227日、ネイチャーのPTSDpost-traumatic stress disorder;直訳は心的外傷後ストレス症候群)、について書きました。
難しい言葉がならびました。今回は、その解説に試みます。



雑誌ネーチャーは、医学だけでなく、他の科学や社会学全体、例えば地球温暖化、人の起源など、幅広い科学分野にわたる新しい知見を紹介する雑誌です。雑誌ネーチャーに載る医学研究の発信元は、すでに多くの論文を専門誌に発表済みの実績のある研究医療施設からです。雑誌ネーチャーでは、過去の知見を含めた網羅的な論文となります。ですから、あまり細かく研究方法が書いてありません。



今回の論文も、人のPTSDの重症度の臨床的評価を、どのような手段で行ったのかは書いてありません。又、おいおい、専門誌などから、興味あることがありましたら、このブログで紹介していきます。



例えば、実験動物を用いたストレス負荷やその評価法を紹介しますと、動物の足に電流を流したり、動物を水につけたり、さらに泳がして、水中に設置したステップ(泳ぎが休める)まで辿りつくまでの時間をみたり、親と離したりなど、いろいろと動物のストレスレベルや記憶程度をみる検査方法があります。



人生でうけるイベントにおいて、ストレスの感じ方は、男女で異なります。特に、女性は一般的に不安を感じやすい社会環境で生活をしています。女性が不安でうちふるえる心は、多くの芸術、絵画の題材にもなってきました。日本の古典文学には、女性が狂う最後が描かれるものが多いようです。古典舞踊などでも、女性の狂乱する姿は、美しく悲しく表現されます。



そんな心のトラブルに、脳の海馬、扁桃体、大脳皮質が主にかかわりあうことは、脳科学の進歩により解明されてきました。しかし、脳においてストレスに対抗する機序や能力については、まだ、未解明な部分が多いと思います。現在の医学のレベルで、どの程度まで、わかっているのかを知る参考に、雑誌ネーチャーのようなものが役立つかなと思います。しかし、用語が難しいので、多くの人がめげてしまう点かと思います。



しかし、用語の理解は、興味を持ち続ければ、じょじょに進むと思います。すべてを理解する必要はありません。何がエッセンスなのかを、つかもうとする心が大事と思います。


今回の論文では、エストロゲンが女性の不安に関係するとの指摘が、何といっても注目される知見ではないかと思います。パッカップ(PACAP)という物質が、女性の不安を示す指標として発見され、パッカップを感じるとる部分(受容体)の働きに異常がある女性に、PTSDが重症化しやすいことを示しています。つまり、PACAPは、不安を起こさせる物質ということになります。本来は、PACAPは不安を調節する物質なのかもしれませんが、過剰に産生されることで、逆の効果を及ぼしまう物質なのかもしれません。今後の研究次第で、このPACAPの位置づけは変わるかもしれません。



このPACAPの量が、エストロゲンにより影響を受けるという事実は、とても大事です。女性は、エストロゲンが高いので、このPACAPが上昇し、脳の恐怖回路が形成されてやすい可能性を示しています。雑誌社提供の日本語訳では、一応、この点に触れていますが、インパクトがやや薄いようです。



米国では、911日のテロ破壊の時の、生存者のPTSDが研究されています。
今後、日本でも、一般の医療機関において、PACAPが、PTSDの重症度の評価に使えるようになるかは、まだわかりません。あるいは、さらに良いPTSDのマーカーとなる脳内物質が発見されるのかもしれません。人の場合は、血液、唾液など、容易に入手できる検体を用いて測定可能な物質でないといけません。今回、PACAPは血漿で測定されています。そして、男性PTSDでは、PACAPレベルと関係せず、女性のPTSDとのみ、恐怖反応と血中のPACAPレベルが関係したのです。




妊娠中の女性は、大量のエストロゲンと黄体ホルモンがでます。そして、それは胎児増殖を促し、女性の新陳代謝を亢進させます(酸素を多くとりいれ、二酸化炭素を吐き出すなど、胎児へ酸素供給をする)。出産後は、このホルモンが一気に減少しますので、それが産後うつと関係すると言われています。この場合、エストロゲンは女性を保護する方向に働くと思います。しかし、大量のエストロゲンは出ない時、つまり非妊娠時の女性には、エストロゲンは、時に不安を高める多彩な物質であろうと思います。