たいしたことじゃない日々の話。
でも、あとで思い出すと妙に残ってる。
そんな断片を、気の向くままに。
俺とケンのウルトラ逆入賞記
ケンという若いのがいた。
なぜか俺になついてきて、
一時期は弟分みたいな存在だった。
飲みに行けばついてくるし、
走ると言えばついてくるし、
ウルトラマラソンに出ると言えば、
当然のように一緒に来る。
■ 奥武蔵ウルトラ:銀マット前夜祭
奥武蔵ウルトラの前日、
俺とケンは前ノリした。
まだ明るいうちに駐車場に着いて、
車の横に銀マットを広げた瞬間、
もう宴会が始まっていた。
「兄貴、前日くらい飲んでも大丈夫っすよね」
「まあ、一本だけな」
——その一本が十本になった。
気づけば泥酔。
そのまま銀マットの上で二人して爆睡。
駐車場のど真ん中で。
翌朝、ラン友がやってきて俺の肩を揺さぶった。
「お前ら迷惑だぞ」
俺はすぐ起きた。
酒抜けも目覚めも異常にいい。
だがケンは起きない。
若いだけあって睡眠力がバケモノ級だ。
結局、
ケンだけが大の字で寝てる写真が残った。
あれは今見ても笑う。
■ ウルトラ本番:二日酔い地獄
レースは地獄だった。
二日酔いで頭はガンガン、胃はムカムカ、足は鉛。
ケンも死にかけていた。
それでも俺たちは前に進んだ。
そして制限時間60秒前にゴール。
びりから3番目。逆入賞。
「兄貴、ギリギリでしたね…」
「ギリギリでいいんだよ。人生なんてそんなもんだ」
そんな会話をした気がする。
■ 野辺山ウルトラ:帰り道の地獄
別の年、
野辺山ウルトラの帰り道。
俺はへとへとで、
足はつりまくり、
全身けいれん。
パンツも半分までしか上げられない
半ケツ状態で助手席に転がっていた。
運転はケン。
だがケンの運転は恐ろしい。
普段運転しないから、下手すぎて寝てられない。
むしろ冷や汗。
「兄貴、大丈夫っすか…?」
「お前の運転が大丈夫じゃねぇよ…」
そんなやり取りをしながら、
俺は半ケツでのたうち回っていた。
でもケンは必死だった。
兄貴を家まで送り届けようと、
下手なりに全力でハンドルを握っていた。
その気持ちは、今でもちゃんと覚えている。
■ ケンという断片
ケンはその後、
転勤して、結婚して、
家庭を持って、
自然と疎遠になった。
でも俺の中では、
銀マットで爆睡していたケンも、
下手な運転で俺を震え上がらせたケンも、
ウルトラの地獄を一緒に走ったケンも、
全部ひとつの“断片”として残っている。
若いのってのは、
いつの間にか現れて、
いつの間にかいなくなる。
でも、あの時だけは確かに一緒に走っていた。
それで十分だ。


