「気紛れにそなたは歓喜と災害をところかまわず植え付けて、

       一切支配するが、責任は一切持たぬ。」

                                (ボードレール「悪の華」より )

                                               

概略

父小池勇次郎は石油を扱う貿易会社社長だが、権力者や大物に近づき可愛がられ引き上げてもらうタイプでその性格は父譲りだという。父は選挙で落選している。彼女は1952年、芦屋市生まれだ。公立小学校から甲南女子中学・高校に進む。英語が得意で英語劇や弁論では目だったようだ。大学は関西学院に進むが、英語よりもアラビア語の役立つと1年で退学して、エジプトのアメリカン大学へ留学してアラビア語を習い、1年後にカイロ大学2年に編入出来たという。

 

1976年カイロ大学を首席で卒業してピラミッドの頂上で和服を着た記念写真が残っている。それは1982年発刊の自書「振袖ピラミッドに登る」に書かれたもので、実は当時のカイロでの同居者の証言から多くの疑問点を掲げている。第一は難解なアラビア語を留年なしに習得できるはずがない。「1976年彼女は進級できず卒業していません」と言う。また、卒業証書を2年後に取得したという卒業証書が偽物であるという指摘だ。

 

1976年彼女は日本に帰国。父の顔で大協石油に嘱託として接待役をやるが、なんとかマスコミ関係を希望。1978年エジプト大統領夫人インタビューを皮切りにカイロ大学卒業の肩書がうまく活用でき竹村健一「世相講談」にアシスタントを6年務めた。次に1985年「ワールドビジネスサテライト」のキャスターの座を得た。1992年、細川護熙の「日本新党」から国政に進出することになる。40歳。

 

見事当選して「新党」の広報を担い党首細川にいつもいて顔となった。そして細川政権が誕生すると彼女は総務政務次官となる。ところが細川政権は八か月で崩壊。そのご、社会自民の村山政権になると彼女は小沢一郎に接近小沢の「新進党」に行く。新進党解党後は小沢「自由党」に行く。1999年自民・自由連立の小渕内閣で経済企画政務次官を務める。2002年自民党に入党。自由党はは、自・自・公の連立に参加後、小沢が離脱。小池は保守党に参加。小泉政権が誕生すると小池は自民党に入った。2003年の小泉内閣で環境大臣として初入閣。「クールビズ」という言葉を流行らせた。

 

小泉と組んだ小池は東京10区で刺客として立候補し当選したのだ。安倍政権下で                                                                                                 2007年女性初のの防衛大臣、2008年福田内閣辞任後の自民党総裁選に出馬し敗れる2010年自民党総務会長。東京都では、石原・猪瀬・舛添と知事が軒並み辞任した。2016年東京都知事選に立候補すると表明無所属で出馬。当選後は、「都民ファーストの会」「希望の党」を立ち上げたが野党再編成の中で「希望の党」は小池の一言分裂消滅する。

                                                  

                                   1982年発行              キャスター時代

感想

この本が出て話題になった頃、小池知事に記者が「読みましたか?」と尋ねたとき「読んでいません」とあっさり無視するよう答えたのをテレビで見たのを思い出した。たまたま手に取って読んでみるとたしかに、小池氏はたとえ読んでいたとしても読んでいないと答えるだろうと納得した内容だった。とにかく、240点にも及ぶ引用した文献資料が巻末に示され、他に100人もの関係者の証言も得ているとのことだ。内容は小池氏にとってネガティブな内容で、本人が肯定も否定もしたがらない筈のものである。

 

著者は小池氏の人物像を過去のいろいろな資料や証言を駆使してある意味ネガティブなイメージを強調し、政界では常に権力の傍らにいて自己顕示力を発揮し、無責任な言動を繰り返していると書く。権力を目指す手法として「人を興奮させる所作や過剰な表現。饒舌で耳触りの良い演説。敵を作り出して戦う姿勢で他者の共感を得る」とある。たしかにそんな感じはある。しかし、「商売をするには言いたくないお世辞もいう」という商人の本音と何ら変わりはない。

 

著者が力を入れているのは、ベールに包まれたような十代後半から二十代前半のエジプト留学の実態を小池氏の著書や当時同居していたという人達の証言などからの実態の解明である。著者は小池氏は、エジプトのカイロ大学を首席で卒業したことは真っ赤な嘘だと断じてた。卒業証書は偽物だという。エジプトの大学は日本の大学とは実態が全然違う。水掛け論として立証するすべはないようだ。学歴詐称は決定的なサギであるが水掛け論であろう。 小池氏の経歴を見ると竹村健一をはじめ政界では時の権力者に常に寄り添っていたことが解る。そこには自身の主義主張や哲学で動いたことが見当たらない。

 

冒頭、フランスの詩人ボードレールの「悪の華」の一節が掲示されている。この一節は多分、権力を得た者の自分勝手さを象徴的に表現したものと思う。たしかに政治を支配する者の権力に対する志向の汚らしさがよくわかる。しかし、考えてみよう。権力志向のない自己保身であっても 陥る精神構造でもある。「権力と寝る女」「政界渡り鳥」「過去は顧みず先だけ見てる」。それはどんな政治家ももっている普遍なものだ。

 

著者のネガティブな主張は、多分正解な部分があると思う。的を得てもいるはずだ。ただ、現実は現在彼女は東京都都知事であり、オリンピックを実施し、コロナ対策でテレビや新聞、その他活躍している姿をわれわれに見せている。想像だが小池都知事を助ける都庁の役人たちは小池氏に振り回され、ご機嫌をとり、人柄に共鳴できず、恐れながら都政のために協力している筈だ。  

 

最後に独断と偏見による小池百合子氏の今後を推察する。彼女が求めているのは、国民の幸福でも平和でも奉仕精神でもない。著者が最初に触れていたが、生まれつき持っていた右の頬にある痣によるコンプレックスからか生じる「みんなからうらやましく思われたい」羨望志向だろう。彼女の人柄は決して他人に好かれない。権力者に利用され、利用して頂点を目指す。それは自己顕示欲と一体のもともいえる。都知事を辞めたとしたらやはり総理をめざすかもしれない。もし、成就できるとしたらそれは選挙で自民党が完敗した時だが、おそらくないだろうと本書から感じた。

 

なお、著者石井妙子氏は「原節子の真実」という書も刊行している

同書の感想も記事にしているので掲載したい。