朝、新聞を読んでいたのですよ。
私がここ10年くらい、どこが流したデマだったのだろうと考えていた問題の答えがあってスッとしました。
デマというのは、「ゆとり教育で円周率は3になる」という大嘘。
曖昧に、たぶん団塊Jrが教育期間を終えて、少子化が目に見えて問題になり始める頃に、受験産業か私立校が流したデマだろうな、とは思っていたのですが、明確に書いてあって、やっと納得。
このデマの出どころは、横浜を中心に展開する中学受験予備校の日能研。

メモ垣露文
引用は「朝日新聞」2012年9月6日より

“「3.14が3になる」
「さよなら台形君」
1999年秋、大手学習塾「日能研」が関東一円で新聞の折り込み広告や駅のポスターでそうした宣伝文句をうたった。
~(中略)~
私立は土曜日も授業をしている。公立と比べて教育内容も濃くなる。その私立の受験生を募集するには、格好の宣伝材料だった。
~(中略)~
日能研は、文部省のその後の発表で円周率や台形の面積を教えないわけではないと理解し、キャンペーンを3回で打ち切った。だが、宣伝はメディアを通じて紹介されていった。
98年7月から就任していた有馬朗人(81)は、この新学習指導要領の準備を進めた中央教育審議会会長も務めた。「学校はきつきつの授業で生徒を画一的に教え込み、ゴムが伸びきったような状態で大学に送り込んでくれるな」。口癖のようにそう言って、全国を回った。
有馬は今、こう回想する。
「受験人口の減少で危機感を持った私立には公立の教育内容が薄くなるという情報は渡りに船だった。この宣伝と結びつき、新学習指導要領の不信感を結果的に高めたのではないか」”

有馬朗人は、当時、東大総長などを経て自民党参議院議員から文部大臣に就任していました。

こうした受験産業や私立校によるプロガパンダ・キャンペーンが1990年代後半から激しくなっていったことを覚えているでしょうか?
少子化で受験人口の減少を食い止めるために様々なデマが流されていて、10数年経った現在でも、そういったものを、まだ信じている人びとがいることに、私はけっこううんざりしているのですけどね。
同じ頃に、もう一つ流されたデマがあります。これもいまだに信じている人がいますね。

運動会の徒競争で、手をつないでゴール。平等教育の弊害だ!ってやつ。
これもちゃんと書いておきましょう、デマです。

こちらのほうは、もともと身体に障碍を持つ生徒を体育にどう参加させるか、という話の流れで出てきたもので、身体が上手く動かせない児童を他の児童の介添えによって支援して、ともに体育や運動会を楽しもう、という話を曲解して“平等”批判に結び付けたかなり悪質なデマ。
同じように、公立校は平等が行き過ぎて競争原理が働かないから、ぜひ私立校を受験しましょう、って使います。

メモ垣露文

こうした広告というかプロパガンダというか、といったものをビートたけしとかやしきたかじんのような芸人さんが、政治風テレビ漫談で笑い話に使うと、“笑い”と捉えないで本気で受け取るお馬鹿さんが世の中には大勢いるのですよね。彼ら自身も困っているのではないでしょうか、ボケたんだからつっこめよ!って。

で、こうしたお馬鹿さんたちなら、簡単に騙せて金や票になると思うと、政治家のなかでも質の低い連中はすり寄ってきます。

なかでも特に悪質だな、と私が思っている事件は“七生養護学校事件”と呼ばれるもの。
東京都立の養護学校で、知的発達障害を持つ生徒に性教育を行なっていました。生徒が知識もないままに性行為をすることを予防するために。
発達障害がある子どもたちにですから、当然ながら、自分たちで工夫して作った人形などを使い分かりやすく図解しながらです。
ところが、その人形や図といった教材を見た都議会に巣食う極右議員たちは、これは商売になると思ったのでしょう。ジェンダー・フリーが教育を汚染して子どもたちを性的に乱れさせようとしている!と大騒ぎを始めると、2003年には、3人の都議会議員と産経新聞記者が養護学校に乱入して暴れ、止めようとした教員たちを脅迫し、彼らの意を受けた東京都教育委員会は、校長以下、養護学校の教員たちに降格や停職の処分を行ないました。
この騒ぎに便乗して自民党清和会系議員と産経新聞社などは、子どもたちを守れ!とプロパガンダ・キャンペーンを開始。公立校での性教育を制限させます。

メモ垣露文

日本独自のものじゃなくて、もともとは米国の宗教右翼のパクリなんですけどね。
これはさすがに自民党清和会の宗教右翼系議員を支持している人びとくらいしか、公立校の教員はジェンダー・フリーの名のもとに、子どもたちを性的に乱れさせるために活動している!なんてのは信じてはいないでしょうが。


教育に関するデマは多いものです。
私立校や受験産業の経営戦略からのもの。宗教右翼系政治家の教育への介入を正当化するためのもの。このあたりが発生源になるのでしょうけれど、ひとつだけ特徴的なものがありますね。
学習障がいを持つ子どもに分かりやすく算数を教えよう、身体障がいを持つ子どもに介助を受けながらも体育に参加してもらおう、知的発達障がいを持つ子どもに自分の身を守るための性教育を教えよう。
そういったボトムアップを図るような教育に対する徹底した敵意です。

出来ない人間は切り捨てろ!それはそれでひとつの価値観かもしれません。
ただし、デマをデマと見抜けないような人がそれを言ったら“お笑い”だとは思いませんか。