利用されてると言ったが、利用していた。
           (「アパートの鍵貸します」からバクスターの言葉)
 
感想など
昇進のため、上役へ浮気場所を提供していたサラリーマン。妻子ある上役と結婚願望だったエレベーターガール。
お互いが、その願望が叶う直前、それが自己欺瞞だったと気付き、その願望を捨てて偽りのない愛に目覚めるという人間喜劇でした。
 
ただ、この映画が単なるラブコメディでなかったのは、随所に散りばめられた見せ場が心を揺さぶりました
それは可笑しく・哀しく、楽しく・切なく、温かく・冷たく、美しく・醜く、希望あり・失望あり、気配りあり・エゴイズムあり、善意あれば悪意もありなどさらり・ちらりと見せられたからです。
 
・エレベーターから降りる上役がエレベーターガールのフラン(シャーリー・マクレーン)の体に触って降り  たとき、フランは「悪い手」と叫ぶ、上役が振り返るとフランは「扉に挟まれそうなので」と責められない 辛さを表したシーン
 
・浮気場所で飲む上役達の酒ビンの多さに隣室の医師が驚く「その酒量なら鉄製の腎臓だ。壁越しに  夕方から女の声が聞こえるぞ。悪い奴だ。遺言に献体すると書いてくれ」と言われる。バクスター(ジャ ック・レモン)は「友達が飲みに来たのです」と嘘を言うシーン
 
・バクスターが執務中、浮気場所の使用打ち合わせで、忙しくてんてこ舞いしたり、部屋の鍵メールボー イを使ってやり取りする面白さ。
 
・人事部長から昇進の内示があると思い行くと浮気場所の提供依頼でした。部長は「会社は信用が大  事だ。不謹慎は禁物だ。ところでクラブ会員は何人だ。」と聞きます。バクスターは「4人です。3万人の 社員から見れば、比率は知れています」
 そして、後日昇進が決り、部屋の使用依頼が来ます。「腐った林檎は、4つでも、5つでも比率は同じで す」と浮気場所として提供します。
 
・浮気場所にフランのコンパクトが忘れられていて、そのコンパクトがフランの物と分ったときバクスター  が割れた鏡を見つめるシーンの辛さ。また、割れた鏡に「私の心を写してる」というフランの言葉の哀れ さ。
 
・フランが、浮気場所で自殺未遂をした際、隣室の医師ドレイファス(ジャック・クラッシェン)が蘇生させる のだが、治療のやり方、フランを眠らせないため、3人で室内を行進するシーンの愉快さ。
 また、ドレイファスの「医者としてなら、事故とは言えん。隣人として君を蹴飛ばす。今回は運が良かっ た。君は大人になれ。人間になれ」と言う、温かな言葉は身に沁みるものでした
 
・フランが再度自殺することを心配し、バクスターは、洗面所にある剃刀の刃をポケットに仕舞うシーンと 後日髭剃りをしようとして、剃刀に刃のないことに気付くシーンの細やかさに感心します。
 
・フランが部屋に置き忘れた封筒を遺書と勘違いして、自殺ではなく事故にするため隠したが、実は上  役から貰い返そうとしていた100ドルと分りほっとするシーン。
 
・上役の部屋で、興奮してバクスターが点鼻薬を飛ばす愉快さ、また、テニスラケットでスパゲティを茹で 上げて、残っていた1本を見つめてフランを思い出すシーンの哀愁感。
 
・フランは上役の離婚のけりがつかないうちは、会わないと決めます。バクスターはフランに「私は上役  に利用されていたと言ったが、実は私が上役を利用して昇進した。平社員が管理職になれた。一応、 夢は叶った」と言い、フランと一緒になる決意をします。自分の執務室で、上役に申し出る言葉「私は  彼女を引き受けます。彼女は僕が必要です」と練習する面白さ。
 
・フランも、上役が離婚できないので、上役との結婚は諦めるつもりでした。そのためバクスターは、フラ ンと一緒になることを上役に報告しようとしたのですが、突然秘書が過去をばらしたため、離婚が決っ  てしまいました。それでフランのことは、言い出せなかったのですが、上役が再度部屋を使いたいと言 い出したので、堪忍袋の緒が切れます。そして部屋を貸すことを断り、会社を辞め引っ越す決心をしま す。ドレイファスが言ってくれたように「メンチュになります。大人に、人間に」と・・・。
 
・一方、フランは上役の離婚を聞き、結婚できることになり、大晦日のデートをします。その席でバクスタ ーが会社を辞め、引っ越すことを聞いて、バクスターの愛を知り、自分の偽善に気付きます。そこでそ  の席から抜け出してバクスターの部屋へ駆け出し会いに行きます。
 
・ラストでフランがバクスターの部屋へ駆けつけたとき、バーンと音がするのをピストル自殺と勘違いして 慌てる顔とドアを開け、バクスターに「大丈夫。股に撃たなかったの」と安堵の笑顔が素敵でした。
 
この映画を、現代感覚的に観ると疑問だらけです
まず、セクハラ(性的嫌がらせ)・コンプライアンス(法令順守)・プライバシーの欠如・ゴマスリ社会・公私混合の勤務評価など目茶苦茶な感じです。
しかし、半世紀前であっても、実態がこんないい加減なことはありません。あくまでもこれは物語です。本質は、人間喜劇ですから、私達にも思い当たることがたくさんあって、なるほどと薄笑いしながら前向きに楽しめばいいのでしょうね。
 
GALLERY
  
       バクスターのオフィス              上役の浮気場所として自宅を提供   
      急遽使いたいと上役が来る                 利用の調整が忙しい  
      人事部長から呼び出される               人事部長も使わせろと頼む    
  思いを寄せるフランを誘うが振られる             利用者から昇進を祝われる  
    フランは秘書から忠告される              上役の浮気相手がフランと分る     
  上役との結婚ができないと自殺を図るフラン         バクスターは部長補佐役になる 

バクスターの部屋からバーンという音     部屋でシャンパンを持つバクスター

 
  
       お互いに喜び合う2人                         ラスト