「子どもから見れば、大人の挨拶なんか無駄かもね。」
   「その無駄が、潤滑油なのよ。無駄は言えても大事なことが
     なかなか言えないのよ」
         (「お早よう」から福井姉弟の会話)
 
あらすじ
東京の川沿いの土手下にある、小住宅が集まる一角。町会の組長原田辰造(田中春男)宅は、妻のきく江(杉村春子)息子幸造(白田肇)と祖母でお産婆のみつ江(三好栄子)4人暮らし。きく江に婦人会費を着服したとの噂が立ち、会計の林啓太郎(笠智衆)の妻民子(三宅邦子)に対し、文句を言ったが祖母のみつ江が忘れていたとことが判明して謝罪する。
 
林家は夫妻の長男(設楽幸嗣)次男(島津雅彦)と民子の妹有田節子(久我美子)が住んでいる。林家の隣は、定年間際の富沢汎(東野英治郎)と妻とよ子(長岡輝子)がおり、向い側には、ガス会社勤務の大久保善之助(竹田浩一)しげ(高橋とよ)息子善一(藤木満寿夫)が住んでいる。また、近隣で唯一テレビを持っている丸山明(大泉滉)と妻みどり(泉京子)は派手好きで顰蹙をかっていた。
 
近所の子供達には、額を押すと「おなら」発する遊びが流行っていた。中一の幸造は下手で、パンツを汚し母親から叱られていた。幸造は毎日練習に励むが、善一の父親が「おなら」上手でお芋でなく、軽石を粉にして飲むのがいいと言いふらしている。大久保家では、善之助の「おなら」を、しげは呼ばれた声と聞き違え、それが会話に繋がっていた
 
近隣の子供達は、勉強を出しにしてテレビのある丸山家で相撲放送を見せてもらっていたが、親達は顰蹙をかっている丸山家には行かせたがらなかった。林家の兄弟はいつも母の民子にテレビを買えとタダを捏ねていた。父親から「余計なことは言うな」と言われ子供は「こんにちは。お早よう。こんばんは。いい天気ですね。なんてみんな余計なことじゃないか」と反発します。「黙れ」と父から言われると「ああ、黙るよ、何日でも」と言って口を利かなくなります。
 
兄弟が、外でも口を利かなくなり、学校の先生も手を焼かされます。また近所からも誤解されます。兄弟が英語の勉強を見てもらい団地に住む福井平一郎(佐田啓二)と姉加代子(沢村貞子)の家でも黙っています。平一郎は失業中ですが、節子から頼まれて翻訳のバイトをしています。節子から事情を聞き、「子どもから見れば、大人の挨拶なんか無駄かもね。」「その無駄が、潤滑油よ。無駄は言えても大事なことはなかなか言えないのよ」と姉と弟は会話します。
 
林家のお隣の富沢汎は、定年を迎えて電気製品販売員に再就職します。啓太郎は就職祝いになにか買ってあげようとテレビを月賦で買うことにした。林家の兄弟はだんまりを続けたまま、夜になっても戻らなかった。心配した平一郎は探しに出て、駅前の街頭テレビを見ていた兄弟を見つけて家に連れてきてくれた。帰って来た兄弟はテレビの箱を見つけると大喜びとなり、だんまりを忘れてしまう。
 
翌朝、林家の兄弟は機嫌よく近所のおばさん達に「お早よう」と挨拶をして学校へ登校するのだった。その登校途中も「放屁遊び」している。
 
感想など
l       昭和時代の下町庶民の日常生活の中で、子供達の暮らしぶりや親子関係、近所づきあいなどが微笑ましくユーモラスに描かれた楽しいホームドラマでした。
 
l       ちゃぶ台・おはち・火鉢・なべを並べた食事、下町の近所付き合い、塾も習い事もない子供らの放課後、押し売り、電化製品が普及しはじめた昭和時代の光景が懐かしく感じられます。
 
l       私は知りませんが、子供達に「放屁遊び」が流行ったとあります。額を押されて「プー」と放屁できるのが達人とされます。出来ない子はパンツを汚してまで練習をしたようですが、自然現象でもあり、意識的に放屁することはなかなか難しそうです。
 
l       ガス会社に勤める善之助は、朝の出掛けに放屁します。妻は「あんた、呼んだ」と聞き返します。「いや」と善之助は言いつつ、再度放屁します。妻は「なあに」と聞きます。すると善之助は「いや」とは言えず「帰りに葛餅を買って帰るか」と言います。妻は「そうね、買って来てね」と満足します。そんな放屁が会話に繋がる楽しさが描かれています。
 
l       「お早よう」「こんにちは」「いい天気ですね」などの挨拶言葉は、親しみを表すだけで意味はありません。言わなくとも事足ります。放屁にも効用はありません。むしろ無礼な行為と思われています。放屁を「阿吽」の呼吸にさせたところが小津マジックなのでしょうね。
 
l       子供達はテレビを欲しがり親に「余計なことを言うな」と叱られて、大人たちが言う「お早よう」「こんにちは」「いい天気ですね」は余計な言葉だろうと反抗し、だんまりを決め込みます。だんまりが引き起こす、いくつかの珍事が愉快です。
 
l       団地に住む失業者福井姉弟が、交わす会話がその珍事の核心を突いています。弟は「子どもから見れば、大人の挨拶なんか無駄かもね。」すると姉は「その無駄が、潤滑油よ。無駄は言えても大事なことはなかなか言えないのよ」と言って、弟と節子の恋愛感情についてけし掛けます。しかし、2人が出会ってもお天気の話しに終始してしまうシーンには爆笑です。
 
l       子供等のだんまりは、父親が義理立てて月賦で買うことになったテレビが配達され、解決します。ケロッと機嫌が直った子供等は近所のおばさんたちに「お早よう」元気に挨拶をして学校へ登校するのですが、途中「放屁遊び」が行われます。
 

GALLERY
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 タイトル                               登校中の放屁遊びイメージ 17 イメージ 18
 テレビのある家に見せてもらいに行くこども         食事風景イメージ 19 イメージ 20
 住宅風景                              大久保善之助の放屁イメージ 1 イメージ 2
 善之助の妻は屁を呼びかけと勘違いする          原田家に来た押し売りイメージ 3 イメージ 4
 婦人会費のゴタゴタを詫びるきく江               富沢と話す啓太郎イメージ 5 イメージ 6
 テレビを買ってとせがむ実を叱る啓太郎           ジェスチャーで給食費をくれという実イメージ 7 イメージ 8
 横井平一郎に翻訳を頼む節子                 おはちとやかんを持ち出した実と勇イメージ 9 イメージ 10
 横井姉弟の会話                          実と勇を連れて来た平一郎イメージ 11 イメージ 12
 兄弟と平一郎を迎える林家                    月賦で買ったテレビを喜ぶ兄弟イメージ 13 イメージ 14
 登校途中の放屁遊び                     平一郎と節子は挨拶ばかり、大事な話が出来ない