「理由は分からんが宝石に憑りつかれていたんだ。
あれ以外、考えられなかった。」
(「ガス燈」からグレゴリーの言葉 )
あらすじ
ポーラ(イングリッド・バークマン)は両親に早く死なれ、ロンドンのソーントン街に住むオペラ歌手の叔母アリスの元で育った。ところが叔母が突然、絞殺されるという事件が起こる。そんなポーラは、その事件を忘れるためイタリアに留学したが、留学先のイタリアでグレゴリー(シャルル・ボアイエ)という作曲家と相思相愛になり結婚し、グレゴリーの希望で叔母の邸宅に再び住むことになった。
ポーラは偶然、事件三日前叔母にお会いしたいと言うバウワーと言う人の手紙を見付ける。グレゴリーは一瞬、顔色を変えその事は忘れろと諭す。三か月後、グレゴリーはポーラを誘いロンドン塔の見学に行く。その際、グレゴリーはブローチをポーラの手提げに入れた。途中、ポーラは手提げにブローチのない事に気づき落としてしまったと気にして帰る。グレゴリーは、ポーラが忘れっぽく、疲れていると常々言うようになる。
探偵のカメロン(ジョセフ・コットン)は、10年前に殺された歌手のアリスに憧れていた。そのため、アリス邸に姪が再び住み始めたことに関心を持った。警察署長に会い事件の関係書類を見せて貰い、事件がある筋の依頼で捜査を打ち切ったことを聞く。ダイヤモンドが見つからないことに関連しているようだった。カメロンは近所のミス・スイッツ(メイ・ヴィッティ)を誘いポーラに会いに行くが、なぜかグレゴリーは会わせなかった。
メイド達はグレゴリーからポーラが病気だと吹き込まれていて親密になれなかった。またポーラはグレゴリーしか頼れず孤独を感じていた。そんな中、部屋の絵が無くなっているのはポーラの意識しない行動だとグレゴリーは決めつけた。その夜グレゴリーが仕事場に出かけた後、一人でいる部屋でガス燈が暗くなり、足音が聞こえたためポーラは、得体のしれない恐怖感を感じていた。
ある日、バッキンガム宮殿でダルロイ卿のパーティが行われることとなり、親交のあったポーラは出たいと言った。渋ったグレゴリーだが強く言われたので一緒に出る。そのときグレゴリーは懐中時計をポーラが手提げに入れたと責めた。そのため、ポーラは取り乱したため急遽帰宅する。帰宅後、グレゴリーはポーラの母親は発狂していたと明かし、近くポーラを医者に見せたいと告げる。
パーティに居合わせたカメロンは、ポーラが帰ったので密かに後を追う。するとグレゴリーは外出したのに、再び裏口から戻ることに不審を抱く。そして巡回の警官に協力を頼む。そしてポーラが入院させられそうになると知ったカメロンはグレゴリーが外出したあとにポーラを訪ねて無理やり会い「私は病気」と言うポーラに「君は正常だ」と告げ、グレゴリーの物入れをこじ開け調べる。そこにはバウワーから来た手紙が入っていて、バウワーとグレゴリーは同一人物で、叔母の伴奏者だったと分かる。
カメロンはポーラにグレゴリーにはプラハに妻がいると教える。それを聞いたボーラは「今までの事は、みんな夢だったの。」と我に返る。そんな中、屋根裏を家探ししていたグレゴリーが玄関から戻って来た。とうとう探していた彼は念願のダイヤを見付けたのだ。待ち構えていたカメロンは、「お互いが今夜目的を遂げた」と言ってグレゴリーを椅子に縛りつける。
グレゴリーはポーラに「見逃してくれ」と哀願する。ポーラは「見逃したいけどわたしはおかしいのよ。あなたが捕まっても後悔も同情もしない」と告げる。それを聞きグレゴリーは「理解してくれなくてもいい。理由は分からんが宝石に憑りつかれていた。あれ以外考えられなかった」と叔母のダイヤを奪うことを企てていたことを認め警察に逮捕される。
