昨日、病気の症状は治すためのステップと書きました。これを、もう少し、解説します。


昔の人は、病気とは、体に悪いものが入り、それが体内で増え、悪い何ものかが症状を起こすと、考えたと思います。昔の人も、吐く、下痢するなどは、排除しようする体の反応であることは、容易に気づいたでしょう。しかし、感染症の時などに、熱をだす、発疹をだす、痛みなども、体自身で起こす免疫反応であることは、昔の人にはわかりませんでした。


江戸時代に、古方派という学派があり、病気はすべて毒によっておこると唱えた派閥が隆盛を極めたそうです。現代になっても、毒をださせて病気を治すという説を唱える人はいるようです。例えば、ステロイド軟こうを突然やめて、皮膚の状態がじくじくでひどくなってしまった時など、毒を出している過程であると説明するらしいです。
こうした極端な考え方でなくとも、日常的に、風邪のような時、熱をさげなければいけない、皮膚が赤くかぶれた時には、赤くならないように薬を塗らないといけない (特にステロイドは、血管を縮めて赤味をとる) と、考える人は結構いるかもしれません。


しかし、ラーメンをすすった時の鼻水、花粉症の鼻水なども皆、体、自らが起こす、生体防御反応なわけです。
免疫という考え方が行き過ぎると、今度は、すべて病気は免疫反応で治るから、薬はいらないということになります。そうした説を信じるかは、その人の自由ですが、なるべく、根拠のある説を真実と思ってほしいです。つまり、病気をすべて免疫で直せるというのは極端ですし、体から毒が吹き出すと治るなどの説明は、証拠がないのです。


病気はある程度までなら、免疫力で自然になおる運命にあります。症状がでるので、その結果、病気の原因は排除されていくのです。私たちが一般に病気と考えている症状は、排除のための免疫反応で起きる現象です。風邪による熱なら多くは、長くとも熱が3-4日でしょう。外国では、受診のポイントは、発熱が5日以上という話を聞きます。


昔の人が、病原体が起こしていると考えていたもろもろの症状は、実は免疫反応でした。麻疹などは、ウイルスが体内に侵入後、リンパ節増殖後、血中を廻ります。体はやっと10日目で防御反応を開始できるようになるので、潜伏期が10日となるのです。さまざまな免疫細胞が活躍して、全身に血管炎をおこすと、人の目には赤い全身の発疹として映ります。血管炎が始まると、ウイルスはすみやかに血中から消失します。すなわち、全部、免疫細胞に殺されてしまいます。


しかし、なんらかの病気の症状が治まらない時、免疫反応は強化を余儀なくされています。すなわち、その人の自然の免疫力で治せない状況が始まったわけで、体に本当の異変が起き始めたということです。
多くの健康人は、健康が当たり前です。治らなければいけない、治るはず、の思いでいると思いますが、病気になれば、その認識は、もはや通用しないのです。


医療不信になるのは、治るはずという心理が大きく影響しています。
私の病気は治るはずと言う思いが強すぎると、ドクターショップをくりかえすようになります。ドクターの方も、プロですから、医療不信の方はすぐ、わかります。重症でないと判断すると、あまり話しを聞いてくれずに、薬の説明もせず、すぐ、「お大事に!」と言われてしまうかもしれません。ドクターを構えさせてしまうのは損です。


風邪の時に、熱をさげるべきかどうかが、良く議論になりますね。確かに、熱が上がることで、病原体の増殖をおさえ、免疫細胞が活性化するのでしょうが、普通は熱を下げても、原因の病気は悪くはならないですよね。それは、免疫反応は過剰に起きているので、多少熱を下げても関係がないのです。むしろ、消耗反応を抑えることで、体はじっくり休めて体力が回復するからでしょう。健康人の免疫には、十分な予備力があることの証拠です。


ステロイドを全身投与すると、熱はさがります。だから、体力の弱っている人では、熱をさげると感染症にマイナスに働くことがあるかもしれません。特に、長期にステロイドを使っている人では、悪化することが多いです。


皮膚が赤いとか、ぶつぶつがいやだから、ステロイドを塗る人がいますが、皮膚のトラブルの原因は、なにかしら他にあり、免疫細胞が調節できずに、目に見えるようになっているのです。ステロイド剤は、赤味の原因を除くわけではなく、血管を縮ませて、見た目の赤味をとっているのです。ステロイドをぬりつづけると、やがて血管は縮まなくなり、効かなくなります。そして、皮膚の血流は低下し、栄養も悪くなります。そんな限界のあるステロイドでも、過剰な免疫反応が抑えられ、うまく正常にもどる人もいます。人の免疫は、個々に多様なのです。免疫力が、個々の人で大きく異なるのは、病気のイベントが起きても、誰かが生き残れるしくみだからです。


病気というのは、免疫の調節に限界が出た時に、おきてきます。だから、治すのも難しいわけです。