―― 48 Universe (3)――

日本では年々「春節」の存在感が増してきているような感覚を持つのは私だけではないようです。
今年の春節は2月5日で、正月期間の終了を告げる元宵節が19日でした。
私としては、春節期間を終えたここ数日がめっきり春めいてきたことで分かるように、昔から「旧暦」の概念を復活させたほうが良いなと考えていたのだけど、大陸中国の存在感が大きくなった結果、という思わぬところから旧暦が日本で復活してくるとは思いませんでした。

アイドルの話題として春節に触れると、正月のテレビ特番(例えば『國光幫幫忙』や『我愛偶像』)に出演したAKB48 TeamTPを見たり、彼女たちの個人配信での会話を聴いていてホッとするのは、他から発信されるコンテンツと比べて日本と台湾のカルチャーの(相対的)近さに、あまり違和感を持たずに見ていられるからなんでしょう。この感覚、大陸中国にも韓国にも無い。韓国でも本当は共有出来るんだろうけど、やれば……。なかなか難しいだろうな。『我愛偶像』ではTeamTPに続いてnoovyで、始まりから2曲続けての日本語曲ってちょっと驚きましたし、元宵節の燈會(ランタン祭)の中継のカットインの仕方も。
そういえば『學生天團瘋音樂』での「どうしてAKB48という名前なの?」という質問に対し、秋元康とその遊び友達の名前の語呂合わせだという答え、知ってはいたけど公けに聞いたの、初めてかもしれない。

今のアイドルについて語るためには何ヵ国語必要になるのだろう? なんて思いつつ、松谷創一郎(1974年生まれ)が『PRODUCE48』に参加した高橋朱里にインタビューした「高橋朱里が『PRODUCE 48』で痛感した「日本と韓国の違い」」という記事の結びの部分を読んでいてちょっと気になりました。
ひとつ提案をするならば、ダンスや歌の実力を基準とし、海外展開も想定した新たなグループの誕生が望ましい。
言うなれば、AKB48グループ全体の精鋭チームだ。他グループとの兼任もなく、握手会もほどほどに、ダンスと歌を入念に磨いて曲とパフォーマンスに特化するようなイメージだ。
『PRODUCE 48』で高橋が吸収し、K-POPが当たり前のようにやっていることを、日本でもやるのである。
これって既に中国のSNH48グループがやっていることですよね。
2016年にAKB48グループから除名扱いになったSNH48グループは7人のメンバーを選抜して韓国でトレーニングを受けさせ7SENSESとしてデビューさせたけど結果は……。19年2月現在、SNH48グループは、完全にRocket Girls(火箭少女101)に市場を奪われています。
中国版『PRODUCE101(创造101)』で選ばれ、韓国本土の宇宙少女から孟美岐と吳宣儀の二人が異動してきたRocket Girlsに韓国式アイドル市場は抑えられ、AKB48の姉妹グループだと思って応援してきた客層がTeamSHに流れ始め、『创造101』に3人のメンバーを候補者として送り出し、その中から赖美云がRocket Girlsに選ばれたことでSING女团が中国のオタク層の間で「国風」として知名度が上がり始めた現在のSNH48の状況を語りつつじゃないと言葉が足りないように思う。
SNH48グループは出資した韓国の映像会社を足掛かりに韓国語曲を発表して7SENSESの韓国式アイドルとしての正統性を確保しようとしているみたいだけど、他の東アジア各国も同様に、韓国式アイドルの後追いをしたところでレプリカとかイミテーション扱いしかされないし、「その他大勢」となってしまう他のメンバーとそのファンの士気は一気に下がることがSNH48グループの先行事例としてあるわけです。
握手券を売るのではなく、ステージや音楽を売る方向へ進んで欲しいのは私も同意しますけど、「ひとつ提案をする」側にも、せっかく同じフォーマットの先行事例があるのだから、それを踏まえる知識って必要なんじゃないの? と疑問を持つ。

