感想など

以前評判だった映画が、10日にNHKで放映されたので見た感想。

 

戦時中の満州関東軍が行った細菌兵器の人体実験の証拠資料を入手した日本の商社社長が、その残酷さを世界に知らしめて軍国主義を壊滅させようとする信念を描いている。やはり、黒沢監督流の意表をつく意外性を散りばめて、スリリングでミステリアスなエンターテイメントに仕上げていた。

 

社長が満州に出張したとき、親戚の社員を同行した。その社員が関東軍の看護師だった女性と証拠資料を携えて帰国したのだ。社員は証拠資料を英訳して社長に渡す。ところが看護師は殺される。一見ミステリーかと思わせたが、それは単なる痴情事件で、証拠資料の隠匿と憲兵隊の攪乱、そしてアメリカへの持ち出しが、スリリングな展開になって手に汗を握る。

 

社長は妻を愛しているし、軍部の醜部をを暴こうとする信念を持つ妻はどちらかと言えば夫婦の幸せを望んでいる。妻の葛藤が夫のやろうとすることを幼馴染の憲兵隊長と板挟みになるのだが意表をつく展開がスリリングに展開する。憲兵隊長は妻の幼馴染で妻に好意をもつが、憲兵としての信念をもっている。そんな憲兵隊長は、タレこみで妻を逮捕し「売国奴」と詰るが、妻は発狂と言う芝居で騙す

 

結末がなんとなくぼやけているが、想像すればどこか洒落ている。社長さんは、インドからロス行きの船に乗ったが、日本軍の潜水艦に沈められたと風聞があるのだが、それは偽造の報告書だとあり、戦後数年して、妻はアメリカに渡ったと文字で出る。社長が死んだのは嘘でアメリカで生きており、妻を呼び寄せたのかもしれない暗示鍵は「妻の亡命を密告したのは誰か」であり、疑いを受けないフイルムを持たせた夫であろうと推理できる。そのとおりだとするとこの映画の結末はハッピーエンドだったのだ。

 

ヒロイン妻役の蒼井優さんは、どうも小津映画の原節子さんを真似ているしゃべり方だが、戦時中の女性と言う感じがなく、夫の高橋一生さんも戦前のやり手の商社マンとはほど遠い。憲兵分隊長の東出昌大さんに至っては、カッコよすぎて生え抜きの軍人とは到底見えない。そんなキャストで歴史性も戦時中の息苦しさゃセット撮影が紙芝居的な娯楽映画となって面白く楽しく見られるのだろう。

 

妻が国外に逃げ出す方法として木箱に入る場面では、日産自動車のゴーン元会長がレバノンに脱出したことを連想させ。愉快だった。憲兵隊がスパイの取り調べで、犯人の爪を剥がす拷問は、あまりにも中世的なやりかただから、やったとすれば戦後裁判では、戦犯として絞首刑かもしれぬ。映画の中に山中貞雄監督の「河内山宗俊」が劇中映画としてが出ていて、やはり黒沢監督が敬意を表しているところがよくわかる。

 

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