昨日、adherent-invasive Escherichia coli(AIECと略)の日本語訳を、接着性侵襲性大腸菌としましたが、これが正解かはわかりません。Adherentの本来の訳は、信奉者とか支持者とか辞書にありました。医学辞書では癒着性とかがあります。つまり、粘膜表面にくっついている生存するタイプの大腸菌なのだと思います。一般医師の間では、この菌名は、まだ十分に浸透してないと思います(どなたか、この菌について知識のある方がいらしたら教えてください)。
今後、この病因説の正当性が積み重なれば、多くの人がこの大腸菌の存在を知ることになると思います。一方で、クローン病の原因に、もっと有力な別の病因論が出てくると、この菌の知名度は後退してしまうかもしれません。
クローン病では、以前から、何かの腸内感染症に引き続き、発症することが指摘されていました。慢性炎症を起こしている原因菌が、AIEC菌である患者さんはいるでしょう。クローン病のすべてではないにしろ、AIEC菌が増殖してしまうことが、慢性腸炎の原因になります。
昨日、別のMAP病因説を紹介しましたが、そのMAP感染症(Mycobacterium avium subsp paratuberculosis (MAPと略)を契機に、クローン病が発症してしまった患者さんもいるでしょう。国や生活環境で、腸内菌とのかかわり合いは違ってきます。世界中で、病気の症状は類似していても、そこに至る過程が同じであるかはわかりません。私たちは、出来上がった病気の結果しか、見ることができません。
昨日、提供した図を再度、下図でみてみましょう。腸の粘膜の一番上は、腸管上皮細胞(緑で示す部分、ひとつひとつの細胞が一層で並んでいる)で囲まれています。この細胞が、腸の内腔に入ってくる多量の食物、病原体などの危険性をみわけます。腸管上皮細胞は、細菌を感じ取るセンサー装置(CEACEM6蛋白で緑のコイル状で図示)を、細胞膜の上に表出しています。
上皮細胞は、センサー装置であるCEACEM6蛋白をつくり、AIEC菌((紫で、鞭毛をもっている)の侵入を見張ります。今回、話題になっている大腸菌AIEC菌は、CEACEM6蛋白を足場にして、上皮細胞に結合します。上皮細胞は、菌が自らの表面に貼りついても、それは見逃します。しかし、菌がそれ以上に細胞内部に入り込もうとすると、反応します。腸内細菌はあくまで、腸管の内腔内で増えるだけで、腸管上皮をつきやぶって腸の生体側に入り込まないのです。
上皮細胞は、菌が貼りつくための足場をつくってあげていて、ここに菌が結合状態するだけなら、菌と上皮細胞は、仲良くしていることができます。健康人では、菌の数も少なく、平和が待たれます(腸の炎症は起きない)。しかし、上皮細胞は、監視の目をおこたっているわけではなく、この菌(図では紫色)が内側の黄色い部分(固有層)に入ろうとすると、拒絶反応を起こしてきます。
腸内を遊走している白血球の仲間の細胞は、呑み込み処理に長けたマクロファージ(呑食細胞、図では3個のオレンジの細胞)となっています。腸内の菌が増加傾向を示すと、それを感じ取ったマクロファージが、この菌を飲みこみ処理します。大腸菌が生体内侵入しても、すぐマクロファージにつかまって、処理されてしまいます。
菌が腸管内で増殖体制に入ると、それを感知した生体側は、センサーであるCEACEM6蛋白を多数、上皮細胞の表面に出するようになります。生体側は、見張りを強化させたつもりでも、このタイプの大腸菌AIEC(図では紫色)は、見張りのためのCEACEM6蛋白を利用して、逆に、これを足がかりに細胞内に入り込んでしまいます。
戦場で、敵の武器を奪って、自らの武器とするわけですが、こうした搾取的なせめぎ合いは、生物間の生存競争では、しばしば見られます。
クローン病の人では、腸管マクロファージの殺菌機能が低く、AIEC菌(図では紫色)が増えてしまいます。そして、粘膜上皮からさらに体内側の固有層(黄色い部分)に入り込みます。殺菌能の低下したマクロファージに呑み込まれた菌は、マクロファージ内で生き延び、増殖体制に入ることができるようになります。
こうした状態になると、腸管粘膜細胞はパニックになり、侵入菌に対し激しい免疫反応をおこします。腸管内に、さらなる白血球を呼び込んで、血管を膨らませ、炎症を増大させます。腸内に戦争を抱え込んだ患者さんは、発熱、腹痛、血便、体重減少、腸の潰瘍、穿孔など、クローン病の重症化へと向かっていきます。腸の炎症の悪循環が治まらなくなってしまうのです。
弱毒の大腸菌は、腸管の免疫物質を横取りして、増殖に利用して、病気を起こしていくことにご注目ください。
以上、現時点で、最も可能性が高いと思われるクローン病の病因説の一つを紹介しました。
食と健康に関しては、未解決な問題が多く、従って、健康に良い食品がるのかの結論はありません。遺伝子背景の違いがある各個人において、健康維持に貢献する食品は、各個人で異なるでしょう。ですから、健康のよいとされる食品、サプリなどの情報にふりまわされないようにしましょう。
クローン病を考える時のまとめ
1) 病気に至る因子が複数で存在する。腸を守るしくみは、複数で相補的なので、クローン病の人も希望を持つこと。腸と脳は類似物質で動くので、一緒に元気になれる。
2) 腸内免疫の寛容の破たんが、病気の元になる。
3) 無菌ではない腸の病気は、原因究明が難しい。今後の研究に、ご期待ください。
1) 病気に至る因子が複数で存在する。腸を守るしくみは、複数で相補的なので、クローン病の人も希望を持つこと。腸と脳は類似物質で動くので、一緒に元気になれる。
2) 腸内免疫の寛容の破たんが、病気の元になる。
3) 無菌ではない腸の病気は、原因究明が難しい。今後の研究に、ご期待ください。
gooには、わかりやすい組織図があります。腸の仕組みを勉強するには、組織図を学ぶことがとても役に立ちます。
http://health.goo.ne.jp/medical/mame/karada/jin028.html
http://health.goo.ne.jp/medical/mame/karada/jin028.html