そういえば、いつの間にか「少女」という漢字が大陸中国でも普通に使われるようになりましたね。
一般的にgirlは「女孩」だと認識してきたけど、ここでの事例ならば、火箭少女、宇宙少女というように。あと、『创造101』にも参加していたTeam SHのエースである劉念のキャッチフレーズ「犬系少女」の「犬」の字も初めて見たかもしれない。中国語でdogは「狗」と表記するのが普通だと認識してきたから。
私にとって台湾「國語」が大陸中国の「普通話」よりも気楽に感じられる理由の一つに、漢字語の表現が日本語に近いことがあるのだけど、大陸中国も変わっていくのかもしれません。


野嶋剛(68年生)の『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』は日本と台湾のエンタテイメントを含めたつながりについての記録として面白かったので読んでみてはいかがでしょうか。
現役女性アイドルの話としてだと、台湾ルーツを公けにしているのはインディーズ部門で強いTask have Funの白岡今日花がすぐに思いつく。Team TPに参加するために台北に移住した小山美玲もそうか。『タイワニーズ 』に登場する蓮舫余貴美子ジュディ・オングらとも共通する台湾系日本人の顔立ちってありますよね。
そういえば、『PRODUCE48』に参加していた王怡人がEVERGLOWという新チームでデビューが決まったみたいだけど、番組放映時からずっと彼女の顔立ちってSNH48の林思意と似ているよなと調べたらやっぱり二人とも同じ浙江省出身。一人で密かに思っていたのだけど、誰もこのことを言っていないようだからここで書いておこう。

変わるべきは若い子たちでだけはなく、彼女たちを取り巻く大人たちの側(制作する側も客の側も)にもっとあると私は思う。
まずは日本のポップは低音域を強化してみましょうか。この2月に発表されたBABYMETALを輩出したさくら学院の『Carry On』など聴くと変化は感じられます。



リンクしてあるのは、ちゃんみなの『I'm a Pop』。
日本において、K-popを受容し発展させている一人という意味で紹介しておきます。
彼女のこの曲のリリックは自己紹介みたいなもの。
ここ数年、日本では「韓国人になりたい女子」という話題があるじゃないですか。K-popなどの日本人ファンがアイドルなどを見て「かわいい! 私も韓国人だったら美人に生まれたかもしれないのに! 韓国人になりたかった!」という発想。
それに対し、彼女は「韓国の血を引く私に嫉妬してみな」と煽ります。ただニッキー・ミナージュのような彼女のスタイルは「韓国人になりたい女子」の求めるものではないですよね。日本のK-popファンからは無視されています。
一方で、本場米国や日本のヒップホップを知らずにK-popアイドルのラップで育った彼女は日本のヒップホップ・リスナーから「あいつはヒップホップじゃない。K-popだ」という反応がある。
それに対するアンサーがこの曲なのでしょう。

いま日本で「韓国人」になりたがる女子高生が…なぜ?」という記事で、
それはただただ「かわいいから」だ。今10代には「韓国=かわいい」という方程式ができあがりつつある。SNSなどを通じて目にした韓国の姿が、歴史的背景や政治の問題を全く抜きにして、今の10代の「かわいい」と思う価値観にぴったりはまったのだ。
日本の現状に当てつけをするかのようにこれを是とする意見も時折見かけるけど、これはこれで問題あると思うんですよね。
数日前に韓国で論争になった「韓国政府、Kポップの「画一性」問題視した指針撤回 検閲との批判招く」みたいな背景も知っておいたほうが良いとも思うし、日本語翻訳されて現在話題になっている、



イ・ラン(86年生)の『悲しくてかっこいい人』とチョ・ナムジュ(78年生)の『82年生まれ、キム・ジヨン 』あたりは読んでおいたほうが良さそうです。
『悲しくてかっこいい人』は韓国のシンガーソングライターの目に映る「日本」での生活部分が興味深い。『82年生まれ、キム・ジヨン 』は日本語版における解説部分としてつけられた後書きが現在の韓国における男女間の問題についての簡潔な説明になっていて、18年秋の防弾少年団の騒動などを理解するためにも後書きだけでも読んでおいたほうが「面白い」と思う。そうじゃないと最近よく話題になる「文化盗用」問題に巻き込まれる。

