはお叱りを受けることとなった。今回の事件に関する私の取った対応は、概ね良かったと評価していただいたのだが、テナントの店長を巻き込んでしまったことは間違った判断だと言われた。
ビルオーナーは常々、「テナントやお客様がビルを快適に利用できるよう管理して欲しい。」と仰っている。その点において、テナントの店長の通報で私が点検し不審者を発見したという、バカ正直な説明をしたことは誤った判断だったということだ。私が自主的に館内巡回で不審者を見つけたことにすれば良かったのだ。こんなときは、自分のバカ正直さが嫌になる。ビルオーナーは私のことを、「融通の利かない奴だなぁ」と思われたことだろう。
さて、本題に戻ろう。私より一足先に警察に同行した店長と犯人は、どこかの取調室で既に事情聴取を始めているはずだが、どこにいるのかはわからなかった。(私に見えないようにしていたのだろう)
私は取調室2に通された。部屋の扉は開けたままだった。もし閉められていたら、ちょっと嫌な気分になっていただろう。
私の取調べ担当官は組対係(組織対策係)のA氏だった。肩書きは、司法警察員 巡査部長という何やら聞き慣れないものだった。
23:50 事情聴取(供述調書作成)開始
A氏はノートPCとポータブルプリンターを持って入室してきた。どうやら供述調書は、聞き取りながらPCに打ち込むスタイルらしい。(手書きじゃないので時間が掛かりそう)
まずは私の住所・氏名・年齢・職業(会社名・本社住所)・電話番号を根掘り葉掘り聞かれた。今の住居に住んで何年になるかまで聞いてきた。そんなことは事件と何の関係もなかろう。今の住居に10年住んでいれば信用できて、1年足らずなら信用できないとでも言いたいのだろうか。本意が全く理解できん。
そんなことに腹を立てても進まないので、聞かれるままに答えた。静かな部屋に、A氏の叩くキーボードの音がやたら五月蝿く耳障りだった。事実、エンターキーを叩く勢いはハンパなかった。(キー壊す気か)
A氏の聴取を受けている最中、何度も別の捜査員が入ってきて、「あなたは最初彼になんと声をかけたのか」とか「そのとき彼はなんと言っていたか」とか「彼に対して壊したかどうか聞いたのか」とか、ちょいちょい割り込んできた。私の聴取は今A氏がやっているのに何で横からちょっかい出すんだろう?と最初のうちは不思議だったが、だんだん状況が読めてきた。
どうやら途中でちょこちょこ入ってきていた捜査員は、別室の店長を聴取している担当官と別室の犯人を聴取している担当官らしいのだ。
聴取の途中でA氏が席を外すこともしばしばあった。つまりどういうことかというと、犯人・店長(第一発見者)・私(確保者)の供述が一致しなければならないようなのだ。だからある部分で3人の供述が食い違ったら、聴取担当官が集まって協議し、統一を図るという寸法だ。
例えば、私が犯人のことを「30代後半くらいに見えた」と言い、店長が「40代前半くらいに見えた」と言ったとする。で、犯人に年齢を聞いて47歳と判明した場合、私の供述は「45歳くらいに見えた」ことにしておきます。という具合だ。実年齢と供述に差がありすぎると、私の供述に信憑性がなくなってくるからだそうだ。年齢より見た目が若い奴だっているだろうに無茶苦茶だ。改ざんと言ってもいい。
というか、供述の一言一句で一致させるための協議をしていたら、いつまで経っても終わらんぞ全く。
第四部へ続く。