眠気しか湧いてこない授業が終わった。

 

これにて本日の演目は終了。

 

三々五々で、部活に、帰宅にと生徒たちが散っていく。

 

さーて、オレもサッサとかーえろーっと。

 

 

「カズ・・・・・頼みがあるがやけど・・・・」

 

 

・・・真面目な顔した進に声をかけられた。

 

まぁ、いつも真面目な顔なんだけどさ・笑。

 

進を一言で表現すれば  「The 真面目」  笑。

 

 

オレなんかと違って、真面目に部活・・・・硬式テニス部で部活をやってる。

 

部活だけじゃない。真面目で・・・・スポーツ刈りで、普通の学生服で、優等生タイプで・・・じっさい優等生だった。

成績は常にクラスで5番以内には入ってる。

 

成績上位は直人のグループのヤツらが多かった。

でも、「虐められっ子」キャラが多くて・・・なんだか・・・なんだか独特の空気を醸し出してた。・・・・異邦人ってのか・・・・オレが言うな??笑。

 

 

進は「窓際族」だ。

信吾や、薮田や、ヤスケンたちといつも一緒にいる。

・・・・ってことで、オレががっこーにいるときは、いつも一緒にいる仲だ。

 

家は山奥の方で・・・・毎年「熊が出る」ってな地域だ。・・・・冬は雪に閉ざされる・笑。

冬の間は毎日「雪ダルマ」みたいに真っ白になってやってくる・笑。

 

先祖代々の「農家」・・・・まぁ、あの辺りには農家しかないけどな。

 

ゴールデンウィークは、毎年「田植え」を手伝ってる。・・・・んで、秋には稲刈り。

 

 

その進が、いつもにもまして真面目な顔をしてる・・・

 

 

「頼みって・・・・何やねん???」

 

「・・・いや・・・ここでは・・・・・」・・・・声をひそめる。・・・んで、

 

「今日、行ってもいい?」

 

 

オレは頷いた。

進も「雀荘・カズ」のメンバーだ。オレのアパートに出入りしている。

 

 

 

ヘッドフォンをして、カセットデッキのメーターを見ながら音を調整する・・・

 

アパートで、レコードの録音をしていた。・・・・そう、遠山さんからのバイトのやつだ。

毎月毎月コンスタントにバイトがきた・笑。・・・・やっぱ、大人ってレコード買うんだなぁ・・・って改めて思ったりする。

オレたち高校生はレコード一枚買うのもメチャメチャ迷う。2,500円ってのはけっこーな金額だ。

 

遠山さんたち大人は、毎月何枚ものアルバムを買ってる。・・・・まぁ、そのおかげでバイトにありつけるんだけど・笑。

まったく、ありがたいこった・笑。・・・・しかも、毎日のように、賞味期限切れ・・・店頭から回収したパンをもってきてくれた。・・・で、オレは教室で売りさばいた・笑。

 

 

レコードからカセットへの録音ってのも、けっこーな神経を使う作業だ。

 

レコードってのは、円盤状の塩化ビニール盤の溝を、目にも見えないほどの「針」がトレースして音を出すって仕組みだ。・・・・ってことは、外部からの振動で針がレコードの溝から外れたりする。音が飛んじゃったりする。

小さな埃がついてても音が飛ぶ。

・・・・・レコード聴くってのは、それほど神経を使う、メンド―な作業、行為ってわけだ。

・・・・だから、日常に聴くために、みーんなカセットに録音しとくわけだ。

 

 

・・・・ちなみに、この「針」ひとつでも、出てくる「音」は全く違ってくる。

 

この分野でも、やっぱ海外製が一番いい。

 

日本にも「針」メーカーはあるが、やっぱ海外・・・

 

SHURE   ORTOFON    なんかが憧れだ。・・・・が、たっかい・笑。

 

4万円、5万円ってな値段がする。・・・・日本メーカーの3倍、4倍・・・・モノによっては10倍って値段だ。・・・・しかも消耗品だ。・・・・使えばそれだけ「針」は摩耗していく。・・・・で、買い替えることになる。

 

アンプやカセットデッキと同じくらいの値段がする・・・・が、聴き比べてみると・・・・やっぱ、たっかい針のが音はさいこーにいい。

 

もちろん、オレが使ってるのは  アメリカ製の SHURE  だ。

 

アメリカ製のが、音にパンチが出る。

ヨーロッパ製のは繊細な音になる。

 

 

・・・・ってことで、レコードを再生しての録音作業には、メッチャ神経を使う。・・・埃、振動・・・・etc

「バイト」として請け負ってるわけだから、「完璧」なものを商品として渡さなきゃなんない。

 

