まずは一曲聴いてもらいましょうか。



Blake Sheltonの『God's Country』。
ブレイク・シェルトンは1976年生まれのオクラホマ州出身のカントリー歌手。2001年『Austin』でデビューして以来、カントリー・ミュージック界のスター。最近だとオーディション番組『The Voice』の審査員役として大衆的にも知名度は高いですよね。
そんな彼の最大のヒット作となったのが「ここは神の国」と歌う2019年発表のこの曲です。前年の2018年に発表した『I Lived It』と併せて聴くことでより意味合いが分かるはず。そうそう、シェルトンにも『Hillbilly Bone』という曲がありました。

私は、アセラ・エクスプレス(ボストンとワシントンDCを結ぶ高速鉄道)に乗るようなビジネスマンの目から見たら、笑いの種になるような愛国者だ。
~(中略)~
私は祖母と祖父の両方から、自分たちは世界一すばらしい国で暮らしていると言われながら育った。そのことは、私の少年時代に大きな意味を与えてくれた。さまざまな出来事や混乱に圧倒されて苦しくなったときも、いつかきっとすばらしい日がやってくると信じることができた。ほかの国にはないような、すばらしい可能性を与えてくれる国に住んでいると知っていたからだ。そして今では、自分の人生は信じられないほどすばらしい、と思えるようになった。やさしくすてきなパートナーと出会い、子どものころに思い描いていた経済的な安定を手に入れ、すばらしい友人に恵まれながら、日々わくわくするような新しい体験を重ねている。
祖母の心のなかでは、アメリカはつねに、2番目の神だった。しかし、同じ地域で暮らす多くの人は、国家に対して、そのような信仰に近い気持ちを失っていった。
ヴァンスは『ヒルビリー・エレジー』の「はじめに」の序文でも
私は上院議員でもなければ、州知事でも、政府機関の元長官でもない。10億ドル規模の会社の創業者でもなければ、世の中を変える非営利団体を立ち上げたわけでもない。やりがいのある仕事に就き、幸せな結婚をして、気持ちよく暮らせる自宅があり、元気のいい犬を2匹飼っている、それだけの人間だ。
と記していますが、ヴァンス自身は海兵隊で兵役を済ませ、イェール大学のロースクールを出て投資会社の法律部門で働くホワイトカラーのエリート層。大学で知り合った妻との間に二人の子どもがいます。

「アメリカン・ドリーム」という言葉がありますが、このアメリカン・ドリームって、結婚して子どもを育て、息子とキャッチボールができて犬が飼え、日曜日には友人を招いてBBQができるだけの庭のある一軒家をエリートじゃないブルーカラーの労働者であっても「普通に」働けば手に入れられる。そんなロールモデルでしたよね。大金を稼いで成金生活、を意味する言葉ではなかったと思うんです。このドリームは成金の夢ではなく「中産階級の夢」であって。



そして、そんな「中産階級の夢」への約束こそが、ヒルビリーらの白人労働者階級のみならず世界中からアメリカン・ドリームを信じて移住して来た人びとの「アメリカ」に対する"信仰に近い気持ち"を担保してきたのではないでしょうか。
しかし、同じ地域で暮らす多くの人は、国家に対して、そのような信仰に近い気持ちを失っていった。愛国心は住民同士を結びつける絆であり、少年時代の私がそうだったように、苦しいときに助けてくれるものだったはずだ。だが、その絆は失われたようだ。
こうした状況は、そこかしこで見られる。投票権を持つ白人保守層のかなりの割合(約3分の1)がバラク・オバマはイスラム教徒だと信じている。ある調査では、保守層の32パーセントが、オバマは外国生まれだと回答し、19パーセントは、どこで生まれたかわからないと答えた。つまり、白人保守層の過半数が、オバマがアメリカ人であることすら疑っているのである。実際に私は、知人や遠い親類が、オバマについて、イスラム原理主義者とつながっているとか、裏切り者の売国奴であるとか、遠く離れた世界の端で生まれたなどと語るのを、たびたび耳にした。
私が子どもの頃までは、「分厚い中産階級こそが安定した民主主義を担保する」と常識のように語られていたはずなのですがいつのまにか聞かなくなりました。
当然ながら中産階級が瘦せ細っていけば健全な民主制は失われ、同時に健全な愛国心も失われていくわけです。
そして、夢破れた人びとに陰謀論を吹き込む連中が「実は民主党は外国人に乗っ取られている」とレイシズムなデマを流し「悪夢の民主党政権」とイメージを誘導させる光景は、日本でもお馴染みのものです。
白人労働者階級が本当に怒りを向けるべき「エリート」たちは、「インテリぶったリベラル」なんて無力な存在ではなく、ビジネス分野におけるパワー・エリートたちであり、リベラルではなく「ネオリベ」だったはずなのに上手いことすり替えられたわけです。