ただ、「いま日本で「韓国人」になりたがる女子高生が…なぜ?」からもう一つ、
正直オルチャンメイクは男ウケが悪い。相手が韓国好きな男子や自分でも化粧をするような男子でない限り、この長いアイラインや真っ赤なリップは敬遠されがちだ。やっぱり男子はナチュラルメイクが好きらしく、ナチュラルメイクをしているときのほうが断然男ウケがいい。
流行っているとはいえ、この独特なメイクの良さを分かってくれる男子は少ない。モテもしないメイクをなぜ、女子はこぞってやっているのか……。
~(中略)~
「韓国人に寄せる」行為は一見奇妙にも思えるが、安室奈美恵のスタイルを真似する「アムラー」がいたように、憧れの存在に自分を似せようとするのは当然の行為にも思えてくる。
という部分。2010年代前半までの「女子力高めのモテかわコーデ」みたいなファッションが過去のものになりつつあることも注目しておいた方が良いと思うんです。
男性や大人の視線を拒絶する1990年代後半に「アムラー」から「ガングロ」「ヤマンバ」と進んでいく「男ウケ」を完全に無視したファッション、という意味においては「韓国人に寄せる」は共通したものなんでしょう。
この記事の中で紹介されているファッション誌『JELLY』の表紙の変遷を見るとよく分かります。



90年代に若者だった私は覚えていますけど、あの頃も「黒人になりたがる女子」みたいな切り口はありました。そして「黒人の何が分かる!」みたいな反応があったのも覚えています。
ついでに書いておくと、当時の若者として「アムラー」って言葉は無かったです。「昨日の合コンで会ったアムロ系の女がさあ~」みたいな使い方はしてたけど、「アムラー」ってのはテレビなどのマスコミ業界語であって当時の若者言葉ではない。

そういえば、ちゃんみなの以前のキャッチフレーズは「練馬のビヨンセ」だったけど、元ネタである「日本のビヨンセ」渡辺直美は母親が台湾出身で本人も生まれは台湾でした。
彼女たちがマージナルな部分を担っているのでしょうね。

それぞれのカルチャーには発声やダンス・ムーヴ含めた所作の身体性が含まれていると思うんです。
そこを無理にフラットにすることは、多様性を失わせて世界をつまらないものにするように感じる。
日本では「秋元康」なるものを嫌わないといけないような雰囲気ってあるけど、どうなんだろう? 私も音楽的には不満は多々あるけど、欅坂46のTAKAHIRO、AKB48のRuuに続いてSTU48の『風を待つ』にコリオグラフィーを付けたのは辻本知彦(77年生)で、彼はCirque du Soleilのダンス部門に在籍していました。
アイドルに全然興味ない人やK-pop原理主義者たちは日本のアイドルを「ガラパゴス」と言いたがるけど、このコンテンポラリー路線が確立されたら結構面白いと思うんだけどな。韓国でもLOONAの新曲『Butterfly』のステージを見ていたら寄せて来ているようだし。
数日前に発表されたYUKIKA(寺本來可)の『NEON(네온)』のMVは面白い。ジャパニーズ・シティポップって色々な国でやっているけど韓国で日本出身者を使って再現するとは。
タイで元BNKメンバーのCan NayikaをキャスティングしたTELEx TELEXsの『O-O(Ooh)』もAKB48グループ出身の彼女に日本人的所作の再現を求めてのものなんだろうな。

逆にBNK48の音楽ディレクターを担当するAeh Syndromeが一年前にBNKメンバーを使って1960年代スタイルのMV『ชู้กะชู้』を発表していたけど、数日前に発表された欅坂46のMV『Nobody』 も60年代スタイル。
こういうの、私は60年代をリアルタイムに知らないのだけど、日本人の所作も五十年経てば変化しているのでしょうね。
違いを楽しみつつ共通する部分も楽しむ。そんな感じ。


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リンクしてあるのは、SKY-HIの『Name Tag』ft. SALU、HUNGER、Ja Mezz、Moment Joon。
ここまで女性アイドルにおける日本と韓国の協業についてを書いてきたけど、「じゃあ、男性は?」ってなると、ヒップホップがあります。
SKY-HIは他にもReddy交互に曲を発表していますし、このMVに参加しているJa MezzとSALUは『Pink is the New Black』を発表しています。