共産主義にも王政復古にも馴染めず、1919年にハンガリーからドイツに移ったカール・マンハイムは、マックス・ヴェーバーの弟アルフレートに招かれドイツ屈指の名門校ハイデルベルク大学での講師職をスタートに、1929年、フランクフルト大学で教授職に就きます。

ところが、このマンハイムのドイツに移住した1919年という年は、ドイツ労働者党に一人の退役伍長アドルフ・ヒトラーが入党した年でもあるのです。マンハイムは1893年生まれで、ヒトラーは1889年生まれですから、ほぼ同世代ということになります。
ドイツ労働者党が1920年に国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)に改編され、ミュンヘン一揆の責任をとらされ獄中にいたヒトラーが著書「我が闘争」を発表したのが1925年から26年にかけて。

メモ垣露文

この「保守主義的思考」の論文発表は1927年ですから、本当にヒトラーとは同時代を生きていることになるのでしょうね。

保守主義的思考 (ちくま学芸文庫)/カール・マンハイム
メモ垣露文
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“政治的な保守主義的行為はそれぞれの時期における行為を意味するのであって、その特性をあらかじめ確定することはまったくできない。
これに反し、ある所与の事態において伝統主義的反応がいかに現われるかは、「伝統主義的態度一般」の形式からたちどころに算定できる。
ある革新(鉄道の敷設といった)の必要が生じた場合に、伝統主義的反応がいかに現われるかは、疑問の余地がない。
しかし、保守主義者もしくは政治的保守主義の意味においてある時代に行為する者が、いかなる態度をとるかは、当該の国と当該時期における「保守主義的運動」の特質と構造との認識にもとづいてはじめて大略のことが答えられる。
伝統主義的行為はほとんど純粋に反応的行為である。
「保守主義的」行為は意味指向的行為であり、時代により、また歴史的局面を異にするにつれ、さまざまに異なった客観的実質をもち、しかもたえず変化する意味関連に指向するものである。”

メモ垣露文

政治的行動としての保守主義と伝統主義の違いについてなのですが、保守主義による運動や思想が近代のなかで独自の思考を行なうのに対し、伝統主義による運動などは“反応的行為”であるとするのです。
ここでは鉄道敷設を例に出していますが、これはあらゆる革新や社会が変化することへの“呪術的不利益にたいする不安”への抵抗から始まる、とマンハイムは考えました。
現代でも、私たちが一般的に目にする保守派を自称、もしくは他称される組織や運動は、社会が変化していくことに対する不安や不満を旗印にして活動していることがほとんどだとは思いませんか。
これは“保守主義”ではなく“伝統主義”だと言うのです。

では保守主義とは何か、というのは、

“この保守主義的な体験と思考との本質的特徴のひとつは、直接に現存するもの、実際的に具体的なものへの執着である。ここから具体的なものに対する新式の、いわば感情移入体験が生まれるのであるが、当時、「具体的」という言葉が反革命の標識として用いられていたことのなかにその反映を示すことができる。
~(中略)~
ロマン主義化されていない保守主義は、つねに直接的な個々の場合から出発し、自己の特殊な環境を越えてその視野を拡大しない。
~(中略)~
保守主義的改革主義の本領は、個々の事実を他の個々の事実と交換(代替)すること(改良)にある。
進歩主義的改革主義は好ましからざる事実に対して、このような事実を可能にさせている世界全体を改造して、この事実を除去しようとする傾向をもつ。”

メモ垣露文

保守主義とは徹底して現実から離れることなく地に足のついた行為を指向するものであるとするのです。
レジーム(体制)の中で問題点を洗い出し、その改良点を具体的に提示し改善していくのが保守主義である、と。
進歩主義的改革というのは、そうですね、例えば原子力発電の問題など分かりやすいのではないでしょうか。原子力発電そのものを除去しようとする傾向を持っていますよね。そういうことです。
では、現在の日本で保守主義はあるのでしょうか?
原子力発電所を除去したいと望む進歩主義者に対し、彼らを揶揄してみせるのは保守主義者の仕事ではありません。
何故、爆発事故が起きたのか、このことに対しこれまでの問題点をチェックするのが仕事であり、起きてしまった事故への対応策や具体的な改善点を提示するのが本当の保守主義者のはずですよね。
これが、将来的にはより安全な原子力発電が出来るようになるから問題ない、なんて言ってしまったら、単なる夢想家であって、“具体的”であろうとする保守主義者ではありません。


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リンクしてあるのは、アルメニア系移民の息子たちがロス・アンジェルスで結成したSystem Of A Downの「B.Y.O.B. 」。