……『21世紀の資本』で有名なトマ・ピケティが「Brahmin Left vs Merchant Right」という言葉で説明して話題になっていますが、これが日本では商人右派の代弁者たちによって意図をすり替えられる様子が現在進行形で興味深い。『東洋経済』の「サンデル教授が語る「大卒による無意識の差別」」は一例ですが、なんとかしてリベラル批判を引き出したいインタビュアーと、人間に値段をつけてメリットの有る無しで計るメリトクラシーの問題に目を向けさせようとするサンデルという構図を読むと、今の日本においては「カルタゴ滅ぶべし」ばりにリベラルへの憎悪を表明するのがお作法としてある状況が見てとれますよね。

であればこそ、政権を奪還した民主党のジョー・バイデン大統領は初の施政方針演説で「米国を建国したのはウォール街ではなく中産階級であり、中産階級を築いたのは労働組合であった」と語ります。国の再興のためには、ピケティ言うところの「商人右派」との対決姿勢を強める必要があったのでしょう。

『ヒルビリー・エレジー』から続けます。
私の新しい友人の多くは、大統領に対するこうした見方を、人種的偏見であると非難する。しかしじつは、ミドルタウンの住民がオバマを受け入れない理由は、肌の色とはまったく関係がない。
私の高校時代の同級生には、アイビー・リーグの大学に進学した者がひとりもいないことを思い出してほしい。オバマはアイビー・リーグのふたつの大学を、優秀な成績で卒業した。聡明で、裕福で、口調はまるで法学の先生のようだ(実際にオバマは大学で合衆国憲法を教えていた)。
私が大人になるまでに尊敬してきた人たちと、オバマのあいだには、共通点がまったくない。ニュートラルでなまりのない美しいアクセントは聞き慣れないもので、完璧すぎる学歴は、恐怖すら感じさせる。大都会のシカゴに住み、現代のアメリカにおける能力主義は、自分のためにあるという自信をもとに、立身出世をはたしてきた。
~(中略)~
自分たちの生活がうまくいっていないことには誰もが気づいていた。死因が伏せられた十代の若者の死亡記事が、連日、新聞に掲載され(要するに薬物の過剰摂取が原因だった)、自分の娘は、無一文の怠け者と時間を無駄に過ごしている。バラク・オバマは、ミドルタウンの住民の心の奥底にある不安を刺激した。オバマはよい父親だが、私たちはちがう。オバマはスーツを着て仕事するが、私たちが着るのはオーバーオールだ(それも、運よく仕事にありつけたとしての話だ)。オバマの妻は、子どもたちに与えてはいけない食べものについて、注意を呼びかける。彼女の主張はまちがっていない。正しいと知っているからなおのこと、私たちは彼女を嫌うのだ。


バラク・オバマは経済学者の父と人類学者の母の間に1961年にハワイで生まれています。ロサンゼルスのオクシデンタル大学を経てニューヨークのコロンビア大学を卒業した後にハーバード大学のロー・スクールで法務博士号を取得。1992年から2004年までシカゴ大学のロー・スクールで憲法学を講義していました。2004年に43歳で連邦上院議員となり、その5年後の2009年に大統領に就任。
2010年代に入りいよいよ貧困が隠せなくなった中年の白人労働者階級に嫉妬するな、と言っても無理でしょう。自分たちの薄くなった頭髪と出っ張ったビール腹を包むオーバーオールの作業服姿と比べ、細身のスーツを身にまとう彼の姿には嫉妬どころか"恐怖すら感じさせ"、その妻のミシェルもプリンストン大学を卒業しハーバード大学のロー・スクールで学び、米国の六大弁護士事務所のひとつシドリー・オースティンLLPで弁護士をしていたエリート。ファーストレディーになると子どもたちの食生活の改善を呼びかけました。
"肌の色"以前にあまりに"正しい"人生を送っていることに対して、苦境にある白人労働者階級の少なくない者たちがオバマ家に対して強烈なコンプレックスを刺激されたのでしょう。
「黒人である」というよりも「エリートである。しかも正しく立身出世した」というオバマ夫婦に対し、どうにか「正しくない」ところを見つけてやりたい、そんな欲求がフェイクニュースを信じたい願望へとつながっていく。



