人は加齢に伴い、体の機能は変化していきます。低下していく機能が多いとはいえ、そのうちのどれを病気としてとらえ、治療の必要があるのでしょうか?


根拠があいまいな若返り物質にふりまわされることなく、過剰な医療や治療を排除したいものですが、それを選べるのも歳の功です。本当の長生きに必要なものを、選択するのは難しいものです。


過剰診療のターゲットになりやすい女性の病気に骨粗しょう症があります。健康祭りなどで、足や手首の骨密度を測定されて、数値が低いと言われ、不安になる人がいます。加齢をすれば、多くの女性は、骨粗鬆の傾向になります。


デキサ法と呼ばれるレントゲン検査をすると、加齢による変化は歴然です。骨の密度を見る骨塩量という数値を用いて評価すると、50歳になれば、20歳の人と同じ値は期待できません。数値が低いからといって、すぐ骨粗しょう症ではないし、治療の対象になるわけではありません。その程度や進行程度により、治療を開始すべきかが決まります。


若さが高く評価される現代、効果のでないサプリなどが氾濫しています。
病気になる前から、何かをすれば、病気にならないとする広告も氾濫しています。早期に治療を開始すれば、全て良いと過剰な期待をもたせます。広告は、効果があってもなくても、とにかく、買わせてしまえという傾向がますます進み、かえって、広告のうそっぽい部分もみえみえになってきています。


すべての女性に、加齢に伴い起きてくる骨塩量(骨密度)の低下は、そうした過剰の治療のターゲットになりやすいものです。そして、加齢に伴い、骨の密度の低下は進行するものの、治療すべき時期をどのようにみつけていくかは、女性にとって大事な作業となります。


実際には、骨粗しょう症と言われ、飛びつくように治療を始めても、薬剤の中断率が高いです。治療をしている人の中には、この薬を飲めば、骨折は絶対に起きないと、過剰な期待を持つ場合があります。効果の高い新薬は、それなりの副作用が伴いますが、途中で副作用を自覚して、本当に大事な時期に薬を飲まなくなる人も多いものです。


治療が医師の指導で行われる日本の診療スタイルでは、診療現場で、じっくり、検査や治療の開始を考える時間が少ないように思います。


それでは、どの程度に骨が薄くなれば、絶対に治療すべきレベルなのでしょうか?薬の副作用があったとしても、治療を選択したことを後悔しないですむのは、いつなのでしょうか?そうした疑問に答えるべき、米国のニューイングランドジャーナルオブメデシン(NEJM)研究を紹介します。NEJM 2012;366:225


骨粗しょう症の治療を開始するめやすは、骨折が起きる前が目標です。その時期を失することなく検査時期を選び、薬剤治療を開始します。


論文によると、骨粗しょう症検査は、デキサ法で行い、腰椎、大腿骨頭の骨密度をTスコアという数値で示し、マイナスの2.5(-2.5)以下で、治療が開始されます。


一般的に、治療効果が高いのは、ビスフォネート、ラロキシフェンなどであり、やや効果は不安定だが、ビタミンD、カルシウム剤なども使われています。


治療のコストパフォーマンスに厳しい米国では、過剰な検査や診療をさけるために、医療費を抑え、治療効果の高まる方法が選ばれます。


論文では、65歳以上の女性では、どの位の頻度で、骨粗しょう症のチェックを続けるべきなのか?を検討しています。軽度から中等度の骨塩量の低値はすぐ治療の対象ではなく、無治療でどの位、経過を見ていってよいのかを調べ、的確な時期に、次の骨塩量測定を行い評価します。


研究対象となったのは、1986年から1988年までに募集した65歳以上の白人女性です。この人たちにデキサ法で検査を行いながら、約17年間の追跡を行いました。


骨密度を示す数値である骨塩量をTスコアという数値で評価しています。Tスコアがマイナス1以上を正常とし、骨密度の程度を以下の3群にわけました。軽症低下(1.01-1.49)、中程度低下(1.5-1.99)、高度低下(2.00-2.49)です。


さらなる低下があれば、骨粗鬆症とします。


それぞれの群の経過を観察して、骨変化の進行をチェックするための時期を決めました。的確な時期に進行程度を予測できるからです。そして、Tスコアがマイナス2.5以下となった時点が、治療すべき時となります。女性たちの体重やエストロゲン治療などを行っているかも考慮されました。


さて結果ですが、Tスコアが正常な女性は、次回の検査まで16.8年間、様子をみてよいと判断されました。Tスコアが軽症低下(1.01-1.49)の人では、17.3年、Tスコア中程度低下(1.5-1.99)の人では4.7年、Tスコア高度低下(2.00-2.49)の人では、1.1年と計算されました。


つまり、軽度な骨塩量の低下であれば、その後もかなり長く骨塩量が維持できる可能性が高いと思われます。すでに、Tスコアが、かなり低下し、骨そしょうが危ない人は、1年ごとに検査をして、治療すべきかを判断するということのようです。