1985年前後から90年くらいまで、
エーイチに引っ張り回されて映画ばっかり観てた。
あいつは妙に映画にハマってて、
俺を連れていくのが当たり前みたいな顔してた。
最初の頃は石井聰亙の流れだ。
狂い咲きサンダーロード、爆裂都市、水のないプール。
どれも観たあと頭がガンガンするようなやつばっかりで、
「なんでこんなのばっかり選ぶんだよ」
と思いながらも、結局ついていってた。
そのうちエーイチの中で“名画座ブーム”が始まった。
ジャンルなんて完全に無視。
気になったものを片っ端から突っ込んでくる。
東京物語。
大人はわかってくれない。
なぜかガンバの冒険まで。
もう意味がわからない。
名画座の暗い館内で、エーイチは前のめりで観てるのに、
俺は横で缶ビール飲みながら
「また変なの連れてきやがって…」とブツブツ言ってた。
そして極めつけが『罪と罰』だった
あれは本当に地獄だった。
暗い。
重い。
陰鬱。
画面の空気がずっと湿ってるみたいで、観てるだけで気持ち悪くなる。
酒飲んでたせいもあって、途中で何度も寝た。
でも起きると、まだ同じような暗いシーンが続いてる。
「これ、永遠に終わらないんじゃないか?」
本気でそう思った。
名画座の椅子に沈み込みながら、
時間の感覚がどんどん狂っていく。
映画というより、修行だった。

あまりにも気分が悪くて、
そのあと ピンク映画を観直して帰った。
頭をリセットしないと帰れなかった。
あの“暗黒の3時間20分”を抱えたまま家に帰ったら、
途中で倒れると思った。
今思うと、あの頃の映画は全部エーイチとセットだった
エーイチがいなかったら、
狂い咲きも爆裂都市も、
名画座の東京物語も、
あの地獄みたいな『罪と罰』も観てない。
あいつが連れていく映画は、
いつもどこか偏ってて、
でも妙にクセになるものばかりだった。