第7回:ムラタ君の事 | 回顧録ーMemoirs of the 1980sー

回顧録ーMemoirs of the 1980sー

激動の80年代、荒れる80年代。
ヤンキーが溢れる千葉の片田舎で、少年たちは強く逞しく、されど軽薄・軽妙に生き抜いた。
パンクロックに身を委ね、小さな悪事をライフワークに、世の風潮に背を向けて異彩を放った。
これは、そんな高校時代を綴る回顧録である。

ムラタ君──そう、入学式でビビらせたあの奴。
あれから3年間、俺の腰巾着みたいな存在だった。
でも決して虐めたり、殴ったり、カツアゲしたりなんてしてない。だって俺はヤンキー系不良じゃないからね。ちょっと気の弱いお友達ってところだ。


夏休み明け。登校するとムラタ君が「よっ、久しぶり」と声をかけてきた。
むむむ、なんか雰囲気が変わったぞ。よく見ると開襟シャツのボタンはパンパン、胸板は異様に盛り上がり、腕もぶっとくなっているじゃないか。
このまま舐められ続けて3年間過ごすことに危機感を持ったんだろうな。どうやら夏休みにジム通いして、一気に肉体改造したらしい。ほぉ、関心関心──じゃねえぞっ、小癪なことしやがって。


そして昼休み。ムラタ君はクラスのショボい連中を相手に腕相撲を始めた。肉体改造の成果を見せつけたいんだろう。俺はこっそり隠れて様子を見ていた。
強い、マジで強い。あの腕の太さは伊達じゃない。やばいぞ、今挑まれれば俺に勝ち目はない。
しかし俺には策がある。ムラタ君が3人に勝ち抜いて、さすがに疲れてきただろうタイミングで声をかけた。


「よし、今度は俺と勝負だ」


手を握り合い、力を込めたその瞬間──バキッ。嫌な音がして、ムラタ君の腕が変な方向に曲がった。すぐに骨が折れたとわかった。骨が折れるときって、本当に音がするんだな…。
なんてこと言ってる場合じゃない。すぐに職員室に駆け込みジンに報告。
「腕相撲なんてしてんじゃない!」って、やっぱり往復ビンタ。いやいや、そんな場合じゃねえだろ、早くムラタ君を病院に連れてけよ。


かわいそうなムラタ君。折れどころが悪くて1か月の入院生活になってしまった。
しばらくの間、学校帰りに病院へ見舞いに行くのが俺の日課になった。不可抗力とはいえ、ごめんな、ムラタ君。


1か月後。退院してきたムラタ君の自慢のぶっとい腕はすっかり細り、胸の筋肉はただの脂肪になり果てていた。


ああ、元の木阿弥。あーめん。

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