辻井伸行:「トルコ行進曲」

このモーツアルト作曲「トルコ行進曲」という作品は、独立したものではなく、彼のピアノソナタ集の中の11番目(ケッヘル番号331)、イ長調ピアノソナタの第三楽章なのです。

 

 今回辻井さんは、冒頭から5分30秒まで、第二楽章のメヌエットを演奏され、5分40秒から3楽章のトルコ行進曲が始まるという進み行きです。

 

このイ長調のメヌエットも素晴らしいものですが、今回は長くなってしまうので解説は、3楽章のトルコ行進曲のみとさせていただきます。

 

さて、モーツァルトは、このトルコ行進曲を勇猛なトルコ軍隊の華やかな行進をイメージして作曲したと考えるのが自然でしょう。通信網が著しく発達した現在では、地球の全人口の半分35億人がこの曲を知っていると言われています。

 

一方16世紀の末、我が国では、織田信長が、桶狭間の戦いを始め次々と守護大名を滅ぼしていき天下統一に限りなく近づいていました。

 

同時期、中近東では、オスマン トルコ帝国の織田信長と呼ばれるスレイマン大帝が、大軍隊でアジアに近いヨーロッパ諸国を攻め立てていたのです。ターゲットになったのはギリシア、ハンガリー、オーストリーあたりでしょうか?

 

辻井伸行さん        スレイマン大帝とオスマントルコ軍

トルコムード大好きなモーツァルトは、それから250年後、18世紀の人物ですが、このトルコ行進曲では、A~B~A~B形式を採用しています。冒頭Aの部分は、不安や怖れを表すイ短調になっています。なぜでしょうか?

 

その理由として、私の想像になりますが、彼は、オスマン トルコの勢力に怯える当時の東ヨーロッパの人々の心情をイメージしていたのかもしれません。

 

そしてこの動画の6分20秒の時点でBの部分に入ります。これは、これは、もう勇敢なトルコ軍の行進をあらわしていますね。特にフォルテッシモのところは先頭の太鼓の音を表現しているのでしょう。

 

辻井さん、Aの部分をもう少し、弱めに演奏されたらそのAとBのコントラストがはっきりしたのかもしれません。

 

イングリッド ヘブラー, ホロヴィッツ、グレン グールド、そして我が国の内田光子さんなど、世界的な大ピアニストが、競うようにこのトルコ行進曲を演奏しています。

 

辻井さんの演奏は、伝統にのっとった、骨太の演奏になっていますね。