青春の終わりって、
大きな音を立ててやって来るものじゃない。
気づいたときには、
もうずっと前に幕が下りていた——
そんな終わり方もある。
エーイチたちのバンド“母さんありがとう”が動き出した頃、
俺たちはまだ、自分たちの青春が
どこまで続くのかなんて考えもしなかった。
エーイチたちのバンド名が決まった。
なんだかわからんが“母さんありがとう”だって。
めちゃめちゃカッコ悪い。どんなセンスだよ。
まあ他人のバンドなんで名前なんてどうでもいいんだけどね。
エーイチはせっせと詩を作っては俺んとこに見せに来た。
でもさ、ラブソングに失恋ソングばっか。
全部、昔付き合ってた女との思い出が題材なの。
情けない奴だな。
その詩にクボタが曲を付け、
南行徳のスタジオで熱心に練習を繰り返していた。
楽屋でくつろぐヤザワとクボタ
やがて機は熟し、
ついに市川クラブ・ジオでファーストライブが行われることになった。
当日、早めに行って軽く呑みながら待ってると、
懐かしい顔ぶれがゾクゾクとやって来た。
タケシにフクちゃんに幕張の連中。
タケヤにオガワ君、同級生だったミヤガワ君まで。
名前も思い出せないが見覚えのある面々がいっぱい。
同窓会的ライブって感じだな。
そして、なんとクララサーカスのユミルまで来てくれた。
当時すでに売れっ子だったのによく来てくれたもんだ。
それにしてもエーイチが呼んだ客だけで20人くらいはいるんだから、
たいしたコネクションだ。感心したよ。
ステージの始まり
で、肝心のライブはというと——
はっきり言ってお粗末さまでした。
ハッスルして練習しすぎて喉痛めて、ぜんぜん声出てねーのっ!
でも、そんな状態でもエーイチは本気だった。
クライマックスで、あの“問題の歌詞”を叫んだ。
「寄らば大樹の陰から、
100万人の金魚の糞——!」
客席の半分はポカンとしてた。
でも俺たちは笑いながら拳を上げていた。
「空を見上げて繰り返す、
サルの真似した大馬鹿野郎——!」
声はガラガラ、歌は下手、
でもその瞬間だけは、
世界のどこよりも“俺たちの場所”だった。
シャウトするエーイチ
一曲だけやったシマダ君のボーカルは可愛かったぞ。
後で皆に「ぜんぶシマダ君に歌わせれば良かったじゃん」とか言われて、
落ち込むエーイチであった。
ライブ後はそのまま同窓会的な宴会になった。
懐かしい面々と呑むのは本当に楽しかった。
その呑み会に来てた女の子から聞いたんだけど、
「プリプリのアツコがさ、高校の頃アキオ君に気があったんだよ」
「前に会ったときに“会いたい”って言ってたよ」
って。
それだけなんだけど嬉しいもんだね。照れるじゃねぇか。あはは。
ある日の打ち上げにて

その後、“母さんありがとう”のライブは結局三度やった。
最初は身内が集まって盛り上がったけど、
回を重ねるごとに客は減り、
最後は誰も来なくなった。
エーイチも、クボタも、ヤザワも、
それぞれの生活に戻っていった。
バンドは自然消滅。
誰が悪いわけでもなく、
ただ、そういう時期が終わっただけだ。
そして俺たちの青春時代は、
誰に見送られることもなく、
静かに幕を下ろしたのだった。
——あれから20年。
気づけば俺たちは45歳になっていた。