そうそう、"民族意識の強いアメリカ社会"という視点で言えば、オバマとバイデンの「祖先はともにアイルランド人の靴職人」でアメリカ大陸に移住した時期もほぼ同じだという話は面白いですよね。一方で、ドナルド・トランプは母親がスコットランド出身。
あと、ミシェル・オバマ、彼女が新たに食育をテーマとした番組『Waffles + Mochi』を始めたけれど、登場キャラクターには日本の餅。やっぱ民主党政権期のほうが日本にも米国は優しいよな。
白人の労働者階級に広がる、このような怒りや冷笑癖については、誤解にもとづくものだと多くの人に批判されている。たしかに、一部の陰謀論者や過激な人たちが、オバマの信仰や先祖について、ありとあらゆる方法で、無意味なことを書きたてている。
だが、まともな報道機関はすべて、あの辛口で知られるFOXニュースも含めて、オバマにはアメリカの市民権があり、正常な宗教観の持ち主であるとたえず伝えている。
私の地元の知り合いたちも、主要なメディアがオバマについてどのような報道をしているのか、よく知っている。だが、彼らはそれを信じないのである。
~(中略)~
報道機関はほとんど信用されておらず、インターネットの世界を席巻する陰謀論については何のチェックも働かない。「バラク・オバマは私たちの国を破壊しようとしている海外からの侵略者だ」「メディアの報道は嘘ばかり」「白人労働者の多くは、アメリカに関する最悪のシナリオを信じている」……。
既存の報道機関を「マスゴミ」と呼び、インターネット上に流布されたデマを「ネットで真実」として受け取る少なくない人びとを知る日本の私たちにも他国の話とは思えないはず。

ここでまた音楽を紹介しておきましょうか。
まずは、Taylor Swiftの『You Need To Calm Down』。



テイラー・スイフトはカントリー・ミュージック界におけるトップ・アイドルですが、彼女は2019年発表の『You Need To Calm Down』でネトウヨ化してしまった人びとに対し「あなたは落ち着く必要がある」と訴えます。MVを見ればどこの国でもネトウヨ的存在のイメージは共通していることが分かりますよね。
そして、テイラー・スイフトは続けて翌20年2月に『The Man』を発表。メリトクラシー社会における勝ち組男性ヅラをする人びとも皮肉ってみせ、大統領選終了後には「あなたの前に吊り下げられた餌は芸術的な詐欺師の罠だったの。さあ私の手をとって」と『willow』で日常に帰ろうと歌っていく過程は時代背景とともに聴くことで意図が明確になります。面白いとは思いませんか?

カントリー・ミュージックは長らく「右翼の音楽」とイメージされてきましたが、若手はモーガン・ウォーレンのような事例はありますが変化を始めています。
きっかけとなったのが、2018年にケイシー・マスグレイヴスらが流行らせたカウボーイファッション「YEE HAW Agenda」が19年にTikTokで「#YeeHawChallenge」としてバズります。
この時、TikTokで使われたLil Nas Xの『Old Town Road』が大ヒットするのですが、カントリーミュージックの音楽チャートはこの曲を認めません。そこで彼は『Achy Breaky Heart』を過去に大ヒットさせたBilly Ray Cyrusとコラボしカントリーミュージックであることを明確化。これでカントリー・ミュージック界隈も無視をすることができなくなり、黒人でゲイであることを公言しているLil Nas Xがカントリー・ミュージック近年最大のヒットを飛ばしたのです。



