別に自分が保育士になりたかった、わけではない。

そういう意味じゃなくて、ふと思い出したことを書いてみる。



昔、予備校に勤めていた時のこと。

ある父母とその子供が来校した。

お父さんは非常に情熱的。お母さんはとても優しい人。


子どもは何も話さず、最初から最後まで

私と話を一切しなかった。


お父さんは「こいつを、一流の大学に入れたい!」と言い

「勉強しないで、遊んでいる。どうしようもない息子だ」と

言って息子をなじる。


お母さんは「私が決めることではないので・・・」と言い

積極的ではなかった。



とりあえず、時期が時期だけに、その子の予備校生活は

スタートした。


しかし、予備校での彼は、不真面目極まりないほどであった。



たとえば、自習室で、ゲームをしたり

映画を借りてきて見ている。


あげく、寝ていたり、確認テストのパソコンを使って

遊んだりもしている。


お父さんがなじる理由がよくわかった。




彼を呼び出して、一度彼を叱りつけた。

親にも連絡をした。



だが、彼の遊び癖は治ることがなかった。


受験間近になって、彼はいつしか、「受験したくない人」

として、放置されていたし、自分も何も構わないようになっていた。



受験シーズンが到来した。


当然、1人の受験校の数は、10校程度であり

相当な金額が必要になる。



彼の受験校は・・・・・早稲田、慶応、明治、日本・・・・・


などなど、当然


「お父さん」が決めたもの、ばかりだった。



本人は、勉強したくなかったんだろう。

大学にも興味がない・・・


専門学校へ行くケースだろう、と自分は考えていた。




そして、当然、3者面談をする。

お父さんは当然、彼をなじるだろうし、お母さんは

放任主義だろうと、思っていた。


しかし・・・・・その3者面談で


彼はある決意を、私たちに見せた。



3者面談の前には「受験校リスト」を提出する。



その時だった。




「○○大学保育学部」 受験予定




・・・・・・・ん????



「保育学部」  ??????????




何かの間違いだろうと思った。

面談の事前に彼に聞いてみた。


「ねえねえ、Aくん、保育学部受験するの?」


「ひょっとして、保育士になりたい?小学校の先生?」



彼はいつもどおり、何も言わない。



3者面談がスタートした。



お父さんは成績不振の息子をいつもどおりなじり

お母さんは「彼の決めたことを・・・」と息子の決定を尊重する。


しかし、普段は話をしない息子は

その父と母に向って、一言だけいう。


「保育学部を・・・・受験したい」


お父さんは、息子がバカなことを言っている

息子に他人の教育なんて出来るわけがない、と

さらに息子をなじった。


息子は何も言わなかった。




そして・・・・受験の結果は・・・・・




彼は、「○○大学保育学部」だけに合格した。


お父さんの決めた大学はすべて落ちた。13校、占めて50万円ほどだったと思う。




彼は今、どうしているだろうか・・・・



毎年この時期になると


彼が三者面談で「保育学部を受験したい」と

言った時の表情を思い出すのである。