「父と母の様子から父のイメージが変わり始めた。

               父のことをなにも分かっていないと気づいた。」

         (「エル・スール」からエストレーリャの言葉 )

あらすじ

1957年秋のスペイン北部のバスク地方に住む15歳の少女エストレーリャ(ソンソーレス・アラングレン)が、朝目覚めると母フリア(ローラ・カルドナ)が父アグスティン(オメロ・アントヌッティ)を探す声が聞こえた。エストレーリャが枕元を見ると父が持っていた「振り子」の箱が置かれていた。「振り子」を取り出したエストレーリャは、父はもう戻ってこないと確信し泣いた。


エストレーリャは8(ソンソーレス・アラングレン) の頃を回想する。父親は南部アンダルシア生まれだが祖父と意見が合わず北部のバスクの県立病院の医師として移住した。そして町と田舎の中間に当たる一軒家「かもめの家」に住みオートバイで通勤していた。父親は「振り子」による霊力を修得していたため、その土地の井戸を探り当てたり、エストレーリャの生誕を予言できた。そんな「振り子」の霊力を父はエストレーリャに教えた。母は、アンダルシアでは教師だったが、バスクではエストレーリャに勉強を教えた。


その年の5月、エストレーリャは初聖体拝受を行うので南部アンダルシアから祖母ドナ(ジェルメーヌ・モンテロ)と乳母ミラグロス(ラファエラ・アパリシオ)が来て参列することになった。ミラグロスはエストレーリャに父と祖父の確執はスペイン内乱が原因だと話す。普段、教会に行かない父だったが、この日は教会の後部に立ってエストレーリャを見守ってくれた。そしてパーティで父はエストレーリャとダンスをしてその愛情と優しさを示した。


エストレーリャは、ある日父が封書の裏に「イレーネ・リオス」という女性の名前をいくつも書き連ねているのを見てしまった。母親はその名を知らないと言った。しかし、数か月後にエストレーリャは、学校の帰り映画館のポスターに「イレーネ・リオス」と言う女優の名を見付けたのだ。映画が終わった時、父が出て来て喫茶店に入り、イレーネ宛てに手紙を書くのだった。エストレーリャは何を書いているか分からなかったが、喫茶店の窓から覗いたとき父親と目を合わせた。


その後、エストレーリャの父に対するイメージが変わり始める。父宛に「イレーネ」から手紙の返事が来た。内容は「過去は捨てたい。二度と手紙はくれるな。夜が怖くなる」という趣旨のものだ。エストレーリャはそのことを知る由もなかったが、それ以後父は何回も家出をするようになった。父と母の関係もどこか重苦しさが漂う。母に理由を聞いても答えは曖昧だ。エストレーリャは早く大人になり、遠くへ逃げ出したいと思っている。


そんな中、エストレーリャは15歳に成長した。ボーイフレンドも出来たが真剣に付き合う気持ちも湧かない。ある日、学校に父親が来て昼食を一緒にしたいとグランド・ホテルに誘われた。理由はエストレーリャを喜ばせたいためという。その折、エストレーリャは「イレーネ・リオス」を知っているかと父に聞いた父は似た人は知っているが本人は知らないと顔をゆがめ洗面所に行くため席を立った。戻った父は隣室で行われている結婚式から聞こえる「En el Mund」の楽曲を覚えいてるかと訊ねた。初聖体拝受のとき踊ったエストレーリャは答えた。


昼食を共にしてから間もなく、父親は自殺した。ショックでエストレーリャは病んだ。寝込んでしまったエストレーリャの元にミラグロスから南(エル・スール)で静養したらどうかと電話が来た。おばあ様にも久しぶり会いたいとエストレーリャはアンダルシアへ旅立つ


感想など

スペインの政情を背景に8歳の少女が、徐々に慕い尊敬する父親の心の闇を知り、15歳の時父の自殺で衝撃を受けるが自己の精神を確立しようと父の故郷の南(エル・スール)へ旅立つ過程を詩情豊かに映像化した作品である。