感想など
ある未解決殺人事件で見つからなかった高価なダイヤ。それを再び探すため被害者の姪と結婚した犯人の作曲家は、姪を心神喪失状態に陥れ消えたダイヤを家探しする。それを見抜いた探偵が姪を助けるため奮闘し犯罪をあばくというもの。ロンドンの霧にむせぶ夜景の中にぼんやりと霞むガス燈と屋内のガス燈の点滅。家探しする夫の足音がヒロインの不安感を象徴している。イングリット・バークマンとシャルル・ボワイエが火花を散らす熱演が見もの。
悪辣な作曲家が妻を陥れる手法が巧妙でずる賢い。使用人達に妻が神経衰弱の病気だと風潮して、刺々しくさせる。また、自ら妻に物忘れや妄想をさせるような小細工を徐々にして、あるときは優しく、あるときは高圧的に精神状態を不安定にさせて行き母親も気が狂い死んだと恐怖を煽り、財産を独占しようと計る。
妻の方は、両親を早く亡くし、有名歌手の叔母と共に暮らした。その叔母を殺人という事件によって天涯孤独となる。元々神経過敏な妻は、温かく接してくれた作曲家に心を奪われ、巧みな接し方に依存心すら持ってしまう。そんな夫からマインドコントロールされて心神喪失状態の直前まで至らしめられるイングリット・バークマンの演技が素晴らしい。
犯罪被害者の恐怖と探偵による未解決殺人事件の解決というミステリー仕立てだが、人間が孤立したり、閉鎖的集団に閉じ込められた恐怖をも描いている作品だ。孤立した人間は自己中心になりやすいし、閉鎖された家族や組織が独りよがりで世間の常識から遊離する例は多い。ヒロインには繊細さという特質があるにせよ、閉ざされた夫との生活では、客観的な判断が封じられてしまう悲劇が痛ましい。
探偵によって、夫が10年前に犯した叔母の殺人者であり、そのとき盗ろうとしたダイヤを再び見つけに来た犯人であることが明らかになる。また、夫によって心神耗弱者だと自己暗示させられた妻に間違いだと納得さる。そんな悪辣な夫の正体を知り、怒りをぶつけるラストのヒロインの激しい会話のやり取りは圧巻だ。
最近、親の暴力で幼児が亡くなったことが目に付く。しつけと暴力をはき違えている。周囲との交流があれば、親はその判断が出来ただろう。しかし、隣の家族は、幼児の泣く声を聞いてもなんら対応が出来なかった。密室での虐待である。昔の話だが赤軍派やオウム真理教の暴走は、その閉鎖されて客観性を見失った集団の悲劇でもある。プライバシーの問題はあるが、閉ざされた世界には危うさが潜んでいることを忘れてはならない。
GALLERY

タイトル ポーラは留学先でグレゴリーと出会い結婚する


二人は殺された叔母の屋敷に住むことになる 叔母の財産はそのままになっていた


二人の外出時、叔母のフアンだった探偵カメロンと会う カメロンは殺人事件の詳細を署長から聞く


カメロンとスイッツはポーラに逢おうとしたが断られる ポーラはガス灯の点滅や足音に恐怖を感じていた


パーティで取り乱したポーラ グレゴリーはカメロンを知っていると邪推する


カメロンはグレゴリーの行動を怪しむ カメロンは料理番にポーラに会わせろと頼む


天井裏から足音が聞こえるので不審がるポーラ 巡回の巡査はグレゴリーの行動がおかしいと言う


カメロンはポーラを庇う グレゴリーはバウワーという叔母の伴奏者だった


グレゴリーは衣装の中にダイヤを見つけた ポーラは夫の正体を知り、混乱する


部屋に戻ったグレゴリーをカメロンに渡すポーラ グレゴリーを巡査は縛りポーラと話をさせる


怒りをグレゴリーにぶちまけるポーラ 宝石にとりつかれていたと言うグレゴリー