本編では書かなかったことが、
まだどこかに散らばったまま残っている。
若い頃の話もあれば、
中年になってからの出来事もある。
笑える日もあれば、
胸の奥が少し痛む夜もある。
時系列も関係なく、
ジャンルも統一されていない。
ただ、そのどれもが
“俺の人生のどこかに確かにあった時間”だ。
ここには、
こぼれ落ちた断片たちを
気ままに拾い集めた記録を残していく。
俺の初めての後輩はエーイチだった
エーイチは高校を卒業すると、
パンク時代の先輩の紹介でアカクラって靴屋に就職した。
市川シャポーの店舗で売り子をしていた。
その先輩は津田沼のイトーヨーカドーの店にいて、
俺は学校帰りにちょくちょく顔を出していた。
面倒見のいい人で、俺が来ると
「ちょっと待ってろよ」
と言って休憩時間を作ってくれ、喫茶店に連れて行ってくれた。
ある日、その先輩が言った。
「エーイチの奴、ちゃんと働いてるかな。
お前、ちょっと見てきてくれよ」
それもそうだと思って、
学校帰りに途中下車して市川シャポーへ向かった。
店に入ると、エーイチはもうすっかり“売り子の顔”になっていた。
トークは軽快、頭の回転も速い、適当なこと言って場をつなぐのも得意。
お客さんも笑っていて、
「ああ、こいつは大丈夫だな」
と安心した。
黙って見てるのも嫌らしいから、少し様子を見たあと声をかけた。
するとエーイチは
「もう少しで上がりだから待っててくれ」
と言うので、店の外で待っていた。
そのまま二人で飲みに行った。
ビールを一口飲んだエーイチは、
「こんな楽な仕事はないよ。ちょろいもんだよ。
足のサイズはかってやって、あーだこーだおだてて売っちゃうんだよ。
簡単なことさ」
と笑っていた。
俺も専門学校の話をして、
お互いに近況報告をした。
ところがだ。
あれは入社して数ヶ月、夏休み前の7月くらいの話だったのに、
その年の12月ごろにはエーイチが言い出した。
「もう飽きたわ、やってらんねぇ」
ああ、これは辞めるパターンだな、とすぐに分かった。
その頃から、
エーイチは俺の専門学校の話に妙に食いついてくるようになった。
へらへら笑いながら聞いてくるけど、
その裏に
「なんか楽しそうだな」
という気配が見え隠れしていた。
そして翌年4月。
本当に靴屋を辞めて、
なんと俺と同じ専門学校に入学してきた。
俺の初めての後輩がエーイチ。
笑うしかなかった。
昼休みは自然と、
俺の同期の仲間たちとエーイチとで一緒に昼飯を食うようになった。
俺とエーイチの高校時代の話、
ライブハウスの話、
スターリンの話なんかをしていると、
同期のシゲトミ君が突然こう言った。
「俺も先生たちと同じハイスクルライフを楽しみたかった」
これには全員で吹き出した。
それくらい、俺とエーイチの話は面白かったらしい。
でも、案の定だ。
課題、課題と何かと面倒な学校生活に、
エーイチはすぐに嫌気がさしてしまった。
夏休みが明けた頃にはもう来なくなり、
そのまま自主退学。
あいつらしいや。
短い期間だったけど、
あの数ヶ月は確かに存在した“青春の季節”だった。