第13回:イージマ君の事 ― タイマンそして完敗 | 回顧録ーMemoirs of the 1980sー

回顧録ーMemoirs of the 1980sー

激動の80年代、荒れる80年代。
ヤンキーが溢れる千葉の片田舎で、少年たちは強く逞しく、されど軽薄・軽妙に生き抜いた。
パンクロックに身を委ね、小さな悪事をライフワークに、世の風潮に背を向けて異彩を放った。
これは、そんな高校時代を綴る回顧録である。

イージマ君。確か「みなごろし」という暴走族で特攻隊長を務めていたらしく、まさにこの学校にふさわしいタイプの男だった。


しかし立派なのは、中学時代から暴走族でありながら陸上部とボクシングジム通いを両立させていたことだ。そのうえ学業の成績も良く、ちょっと異質なタイプの不良だった。


特に仲が悪かったわけではなく、お互いの時計を交換し合ったりと、それなりに良い関係だったと思う。けれど、なぜか覚えていないがタイマン勝負をすることになってしまった。


俺の方が体格差で断然有利だと思っていた。一気に畳みかければ負けるはずがないと。そこで飛び込んで先制パンチを放ったが、あっさりかわされ、同時にジャブをくらった。
「このくそー」と二度、三度とパンチを繰り出すも、全くかすりもしない。返されるのはジャブばかり。攻め手を欠いた俺が動きを止めると、奴が反撃に出てきた。素早い踏み込みから、ワン、ツー、ストレート。あっという間に倒されてしまい、勝負あり。


パンチを一発も当てることができず、奴のパンチはすべてくらってしまった。完敗――ほんとに悔しかった。
そして次の授業は古典の時間だった。古典のおじいちゃん先生は、鼻血が出て腫れあがった顔の俺に気づき、
「ああ、ずいぶんと派手にやられちゃったな。顔を洗って冷やしてきなさい」
と声をかけてくれた。


そっと教室を出て水道で顔を洗っていると、涙があふれてきた。痛みじゃない、悔しさだった。
そのまま教室に戻ることなく屋上へ。

空を見上げて立ち尽くす俺――情けなくて、涙が止まらなかった。