少女の父親は「振り子」を使った占いで、村人の井戸を探り当て尊敬されていた。少女はそのことを奇跡と思わず当然のことと捉えるほど父親を信頼し敬愛していた。そんな父親に母以外の忘れられない女性が存在し、諦められない手紙を出し拒否された事実を知る。しかし、父はその事実をあくまで隠そうとした。そんな父親の自殺により、少女は自我を確立するため未知なる父の故郷に旅立つ。


この映画のもう一つの特色は、全編に溢れる詩情と色彩だ。ひとつひとつのシーンが、美しく丁寧に静謐につなぎ合わされている。色彩はまるで、フェルメールの絵画のように光と影が美しいコントラストを見せて惹きつけられる。


社会的背景はスペイン内乱後のフランコ独裁政権の圧政と人民の疲弊がある。人民支持の父とフランコ支持の祖父との確執。思想的に故郷のアンダルシアを追われた父親。恋人と別れねばならなかった父親の悲劇。恋人を捨てて少女の母親と結婚しバスクへ移住した父親。現在の妻と少女に愛情は持ちつつも、映画を見ることによって過っての恋人への愛を捨てきれていないことを自覚するが相手はもう変わっていた。それをきっかけに父親は、夢と希望を失うのだ。妻との不和、娘との冷めた関係、そんな中、家出を繰り返し、娘もベットの下に隠れて無言の戦いを家族と挑んだりした。


少女も15歳の娘に成長しボーイフレンドもできた。父親はそんな娘に温かに接し、肯定的な助言をする。父親は娘を喜ばせるため一緒にホテルのレストランで昼食を摂る。そのとき娘は、父が書き連ねた、過っての恋人の名前について訊ねる。しかし、父親は本当の事は語らなかった。図星を突かれた父親にとってそれは衝撃的なものだったようだ。そんな父親の自殺に娘も病む。そんな状況の中で、父の故郷から転地療養しないかと要請が来て、娘は未知なるアンダルシアに旅立つところで終わる。


映画では「振り子占い」という霊力の小道具が使われてた。科学的思考を旨とする医師が霊力を操るというところに不可解な気もしたが、医学的治療においても説明できない奇跡が起こることもある。科学的思考の究極に奇跡があってもいいのかもしれない。


子どもから敬愛と尊敬で見られる父親は理想的だ。しかし、そんな父親が凡庸で欠点もあったということを子どもが知った時、子どもは幻滅や落胆を感じることだろう。父親という者は、ごく普通の人間であり、欠点も優れたものも両面をもつ凡庸な存在なのだと知らせつつ、愛情と誠意が大切なのだと教えてくれる。人は誰でも死んでも他人に言えない秘密を持つことは有り得る。ただ、その心の闇に殉じてしまうことはやはり不幸としか言いようがない。

映画の中の「En el Mundo」


GALLERY
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タイトル                              エストレーリャが朝目覚めると母が父を探していたイメージ 3 イメージ 4
父はもう帰らないと思った                  8歳の頃、父は振り子で霊力を呼ぶ方法を教えたイメージ 5 イメージ 6
父は霊力で井戸を掘りあてた                母は勉強を教えてくれたイメージ 7 イメージ 8
父の故郷から祖母と父の乳母が訪ねてきた       聖体拝受の儀式
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エンエルムンドの曲で父とダンスをする           父がイレーネという名を書き連ねているのを発見イメージ 11 イメージ 12
イレーネが女優であることを知る               父はその映画を見てから手紙を書いていたイメージ 13 イメージ 14
イレーネは父の元恋人で拒否の返事が来た       それ以後、父はプチ家出をするようになるイメージ 15 イメージ 16
15歳になったエストレーリャ                 ボーイフレンドの落書きイメージ 17 イメージ 18
父と昼食の時、イレーネの事を聞くが知らないと言われる   隣の結婚式場から懐かしい曲が聞こえたイメージ 19 イメージ 20
さびしそうな父                         その後、父は自殺
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祖母から南に静養に来いと言われる           旅立つエストレーリャ