多くの感染症が、女性は男性にくらべ軽症化することがわかっています。それは、病原体排除能が、女性で高いのです。しかし、例外はあります。
以前のこのブログ3月6日に、嚢胞性線維症の女性を紹介しました。嚢胞性線維症は女性の方が重症化しやすく、死亡年齢も低いです。

嚢胞性線維症の女性の呼吸器に、緑膿菌がとりつくようになると、生命予後が悪くなります。嚢胞性線維症を持つ病気の人では、呼吸器にとりつく病原菌の排除ができず、その結果、咳や痰が慢性に続き、肺炎が治らなくなり、死亡します。

緑膿菌は、院内感染で問題になるように、抗生剤への反応の悪く、治療が困難な病原菌として有名です。抗生剤が効かなくなる理由のひとつは、菌自らが抗生剤の攻撃をのがれ生き延びてしまう能力が高いからです。緑膿菌は、姿かたちを変化させて、抗生剤への抵抗性を増すことができます。

菌の抵抗性の獲得に、女性ホルモンが影響しているようです。女性ホルモンであるエストラジオール濃度は,嚢胞性線維症の女性の呼吸器感染を増悪させてしまうというエピソードを紹介します。研究対象となったのは、アイルランドの嚢胞性線維症の女性たちです。N Engl J Med 2012; 366:1978

女性ホルモン(エストラジオールとその代謝物であるエストリオール)が緑膿菌に及ぼす影響を、生体内(患者の体内)と、生体外(実験室)の反応を調べました。
緑膿菌がムコイド型に転換して、薬に対して抵抗性となる過程に、女性ホルモンの影響を示しました。

嚢胞性線維症の患者の呼吸器から、緑膿菌を採取して,実験室にて培養し、エストラジオールとエストリオールにさらさせて,菌自体の変化を観察しました。


エストラジオールに長時間曝露すると、緑膿菌はムコイド型に変化しました。一方、短時間では、菌はカタラーゼの活性が阻害され,過酸化水素濃度が上昇しました.女性ホルモンは、アルギン酸生合成の重要な制御因子である mucA 遺伝子を変化(フレームシフト)させ、緑膿菌株のアルギン酸産生を誘導しました.つまり、女性ホルモンは、菌の遺伝子を変化させて、菌の性質を変化させました。

実際の女性患者の観察でも、エストラジオール濃度により、女性は影響をうけました。女性ホルモンが高くなる卵胞期に、呼吸器症状が増悪し、排卵後のエストラジオールが低値となる黄体期に採取できた喀痰中緑膿菌の大半は,非ムコイド型に変化していました.一方、エストラジオールが高値となる卵胞期に増悪時すると,抗生剤の効きにくいムコイド型菌が増えていました。


つまり、女性の月経周期(エストラジオール濃度)に関連して,緑膿菌はムコイド型と、非ムコイド型に、その形を変化させていることが証明できました。

まさに、女性の体内で、菌と免疫とホルモンがダイナミックに影響し合っている様を、垣間見ることができます。