ビリー・レイ・サイラスというと、ここ十年ぐらいはMiley Cyrusの父親というイメージの方が強いかもしれないけれど、彼の『Achy Breaky Heart』は、米国ローカルなカントリーミュージックでありながら世界的に大流行したダンスを真っ先に思い出しますよね。私も瓶ビール片手にいったい何度踊ったか覚えていないや。

カントリー歌手たちも「落ち着け」と危機感を持つインターネットで流布されるデマの数々をヴァンスは記します。
以下に、私が友人や親類から受け取ったメールの一部を公開しよう。

  • 9・11同時多発テロ事件から10年目に、テロに関する"未解決の疑問がテーマのドキュメンタリー番組が制作された。ラジオ番組のホスト役を務め、右翼として知られるアレックス・ジョーンズはその番組のなかで、あの惨劇の裏にはアメリカ政府の関与があったことを示唆した。
  • オバマが推進する医療保険制度改革「オバマケア」のもとでは、患者の体内にマイクロチップを埋め込むことを強制しているという内容のチェーンメールが出回った。この話には宗教的な含みがあるため、波紋はさらに広がった。聖書には、週末が訪れたときに「獣の刻印」が背教の証として使われると記されている。多くの人が、この獣の刻印は、じつは電子デバイスなのではないかと考えていた。実際、複数の友人が、ソーシャルメディアを使ってオバマケアへの注意を呼びかけた。
  • ニュースサイト「ワールドネットデイリー」に、ニュータウンで起きた銃乱射事件は世論を銃規制の方向に誘導するために政府が引き起こしたものだという趣旨の社説が掲載された。
  • 複数のウェブサイトに、オバマがまもなく戒厳令を発動し、3期連続での在任を可能にするだろうといの情報が載った。

  • 同じような話は、ほかにいくらでもある。実際にどれだけの人が、こういう話を信じているかはわからない。ただ、私たちのコミュニティの3分の1の人が明確な証拠があるにもかかわらず、大統領の出自を疑っているとするならば、ほかの陰謀説も、思ったより浸透している可能性が高いだろう。
    これは自由至上主義のリバタリアンが、政府の方針に疑問を投げかけるというような、健全な民主主義のプロセスとはちがい、社会制度そのものに対する根強い不信感である。しかも、この不信感は、社会のなかでだんだんと勢いづいているのだ。
    『ヒルビリー・エレジー』が発表されたのはオバマが大統領だった2016年。しかし、ここに記されたいくつかのの陰謀論だけでも5年後の世界に生きる私たちは、今も再利用されて使われ続けていることを知っています。
    例えば、オバマケアの医療支援を受けると体内にマイクロチップで「獣の刻印」が埋め込まれるという話は新型コロナウイルスのワクチン注射を受けると…という形になったり、選挙に負けたトランプが軍隊を率いて大統領に返り咲き…とか、 Black Lives Matterは他国政府に仕組まれたもので…とか主語を入れ替えて再利用されていますよね。
    同じものが繰り返し使われる陰謀論のパターンを知っていればフェイクに引っかかることもないのでしょうが、信じてしまう人びとというのはとても怠惰。
    夜のニュース番組は信用できない。政治家も信用できない。よい人生への入り口であるはずの大学も、私たちの不利になるように仕組まれている。仕事はない。何も信じられず、社会に貢献することもできない。
    社会心理学者は、集団で共有された信念が、一人ひとりの行動に大きな影響を与えることをあきらかにしている。一生懸命働いて目標を達成することが、自分たちの利益になるという考えが集団内で共有されている場合、集団内の一人ひとりの作業効率は、ほかの条件が同じで各自がばらばらに働いたときよりも高くなる。理由は簡単だ。努力が実を結ぶとわかっていればがんばれるが、やってもいい結果に結びつかないと思っていれば、誰もやらない。
    80年代で時間が止まったラストベルトの人びとのいじけた心性、日本の私たちにも身近に感じませんか?
    あまり日本にひきつけ過ぎて紹介するのも良くはないな、と思いつつ、どうしても私たちの身の周りにある諸々を考えてしまいます。
    また同様に、何かに失敗したときにも、同じようなことが起こる。失敗の責任を自分以外の人に押しつけるようになるのだ。
    私はミドルタウンのバーで会った古い知り合いから、早起きするのがつらいから、最近仕事を辞めたと聞かされたことがある。その後、彼がフェイスブックに「オバマ・エコノミー」への不満と、自分の人生へのその影響について投稿したのを目にした。
    ~(中略)~
    白人の労働者階層には、自分たちの問題を政府や社会のせいにする傾向が強く、しかもそれは日増しに強まっている。
    現代の保守主義者(私もそのひとりだ)たちは、保守主義者のなかで最大の割合を占める層が抱える問題点に対処できていない、という現実がここにはある。
    保守主義者たちの言動は、社会への参加を促すのではなく、ある種の疎外感を煽る。結果として、ミドルタウンの多くの住民から、やる気を奪っているのである。
    ~(中略)~
    たとえば私の父は、懸命に働くことの価値をけっして否定するような人ではなかったが、それでも、生活を向上させるはっきりとした道のいくつかを、信用していなかった。私がイェール大学のロースクールに進学すると知ったとき、父は私に、「黒人かリベラルのふりをしたのか」と言ったものだった。
    「大学に行くとリベラルになる」…日本でも同じように語る人いますよね。そして「大学出のリベラル」によって構成される「民主党政権は〇〇人に支配されている」とも。

