隣に座った講師、スカートに入ってきた右手 学習塾の性被害、実態は
朝日新聞
2023年8月30日 12時00分
東京都内に住む会社員女性(30)は小学3年生の頃、中学受験の準備のために大手学習塾に通っていた。
ある日の授業中。教室には、同じ学年の十数人の子どもと、若い男性の講師1人がいた。
子どもたちのいすは2~3人が並んで座れる横長のベンチタイプ。女性は一番後ろの壁際に、別の子と2人で並んで座っていた。
男性講師は、いつもと変わらぬ様子でプリントを配り、「解いてみよう」と声をかけた。子どもたちは一斉に問題を解き始めた。
講師は子どもたちの様子を見回り、ゆっくりと教室内を歩いた。
女性のところにやってくると、隣に座っている子との間におもむろに腰掛けた。
大手中学受験塾「四谷大塚」の元講師が在職中、教え子の女児(9)にわいせつな言動をさせたうえ盗撮した疑いで逮捕されました。今回のように、塾講師が子どもにわいせつな行為をして逮捕される事件は各地で続いています。かつて中学受験塾に通っていた都内の女性が、「塾で講師に体を触られた」と証言しました。今も思い出すと涙がこみ上げるといいます。
講師との距離はかなり近かったが、座ったこと自体には違和感を持たなかった。
逃げ場なく、周囲は気付かず…増す違和感
それまでも、講師は男女問わず、子どもの頭をなでるスキンシップをすることがあった。
「どう? できてる?」
そう声をかけられた時だ。講師は急に、右手を女性のスカートの中に入れ、股を触ってきた。
講師と壁に挟まれ、逃げ場はなかった。
講師の体や長机が死角になり、周囲からは見えづらい位置。隣の子にも気付かれていないようだった。
突然のことに、女性は何が起きているのかよく分からなかった。
「性被害とか当時は知らなかった。そんなところを触られたことがないから、『なんか変だな』という感じでした」
気にしないでおこうと、親にも男性講師にも何も言わないでいた。すると、別の日にまた同じことをされた。
「やっぱり変だ。やめてほしい」
違和感が増し、気になっていろいろと考えるようになった。
気のせい?
親に報告するほどじゃない?
数日悩んだあげく、勇気を出して母親に伝えた。
「なんか、先生が触ってくるんだよね」
軽いトーンで伝えた被害、母はパニックに
軽いトーンで伝えたつもりだったが、母親は激しく反応し、半ばパニック状態になった。
すぐに塾に電話して、とても怒っていたのを覚えている。
次に塾に行った時、もう男性講師はいなかった。女性講師から個室に呼ばれ「大丈夫?」と聞かれた後、「男性講師はその日のうちに辞めさせたから」と伝えられた。
塾との電話で、母親は「すぐに辞めさせるから警察には言わないでくれ」「おおごとにはしないでくれ」といったことを繰り返し言われていた。
母親からは、水着で隠れるような場所は、人に見せたり、触らせたりしないように言われた。
それでも、その時は性被害を受けたという認識は持てずじまいだった。
後からわき起こった嫌悪感 今も涙
中学生になってからのことだ。
電車内で痴漢に遭ったとき、はっとした。
「もしかして、あれもそういうこと?」。被害の認識を持つと同時に、嫌悪感がこみ上げた。
あの時、体を触ってきたのが見ず知らずの大人だったら、すぐに大変なことだと認識できたかもしれない。
でも、男性講師のことは信頼しきっていた。まさか、と思い、性被害だと気付かなかった。
触られたことは、普段はあまり思い出さない。それでも、詳細に思い出すと、今も涙がこみ上げる。
「もしかしたら他の子も被害にあっていたかもしれないし、その後別の塾でまた先生になり、同じことを繰り返していたらと思うと怖い」
業界団体はガイドライン でも後絶たぬ被害
個人塾も含む約400社が加盟する公益社団法人「全国学習塾協会」は、加盟社向けの「子どもの安全確保ガイドライン」で、「いかなる理由があっても子ども及び保護者との性的接触・行為をしてはならない」と明記。従業員を採用する際には、人格的、精神的問題がないかなどをチェックするよう求めている。
だが、子どもを盗撮する、体を触るなどの疑いなどで塾講師が逮捕される事件は後を絶たない。2020年から22年にかけて、東京、群馬、千葉、愛知などで講師が逮捕されている。