“衛生仮説”
“衛生仮説”とは、乳児期の子供を取り巻く衛生環境が、その子供の免疫の発達や、アレルギーの発症に影響を及ぼすという考え方です。「自然環境で育つ」ことが、子供の将来の免疫を発達させ、病気に強い子どもになると推定されています。一方、人工的な生育環境は、子どもの免疫の発達を低下させ、アレルギー反応を強めてしまうだろうとされます。

しかし、“衛生仮説”は、し尿にまみれた不潔な生活環境が、子どもを強くするという単純な善玉説だけに目を向けるのは問題です。「自然環境で育つ」ということは、弱い子どもが病気になる機会が多い環境でもあります。衛生環響の悪い国では、乳児死亡が増えます。


“衛生仮説”が提唱されてから20年間経過し、疫学成績が集積されてきましたが、少し、その経過をひもといてみます。


1989年にストラヘンが、子供たちの枯草熱(日本の花粉症にあたる)の発症は、兄弟が多い家庭の子どもでは少ないと報告しました。この現象を説明するものとして、当初、兄弟が多い家庭の子供は、呼吸器や消化管の感染症にかかる機会が多いことが指摘されました。さらに、家庭環境に、し尿由来物質(エンドトキシン等)を多くあり、それが免疫を発達させると推定されてました。


この考えは、今も生きていますが、さらに、もっと、複雑な機序が指摘されるようになりました。母親が妊娠する回数が増えると、羊水成分などの胎児環境が変化することがわかりました。


妊娠中の母親が家畜小屋に出入りする、あるいは、生後に子どもが、感染症、麻疹などに罹患するなどにより、アレルギー発症に、予防効果が期待できます。


10163人の就学時の調査において、農家で育った小児では、そうでない子供とくらべて、枯草熱 0.52倍, 喘息 0.65倍, 喘鳴0.55倍となり、特に家畜との接触のある小児では、アトピー疾患は、 0.41倍となったと報告があります((von Ehrensteinら, Clin Exp Allergy 2000;30:187)。 小児が成長した時点でも、乳幼児期の農家育ちの影響が確認されています。


18-24歳で大学生10 667人を調査した北欧の成績では、農家で育った大学生は、喘鳴を含む喘鳴を 0.71倍としたが, アトピー性皮膚炎への影響は出無いとの成績があります(Kilpeläinenら, Clin Exp Allergy. 2000;30:201)。


イタリアの若い青年兵士を対象とした調査では、A型肝炎、トキソプラズマ感染症、ピロリ菌感染症の3種の感染症に罹患した兵士では、アレルギー疾患の有症率が減少しています(Matricardiら, BMJ. 2000;320:412)


農家で育つ乳児は、細菌由来のトキシン含まれる絞りたてミルクを飲んでいることが影響するとの成績もあります。8263人を対象とした調査でも、豚の飼育 0.57倍、絞りたてミルク0.77倍との数値が示されています(Ege MJ、J Allergy Clin Immunol. 2007;119:1140) 。