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回顧録ーMemoirs of the 1980sー

激動の80年代、荒れる80年代。
ヤンキーが溢れる千葉の片田舎で、少年たちは強く逞しく、されど軽薄・軽妙に生き抜いた。
パンクロックに身を委ね、小さな悪事をライフワークに、世の風潮に背を向けて異彩を放った。
これは、そんな高校時代を綴る回顧録である。

たいしたことじゃない日々の話。

 でも、あとで思い出すと妙に残ってる。

 そんな断片を、気の向くままに。

 

俺とケンのウルトラ逆入賞記

 

ケンという若いのがいた。

 なぜか俺になついてきて、

一時期は弟分みたいな存在だった。 

 

飲みに行けばついてくるし、

走ると言えばついてくるし、 

ウルトラマラソンに出ると言えば、

当然のように一緒に来る。

■ 奥武蔵ウルトラ:銀マット前夜祭

奥武蔵ウルトラの前日、

俺とケンは前ノリした。 

 

まだ明るいうちに駐車場に着いて、

車の横に銀マットを広げた瞬間、

 もう宴会が始まっていた。

 

 

「兄貴、前日くらい飲んでも大丈夫っすよね」 

「まあ、一本だけな」

 

 ——その一本が十本になった。

 

気づけば泥酔。 

そのまま銀マットの上で二人して爆睡。

 駐車場のど真ん中で。

 

翌朝、ラン友がやってきて俺の肩を揺さぶった。

 

「お前ら迷惑だぞ」

 

 俺はすぐ起きた。

酒抜けも目覚めも異常にいい。

 だがケンは起きない。 

若いだけあって睡眠力がバケモノ級だ。

 

結局、

ケンだけが大の字で寝てる写真が残った。 

あれは今見ても笑う。

 

■ ウルトラ本番:二日酔い地獄

レースは地獄だった。

 二日酔いで頭はガンガン、胃はムカムカ、足は鉛。 

ケンも死にかけていた。

 

それでも俺たちは前に進んだ。

 そして制限時間60秒前にゴール。 

びりから3番目。逆入賞。

 

「兄貴、ギリギリでしたね…」

「ギリギリでいいんだよ。人生なんてそんなもんだ」 

そんな会話をした気がする。

 

 

■ 野辺山ウルトラ:帰り道の地獄

別の年、

野辺山ウルトラの帰り道。 

 

俺はへとへとで、

足はつりまくり、

全身けいれん。

 

 パンツも半分までしか上げられない

半ケツ状態で助手席に転がっていた。

 

運転はケン。

 だがケンの運転は恐ろしい。

 

 普段運転しないから、下手すぎて寝てられない。

 むしろ冷や汗。

 

「兄貴、大丈夫っすか…?」

 「お前の運転が大丈夫じゃねぇよ…」 

 

そんなやり取りをしながら、

俺は半ケツでのたうち回っていた。

 

でもケンは必死だった。 

兄貴を家まで送り届けようと、

下手なりに全力でハンドルを握っていた。 

その気持ちは、今でもちゃんと覚えている。

 

■ ケンという断片

ケンはその後、

転勤して、結婚して、

家庭を持って、 

自然と疎遠になった。

 

でも俺の中では、

 銀マットで爆睡していたケンも、

 下手な運転で俺を震え上がらせたケンも、

 ウルトラの地獄を一緒に走ったケンも、

 全部ひとつの“断片”として残っている。

 

若いのってのは、

 いつの間にか現れて、

 いつの間にかいなくなる。

 

でも、あの時だけは確かに一緒に走っていた。

それで十分だ。