03年の2冠馬ネオユニヴァース産駒2頭が人気を集める今年の皐月賞。もちろん、ロジユニヴァース、アンライバルドの父仔制覇が注目だが、もっと深く掘り下げてみよう。


 2頭のうち、より魅力的な血統を持つのがアンライバルド。半兄にダービー馬フサイチコンコルド、甥に皐月賞馬ヴィクトリーと、父も含め春の2冠には特に縁のある血統だ。「この馬はこの牝系で勝ってない菊花賞を勝てばいい」という考え方はひねくれているだろうか。


 あとは、皐月賞3着のスペシャルウィーク、ジャングルポケットを父に持つリーチザクラウン、シェーンヴァルトや、皐月賞に出られなかったバブルガムフェロー産駒アーリーロブストらの“「父の無念を」組”もいるが、牝系からの注目馬を挙げればゴールデンチケットだ。


 同馬は昨年の勝ち馬キャプテントゥーレの従弟。アグネスタキオン×トニービンのキャプテントゥーレに対し、キングカメハメハ×サンデーサイレンスという配合で血統的には大きく異なるが、中央未勝利ながら毎日杯(GIII)2着と、ギリギリで出走にこぎ着けてきたところは不気味だ。厩舎も同じ森秀行厩舎。


 鞍上は、キャプテントゥーレで驚かせた川田将雅騎手を、テン乗りで乗せてくる。もし勝てば従兄弟による連覇、中央所属ながら中央未勝利馬のクラシック制覇という、非常に珍しい記録が掛かっている。相手は強いが、穴ならこの馬を。

 桜花賞を勝ったブエナビスタ 。筆者は半兄のアドマイヤオーラ(父アグネスタキオン)をPOGで持っていたくらいなので、ビワハイジはわりと好きなのだが、この馬は真っ先に指名対象から外した。その理由はNijinsky4×3のクロスを持っていたからである。


 Nijinskyは英3冠を制し、種牡馬としても大成功した名馬だが、その血のクロス馬からは、なかなか大物が出ていなかったのだ。まだ比較的新しい血のため、クロスが濃すぎるという問題もあるだろうが、Nijinskyクロス馬の代表的存在といえば、ダートで活躍したオースミジェット(父ジェイドロバリー)くらいで、パワー型のイメージが強かった。


 同じサンデーサイレンス産駒のダンスインザダークも、Nijinskyクロスでは結果が出ず、20頭ほどいる重賞勝ち馬の中でNijinskyクロスを持っている平地重賞勝ち馬はダンスインザモア (スプリングS-GII)のみ。スペシャルウィークに至っては重賞勝ち馬ゼロで、1000万下勝ちのシルクドラグーンマコトスペリオル あたりが上限だった。


 しかも、シルクドラグーンはPhone Trick、マコトスペリオルはMr.Prospectorと、いずれも強力なスピード血脈を持っており、欧州血統で固められたビワハイジは、スペシャルウィークには合わないというのが、これまでの傾向から導き出された結論だったのだ。


 そんなブエナビスタが、今や“女ディープインパクト”と呼ばれるほどの名牝的存在になったのは、やはり母ビワハイジの繁殖牝馬としての資質の高さだろう。Caerleonとマルゼンスキーという、日欧を代表するNijinsky種牡馬というのも良かったのだろう。


 血統のジンクスはいつか破られる。筆者も、“Nijinskyクロス馬は一生走らない”とまで思っていたわけではないし、これに限らず様々な血統の常識の多くは時代の移り変わりによって崩されていくもの。いつ、その固定観念に固執せず一歩踏み出せるかが、競馬センスみたいなものなのだろう。こういう意識がないと、いつまでも昔の概念から離れられず、取り残されていってしまう。これからも柔軟に、切替作業は行っていきたい。

 ブエナビスタ が圧倒的な人気を集めるこの桜花賞で、2戦2勝と“未知の魅力”で注目されているのがレッドディザイア だ。


 この2頭は偶然にも母の父Caerleon、父の父サンデーサイレンスという血統構成まで似ている。おまけに、レッドディザイアの父マンハッタンカフェはブエナビスタと同牝系。2頭とも、3代前にSanta Luciana の血を持っており、トータルで言うと、60%以上の血脈が共通しているのだ。


 さらに、騎手を見ても興味深い。ブエナビスタの主戦・安藤勝己騎手は、2年前の桜花賞をダイワスカーレットで制覇。その時、断然人気のウオッカで2着に敗れたのが、レッドディザイアに騎乗する四位洋文騎手なのだ。


 今回は逆の立場で臨む2人の騎手。四位としては“2年前の雪辱を”という気持ちだろうが、ブエナビスタも、96年に15着に敗れた母ビワハイジの雪辱を晴らしたい。現在リーディングを走る、レッドディザイアの父マンハッタンカフェにとっても、産駒の初GIが掛かっている。


 また、勝てば桜花賞3勝目となる安藤勝己に対し、意外にも牝馬クラシックは初となる四位洋文。なお、レッドディザイアを管理する松永幹夫調教師は、このレース2勝で“牝馬のミッキー”と呼ばれた男。対するブエナビスタの松田博資調教師は、93年にベガでこのレースを制覇。ともに桜花賞に縁がある。


 様々な因縁、見どころが詰まったこのレース。特にこの2頭にスポットを当てて見ると、さらに楽しめるのではないだろうか。