    「Make America Great Again」と掲げるトランプが民主党政権を破って大統領に就くと、"保守主義者のなかで最大の割合を占める層"は困惑します。それまでのように"政府や社会のせいに"できなくなりました。そこで捻りだされたのが「Deep State」という架空の政府。「トランプ政権になっても人生が上手くいかないのは闇の政府があるからなのだ!」…安直すぎて笑えますよね。
    保守主義者を自任している人びとは本当に国のためを思うならこうしたものを煽るべきではないはずなのですが、極右にとって国民の貧困化はメリットがあり、保守派や商人右派はそうした極右からの支持に目先のメリットと媚びてしまう。その結果、右派は常に「正しくない」選択をしてしまい国を傾かせるわけです。
    民間助成団体ピュー・チャリタブル・トラストが支援する「エコノミック・モビリティ・プロジェクト」で、アメリカ人は、自分たちの生活が向上する可能性をどのように評価しているかについて、調査が実施された。その結果は衝撃的なものだった。白人の労働者階層は、ほかのどんな集団よりも悲観的だったのである。
    黒人、ラテンアメリカ系住民、そして大学で教育を受けた白人は、子どもの世代が自分たちよりも経済的に豊かになると答えた人が、優に半数を超えたのに対して、労働者階層の白人の場合は、44パーセントにとどまった。また驚くべきことに、白人労働者の42パーセントが、親の世代よりも自分たちのほうが貧しくなっていると回答したのである(これはほかの集団と比べても飛び抜けて高い割合だ)。
    2010年の時点で、私の考えは、この調査結果とはまったくちがっていた。現状に満足し、未来にも希望があふれていた。人生で初めて、自分をミドルタウンのアウトサイダーだと感じた。未来に希望を持っているがゆえに、私はこの町では異端者となったのである。
    と、ヴァンスは"現状に満足し、未来にも希望があふれていた"からこそラストベルトのアウトサイダーとなれたのだと言います。

    とはいえ、この衝撃的な数字も日本に持ってくればまだ楽観的なんですよね。
    同じ、ピュー・チャリタブル・トラストの調査部門Pew Research Centerが2018年に発表した調査結果によれば、日本での「子ども世代の未来は、親世代よりも良くなるか/悪くなるか」という質問に対し、良くなると回答したのは15%で、悪くなると答えたのが76%。
    日本人労働者階層の置かれた状況はヒルビリーたちよりもマズい。この現実を直視するところから私たちも始めないといけないはずです。



    リンクしてあるのは、Thomas Rhettの『What's Your Country Song』。
    トーマス・レット は1990年生まれのジョージア州出身。父親はRhett Akins。父と子で本名はThomas Rhett Akinsと同じ名前ですがRhettの部分だけを襲名するパターン。
    彼の新曲『Country Again』と併せて聴いてほしいところ。