内分泌臓器には、刺激伝達系が存在し、副腎の場合は、視床下部(H)から下垂体(P)を刺激するホルモン(CRH)が出て、その刺激をうけた下垂体から副腎(A)皮質刺激ホルモン(ACTH)がでて、最後に副腎皮質ホルモン(コルチゾール)が増加します。


副腎皮質ホルモンは、生命現象をささえる大事な物質ですが、それが過剰に分泌するクッシング症候群という病気では、うつ病を合併しやすくなります。この回路の頭文字をとってHPA軸と呼びますが、HPA軸には、ネガティブフィードバックと呼ばれる生体調節機能があり、過剰なコルチゾール分泌が続かないためのしくみがあります。


人がストレスを感じると、コルチゾールが増えますが、これは正常の生体防御反応です。ところが、うつ病では、このHPA軸が常に亢進している人が多いようです。


私たちの体は、体内物質レベルの増減を感じ取って生理反応が起きます。血糖は高いレベルから低くなる時に、人は空腹感を感じ、黄体化ホルモンの急激な下降に卵巣が反応して排卵をします。こうした自然に備わる調節が破たんしてきて病気が起きてくるのですが、うつ病の人は、視床下部―脳下垂体―副腎(HPA) HPA軸の過剰反応が関与していると言われます。そして、うつ病の治療により病気が良くなった時、HPA軸も正常化することが多いようです。


しかし不思議なことに、このHPA軸の反応には、性差があるようで、男性のうつ病では、うつの回復にHPA軸の回復も伴うことが多く、一方女性のうつ病では、HPA軸の回復がはっきりしないらしいのです。男女のうつ病では、発症の経過がどう異なるのか?、女性のエストロゲンが高いことが影響しているのか?、女性のうつが再発しやすい原因と関係するか?など、性差については、十分な解明はまだです。


ただ、環境によって起きやすい女性のうつと、内因性因子と言われる男性のうつでは、病態そのものが異なるのかもしれません。男性の方が、内科的失調を基盤にうつ病になるのかもしれません。だから、回復時には、HPA軸の機能も回復するのかも・・・・。女性も、HPA軸が回復しないわけではないのですが、反応に個人差が大きく、病気の発症因子が多彩なのかもしれません。いづれにしろ、そうした男女の違いは、病気の治療の上でも大事なことと思われます。それについて、書かれた論文を以下に紹介します。



ミュンヘンうつ(MARS)研究において、鬱病の194人の入院治療中の患者において入院時、治療完了時のうつ病患者において、DEX-CRHテストを用いたコルチゾールの反応などを調べ、うつ病とHPA軸の機能を評価しました。5週間のうつ性治療効果は、ハミルトンうつ病(HAM-D)評定尺度によりモニターしました。入院時と退院時(5週間後)に、DEX-CRHテストを行い、うつ病治療の前後で、HPA軸機能を比較しました。その結果、HPA軸の反応性に性差があることがわかりました。


すなわち、男性の患者では、入院時治療開始前には、5週後の治療終了時(退院時)に比べ、副腎テストにより高いコルチゾール反応が確認され、HPA軸の過剰反応が認められました。一方、女性の患者では、入院時と、5週間の治療終了後で副腎テストの結果に違いがありませんでした。女性のテストの結果は、性ホルモンのレベルや、閉経との関係も認めませんでした。このようにうつ病の改善には、男性でHPA軸の正常化が見いだされるのに対し、女性ではHPA軸との関係を認めませんでした。うつ病の病態形成において、HPA軸の果たす役割は、男女で異なる可能性が示唆されました。Psychoneuroendocrinology. 2009 Jan;34(1):99-109.