本日は、小児の白血病の話題です。

1986年4月26日にチェルノブイリ原発事故後、居住する子どもにおける放射性暴露と、白血病発症に関する論文を紹介します。疫学論文における、リスクの判定の判断は難しそうですね。今回は、いろいろな条件を組み合わせて計算すると、白血病との関連は判定できなかったするものです。(しかし、否定もできないとも言っています。)


一般的に、がん細胞は、遺伝子異常が積み重なって起きると、考えられていますが、時には、染色体に1回、大きな変化が起き、壊れた染色体が並び直されて遺伝子異常を持った細胞となる機序もあります。放射線の発がん性のメカニズムは、完全には解明されていませんが 遺伝子に異常をきたす過程には、いろいろな状況が考えられます。放射線量が低くとも、暴露が長引くと、大量暴露と同じくらい危険あるとも想定されます。


チェルノブイリ事故の時点、胎児(総数61人)と、6才以下の子供たちの間で、急性白血病が増えたかを調査しました。ベラルーシ、ロシア、ウクライナ地域で1986年4月26日から2000年12月31日の間に、小児の白血病の症例(総数421人)と、年齢、性を合わせた対象症例(同地域の白血病で無い子ども835人)を比較しました。この間の白血病の症例は、ベラルーシ114人、ウクライナ218人、ロシア39人、合計421人でした。


対象者の推定中央放射線暴露量は、10mGy(注;単位はミリです)でした。ベラルーシでは、白血病の発症数は、1mGy未満を1とすると、1-4.9mGyでは1.28倍、5mGy以上では、1.58倍でした。ウクライナでは、1mGy未満を1とすると、1-4.9mGyでは1.49倍、5mGy以上では3.50倍でした。3地域を合わせると、1mGy未満を1とすると、1-4.9mGyでは1.46倍、5mGy以上では、2.6倍でした。ウクライナ、ベラルーシで、放射線量と関連して白血病が増加しましたが、ロシアでは関連が見つかりませんでした。3地域合計では線量との関係に統計学的に有意な関連はありませんでした。


ウクライナで、線量との関係がみられたものの、発症が放射線によるものかの確定はできませんでした。
この研究により、チェルノブイリ事故による放射線暴露の結果として小児期白血病が増加したとの結論にはなりませんでした。PMID:16269548 Int J Epidemiol. 2006 Apr;35(2):386-96.