難しくならないよう、複雑にならないように書こうとして、すっごい悩んでいるのですが、できるだけ簡単単純に書こうとしていますので、そのあたりは先に謝っておきます。
とても単純化してあります。ツッコミは本人が一番よく分かっておりますので、お手柔らかでご勘弁を。


経済を実際に働く者の手に取り戻そうという運動は二つの方向に分岐します。

片方は、政府の力を弱めて国民の手により経済をコントロールしようとするもの、それをアナルコ・サンディカリスムと呼びます。アナルコとは“無政府主義”なんて訳されて、日本語のカタカナでは、“アナキズム”と表記されます。
メモ垣露文
社会主義者や共産主義者が赤旗を持つのに対し、アナキストは黒い旗を持ち、ケモノ化する時には黒い山猫で描きます。
そういえば、私が子どもだった1980年代にはまだ“山猫スト”なんて言葉がニュースで流れていて、ネコが工場や鉱山に立て籠っているの?なんて考えてた記憶があります。

メモ垣露文

無政府主義・・・これも誤解を生じさせる訳語ですが、非統制主義とでも訳したほうが良いかもしれません。民衆に対してむやみに権力をふるうことを抑制した体制、くらいに思っておいてください。無政府というと無秩序みたいですから。
権力による統制を嫌う思想ですから、定義は曖昧。市場原理主義なんて呼ばれることもあるリバタリアンたちのことを“アナルコ・キャピタリズム”と定義することもできますからね。

メモ垣露文

以前(擬人化第48回)にも使った画像ですが、アナキストの自画像的なケモノは山猫ですが、否定的に見る側からはサソリで表現されています。タコは独占資本家のケモノ化です。


一方で、政府の統制を強めていくのがファシズムの手法です。

メモ垣露文

1934年のイタリアのファシスト党本部ですが、なんかすごい迫力だと思いませんか。
統制を強める必要から、ファシズムはとても強い権威主義の傾向を持ちます。ムッソリーニの考えでは、国家資本主義と国家社会主義の両方の上位に位置する思想だということになっていますから、正にアナキズムとは対極に位置することになります。

ファシズムも社会改革の一形態であったのですが、その権威主義的な性格から、権威に魅かれるポピュリストたちを引きつけてしまいます。
“未開で野蛮”な“大衆”を支持者として抱えることになり、それが最も先鋭化したものがヒトラー率いるナチス党という風に位置付けてみましょうか。

メモ垣露文

後にナチス・ドイツで国民啓蒙・宣伝省の大臣となるパウル・ヨーゼフ・ゲッベルスは、“野蛮な大衆”に向けて、さらに大衆化したパンフレットで説明します。

ゲッベルス―メディア時代の政治宣伝 (中公新書)/平井 正
メモ垣露文
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“彼は無知な党員にナチズムのイロハを簡潔な問答形式で解説した初歩的な啓蒙書『国民社会主義者入門』を書いており、そこにはナチ運動家に変身したゲッべルスの政治的姿勢のエッセンスが、大変わかりやすく表現されている。それは救世主に同一化したヒトラーを通じて実現しようとした彼の夢想のイデオロギー的綱領化として興味深い。そのさわりを引用しよう。

《 公益は私益に優先!
国民社会主義者各人の第一の掟は何か?
  何より以上に愛するドイツ!

国民社会主義者の自由の考えはどんな目標を立てたか?
  実直に仕事をしているすべてのドイツ人の民族共同体!

 なぜ国民社会主義ドイツ労働者党か?
労働者党は今日でも国家的(ナツイオナール)であり得るか、またあってよいか?
  あり得るし、あってよいだけでなく、労働者党は国家的でなくてはならない。民族(フォルク)の問題は国民(ナツイオーン)の問題だ!

国家的という概念と社会主義的という概念は矛盾し合わないか?
  否、逆だ!本当に国家的な人間は社会主義的に考える。そして本当の社会主義者は最良の国家主義者だ!

なぜ労働者党か?
  実直に仕事をするドイツ人はいずれも、ドイツの労働者だからだ。

  ユダヤ人とドイツ人
ドイツの新聞の多くは誰が書いているか?
  ユダヤ人だ!

将来それは誰が書くべきだ?
  ドイツ人だ!

  若者
今日のドイツの若者には何が欠けているか?
  イデーと指導者だ。

  指導者
誰がドイツ民族の指導者たるべきか?
  ドイツ民族共同体の中の最良で、もっとも高貴で、もっとも勇敢な人物だ 》 ”

メモ垣露文

この同じ時期に、社会主義革命を実行したはずのソビエト連邦ではスターリンがやはり権威主義に基づく支配体制を確立しており、ヒトラーは、そのスターリン率いるボリシェヴィキの中央集権と権威主義による支配をモデルに組織を作り上げたと言います。

ナチスに関して、私がどんな印象を持っているかは「散歩話第11回」でも書いているので、もし時間があれば、そちらもどうぞ。

大衆の反逆 (ちくま学芸文庫)/オルテガ・イ ガセット

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オルテガ・イ・ガセットは、こう書きます。

“ボルシェヴィズムとファシズムは、ともに似て非なる夜明けである。それらはいずれも明日の朝をもたらすものではなく、すでに一度ならず何度も何度も使い古された古風な一日の夜明けをふたたびもたらしたにすぎないのである。要するに両運動とも野蛮性への後退なのだ。”

「なんとかこれをやめさせる方法があるはずだ。これは雷や地震じゃねえだからな。人間のつくった悪いものがあるとすりゃ、そいつは変えることができるはずだ」
という農夫の思いは裏切られることになるのです。



ザ・ベスト・オブ・セックス・ピストルズ/セックス・ピストルズ

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リンクしてあるのはSex Pistolsの「Anarchy In The UK」。
もちろん、自律した個人が連帯して社会を構成するはずだったアナキストの側にも、ただ暴れたかっただけの大衆が加わるのは止められないのですけどね。