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今まで歩くのは好きでも、走るのは嫌いなたちだったので、かれこれ何十年も走ったことがなかったのですが、いざ走ってみると、まったく息も続かず、足上がらずで、二百メーターほどが限界でした。
で、毎日少しづつ距離を増やしながら、二週間ほど経った近頃、ようやく歩くのとかわらない遅さながら、四、五キロほど走れるようになりました。



走ることを嫌ってた私めが今さら突然どうしてかと言いますと、そのきっかけは以前、僕が四苦八苦しながら富士山を登っていると、軽装、短パン姿でカモシカのようにスイスイと山頂へと駆け上がって行かれた方がおられました。それを見て「こりゃ超人だな」といたく衝撃を受けたのでした。


で、そんなカモシカ超人のようになりたいか、いえいえ、そんな大それた気持ちは毛頭ないのですが、それに少なからず感化されてしまった馬鹿な我輩は、山林の鬱蒼と繁るケモノ道を少し走ってみたのです。

実際たいして速くもないのに、これは何という疾走感だろうか。
うねうねと曲がる細い道に、森の木々の流れる視覚が異様な速い疾走感を生んでいるのです。

まるで「追って」から逃がれんとする抜け忍、あるいは獲物をもとめて駆け巡る狩猟獣か、そんなにでも変げしたかのような体感が得られます。
この疾走感は道が細い茂みほど効果があります。

遥か遠い昔、間違いなくあったであろう完全に忘却された感覚だったに違いありません。

そんな快感と妄想をたのしみたいがために、ジョギングという苦行にハマりつつあります。



 
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『軍犬ローマ号と共に』

 著  志摩 不二雄
光人社FN文庫



書名の通り軍犬を主題にしたものですが、本題というか根っこは初年兵を虐待する横暴な古年兵への怒り、怨み、人間不信にあるように思います。



戦争末期、徴兵召集され、金ぶち眼鏡の大学生だった彼は、古年兵から「生意気」「とろい」とやらでリンチを受けてばかりいました。
殴られるごとに怨みの念だけ深くなり屈辱の日々が続きます。
要領が悪く、プライドの高いインテリにとって、初年兵の人格を打ち砕く軍隊はまさに地獄以外の何ものでもないでしょう。

しかしやがて、幸運にも彼は軍用犬を扱う分隊に配属され、彼の忠実なる「しもべ」であり、唯一の「戦友」となる軍犬ローマ号と出会い、タイ、ビルマ方面へ送られます。

そしてある日、日本軍退却の混乱に乗じて、復讐対象である古年兵への怨みをはらす機会がやって来るのでした…。






人間の醜悪さとは対照的に哀しいほど忠実な軍犬ローマ号の純粋さが、暗闇にひっそり咲く白い花のように美しく際立ちます。



ちなみに遠く日本から連れてこられた軍用犬たちは、この土地の気候風土に適さず、みな衰弱、病に臥し、帰還しえた犬は一匹もいなかったとのことです。






 
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『されど兵は戦う~宜昌攻略戦』
 著 上村喜代治
 発行 戦誌刊行会



『インパールの挽歌』(文庫「インパール」)の上村喜代治の戦記です。
ビルマへ投入される以前の中国宜昌での戦闘および軍隊生活(三年間)について書かれたものです。


これは初年兵として非情、理不尽な扱いを受けながらも、しだいに逞しく図太く、厳しい軍隊で生きぬく若者の成長を描いた戦記として読むことができます。



ただ恥ずかしいのが、日中戦における日本軍の兵隊に、婦女への凌辱など風紀の乱れが散見するところです。

このような唾棄すべき外道を最も忌み嫌う高野(上村氏)一等兵の正義感が黙って見過ごすわけがありません。

《~突然キャーという悲鳴~見れば三人の兵隊が彼女の両手を押さえてまさに狼藉に及ぼうとしている。野郎ども!と私は水筒を大地に放り出して、そこへ走り、
「こら!貴様等、何をしとるか!」
と、蛮声を張り上げて一喝した。
三人は手を放すや私に向きなおり、
「何だ、貴様は!俺たちがどうしたというんだ!」
と数をたのんで居直ったのである。~》

一対三…ですが果敢に高野一等兵は狼と化した不良兵どもに立ち向かいます。

けれど、せっかく彼がその若い娘を救うも、その後まもなくして彼女は井戸に身を投じてしまいます。
心に突き刺さるように哀しいこと極まりないです。




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私的にはこの本で最終章の忠犬「クロ」についての話が一番好きです。
彼が宜昌でずっと世話をして、一緒に寝たりするほど可愛がっていた犬なんですが…。

あのラストシーンが映画のようにあまりにも感動的だったゆえに、「クロ」の話をもっと書いて頂きたかったかな。


とにかく上村喜代治ファン必読書です。