「音飛び」はもちろんのこと、ノイズが多いってなこともNGだ。

 

 

売ってる商品より音がいい。

 

 

そういう意味でオレに依頼がきてるわけで、その御期待にそった商品に仕上げなきゃなんない。

 

 

最大の敵は「振動」で、

だから、レコードプレーヤーの下に油圧で振動を吸収するインシュレーターを設置してあった。

 

人間には感じないわずかな振動も、録音してみれば音への影響はけっこーあるからだ。

 

・・・・・ってこともあって、録音するときには、常にヘッドホンでモニターしながら行う。

たっかい SONY のに買い換えていた。

 

 

 

窓の外は、すーーっかり暗くなっていた。

 

 

・・・・・陽が落ちるのが早くなってきたな・・・・・もう冬だもんな。12月になる・・・・

 

 

頼まれてたアルバム2枚の録音が終わった。

パンをかじりながらインスタントコーヒーを飲んでいた。・・・・そう、遠山さんからのパン・笑。

 

 

・・・・・しっかし・・・・進の「頼み」ってなんだろうなぁ・・・

 

 

・・・・・・ら、玄関の開く音がした。

 

部屋の扉を開けて進が入ってきた。

部活が終わってからやって来たってわけだ。

 

 

ドスン!

オレの前に正座した。

 

 

・・・・・どしたの???   ・・・・・パンをかじる手が止まった。

 

 

「カズ・・・・免許ってどーやってとるがか?」

 

 

・・・・はぁ?・・・・はっはぁ~~~~~~~????

 

 

「おいは・・・おいは・・・バイクに乗りたか!」

 

・・・・もちろん九州弁で言ったわけじゃない・笑。

なんとなく、進と巨人の星の左門豊作が重なってたので、こんな感じで聞こえた・笑。

 

 

 

オレがバイクに乗ってるのは公然の秘密だ。・・・・・・「雀荘・カズ」のメンバーなら、みーーんな知ってる。

そりゃ、そーだ。

玄関に DT が置いてある・笑。

 

 

進は、玄関の DT を見るたんびに憧れたそうだ・笑。

 

 

気がつけば、乗りたくて乗りたくて我慢ができなくなったそうな・笑。

 

 

真面目な進のことだ。

無許可、隠れて乗るなんてできない。

 

親は説得した。

 

家では農家の手伝いで、肥料だのの買い物にも行かされる。・・・・店はけっこー遠い。

 

「家の手伝い」のため。

 

大義名分を得て免許をとることが決まった。

 

 

・・・・・が、どーすればいいかがわからない・笑。

 

 

車の免許は教習所に行けばいい。

 

しかしバイク・・・・・この場合のバイクは「原付」だ。

 

教習所じゃ受け付けていない。・・・・中型バイクなら教習場でも受け付けてくれるが・・・・

で、バイクなんてものに触れたこともない。もちろん乗ったこともない。

 

バイクに乗ってるヤツは、オレしか知らない。

 

「そうだ、カズに相談しよう!!」   ってことになったらしい・笑。

 

 

 

真っ暗な中・・・・田んぼの中の農道。

ところどころに外灯が立ってる。・・・・・そう、オレが紺野らと、無免許でバイクの練習をした場所だ。

 

そこに、DT で進を後ろに乗せてやってきた。

 

止まる。

 

進が降りる。

 

バイクの操作の説明をする。・・・・そのためにここに連れ出した。

 

 

右手の前輪ブレーキ。左手のクラッチ。右足の後輪ブレーキ。・・・・そして左足のギア。

・・・・バイクの運転方法を説明する。

 

オレの DT125 は立派なバイクだ。原付から比べりゃ格段に大きい。

無免許で乗れる代物じゃない。だから進に運転させるわけにはいかない。あくまで操作説明だけだ。

 

進が目を輝かせながら聞いてる・笑。

 

 

また進を DT の後ろに乗せて走る。

実地に操作を見せてやる。

 

後ろから進の興奮が伝わってくる・笑。

 

 

・・・・そっかぁ・・・絵に描いたような優等生の進も、バイクにはきょーみがあったか。やっぱ男の子やな・笑。

 

 

 

帰り際。

オレは、原付をとる時に使った問題集を進に渡した。

 

原付免許は学科だけの50問。90点で合格だ。・・・・・不思議な話だが、バイクに乗れなくても免許はくれる・笑。

 

進なら、1週間もあれば楽勝だろう。

 

 

「今度の土曜日、一緒に行くぞ!!」