記憶術「ストーリー法」――バラバラの情報を物語に変えるだけで記憶は強くなる
私たちは毎日の生活の中で、非常に多くの情報に触れている。人の名前、数字、仕事の手順、商品の特徴、勉強の内容、ニュース、約束事など、覚えなければならないことは次から次へと現れる。
しかし、「覚えよう、覚えよう」と何度も繰り返しているだけでは、なかなか記憶に残らないことも多い。
そこで役に立つのが「ストーリー法」と呼ばれる記憶術である。
ストーリー法とは、覚えたい情報をバラバラの状態で覚えるのではなく、それらを一つの「物語」にして覚える方法である。
例えば、「りんご、時計、犬、銀行、傘」という5つの単語を覚える必要があるとする。
普通に「りんご、時計、犬、銀行、傘」と繰り返しても、時間が経つと忘れてしまうかもしれない。
そこで、これを物語に変える。
「大きなりんごを食べながら時計を見ると、突然犬が走ってきた。犬と一緒に銀行へ行くと、外は大雨だったので傘を開いた。」
このようにすると、単なる5つの単語が一つの映像のようにつながる。
りんごを食べる。
時計を見る。
犬が来る。
銀行へ行く。
傘を開く。
情報同士がつながっているため、思い出すきっかけが増えるのである。
ここにストーリー法の大きな特徴がある。
人間の記憶は、単独の情報よりも「意味のあるつながり」を持った情報のほうが扱いやすい。物語には、登場人物、場所、行動、出来事、感情などが含まれている。
つまり、ただの情報を「意味のある出来事」に変換できるのである。
特に重要なのは、頭の中でできるだけ具体的な映像を作ることである。
先ほどの例でも、単に「犬が銀行へ行った」と考えるより、「巨大な犬がスーツを着て銀行の窓口に座っている」と想像したほうが記憶に残りやすい。
なぜなら、現実にはありそうにない、奇妙で面白い場面だからである。
記憶術では、「普通の出来事」より「変わった出来事」のほうが思い出すきっかけになりやすい。
例えば、「時計」という単語を覚えたいなら、普通の腕時計を想像するだけではなく、「巨大な時計が空から落ちてきて、自分の家を破壊する」といった極端な場面を想像してみる。
「犬」なら、「犬が人間のようにしゃべっている」。
「傘」なら、「傘が巨大化して空を飛んでいる」。
このように、現実ではあり得ないほど大げさなイメージにする。
すると、記憶が単なる言葉ではなく、頭の中の映像として残りやすくなる。
ストーリー法は、単語を覚えるときだけに使えるものではない。
例えば、歴史の勉強にも利用できる。
歴史上の人物や出来事を、それぞれ独立した暗記事項として覚えるのではなく、「誰が登場し、何が起き、その結果どうなったのか」という物語として整理する。
年号を覚える場合でも、数字だけを孤立させるのではなく、その年に起きた出来事とセットにして、自分の頭の中で一つのストーリーを作る。
資格試験の勉強にも応用できる。
法律、経済、経営、会計などは、最初は大量の専門用語がバラバラに見える。しかし、それぞれの用語が「なぜ登場したのか」「どんな問題を解決するものなのか」「他の概念とどうつながっているのか」を物語にしていくと、理解と記憶が結びついてくる。
仕事でも使える。
例えば、新しい仕事の手順を覚えるときに、
「お客さんから依頼が来る」
↓
「内容を確認する」
↓
「必要な処理をする」
↓
「上司に確認する」
↓
「お客さんへ連絡する」
という一連の流れを、一つの仕事の物語として頭の中に作る。
単純に手順を丸暗記するよりも、「一人のお客さんが依頼をしてきて、それを最後まで解決してあげる」というストーリーにすると、全体像を理解しやすくなる。
さらにストーリー法には、自分自身を主人公にするという方法もある。
例えば、覚えたい情報を「自分がその場で体験している」という設定にする。
「自分が駅を出ると、目の前に巨大な本が落ちている。本を開くと中から猫が飛び出し、猫を追いかけるとコンビニに入り、店員から数字の書かれたカードを渡される。」
このように、自分を主人公にすると、情報を自分の体験としてイメージしやすくなる。
ストーリー法を上手に使うポイントは、「完璧な物語を作ろうとしないこと」である。
文学作品のような素晴らしい物語を作る必要はない。
重要なのは、覚えたい情報同士をつなげることだ。
むしろ、少し馬鹿馬鹿しいくらいのストーリーのほうがいい。
「ゾウが会社の社長になって、巨大な電卓を持って銀行へ行き、そこで宇宙人と会議をしている」
このくらい極端でも構わない。
「ゾウ」「会社」「電卓」「銀行」「宇宙人」というバラバラの情報が、一つの場面に組み込まれているからである。
そして、ストーリー法をさらに強力にするのが「五感」である。
色、音、匂い、温度、触った感覚などを想像する。
例えば「レモン」という情報なら、黄色いレモンを見るだけではなく、実際に手で握った感触、酸っぱい味、爽やかな香りまで想像する。
記憶する情報に感覚を追加すると、単なる文字情報ではなく、立体的なイメージになる。
ただし、ストーリー法にも注意点がある。
何でもかんでも長い物語にしてしまうと、逆に覚えるための負担が増えてしまう。
そこで、覚える情報の量に応じて物語を短くすることが重要である。
5個なら短い物語、20個なら場面をいくつかに分ける、といった具合である。
そして最も重要なのは、「思い出す練習」をすることである。
物語を作っただけで満足してはいけない。
一度本や資料を閉じて、「さて、何だったかな?」と自分の頭から情報を取り出してみる。
この作業を繰り返すことで、記憶はより強固になっていく。
記憶術というと、「特殊な能力を持った人だけが使える技術」のように思われることがある。
しかし、ストーリー法は非常にシンプルである。
覚えたい情報をつなげる。
映像にする。
少し大げさにする。
自分を主人公にする。
そして、何度も思い出す。
これだけでも、普段の暗記方法は大きく変わる。
人間の頭の中には、毎日膨大な情報が入ってくる。
そのすべてを単純な丸暗記で処理しようとすれば、当然限界がある。
だからこそ、「覚える」のではなく「物語にする」という発想が重要になる。
バラバラだった情報を一本の糸でつなぐ。
その糸がストーリーである。
情報を物語に変えることができれば、暗記は単なる苦しい作業ではなくなる。
むしろ、「次に何が起こるのか」を楽しみながら記憶できるようになる。
記憶力を高めるために必要なのは、頭の良さだけではない。
情報をどのようにつなげるか。
その工夫こそが、記憶を大きく変える。
ストーリー法は、そのための非常にシンプルで強力な武器なのである。