TODAY'S
 
記憶の交差点

―アップルタイザーとねこまんま、酒を知らない俺たちの青い夜―

 

今から40年以上も前の話
高2の放課後、A1君と西千葉駅に向かって歩いていた
いつものように、くだらない話をしながら、いつもの道を
そこに、突然声をかけてきた、いかした2人組の女の子


「君たち、いつも一緒だね。目立ってるよ、いけてるね」
 

そんな感じだったと思う
驚きと照れと、ちょっとした高揚感
気づけば、彼女たちに誘われるままに電車に乗っていた

 

市川真間駅前、雑居ビルの地下
薄暗くて、レゲーが流れていて、どこか怪しげな店
バーなのか

高校生が入っていいのか不安になるような空気
彼女たちは

 

「マスター、今日は新しい友だち連れてきたよ」

 

と、店のマスターと親しげに話していた
彼女たちは、同じ高校の1つ上の3年生
俺たちは、まだ酒も知らない

(ほんとは、ちょっぴり知っていたかもしれない)
頼んだのはアップルタイザー
甘くて、炭酸がちょっと強くて、でもどこか背伸びした気分になれる飲み物

 

語り合ったのは、パンクロックのこと、ライブハウスのこと
何を話したか、もうほとんど覚えていない


でも、あの空気、あの時間、あの感じは、確かに青春だった

お腹が空いてきた頃、彼女たちがマスターに言った


「ねこまんま、4人分ね」


ねこまんま?
メニューには載ってない
金もほとんど持ってない
焦ってると、彼女が笑って言った


「大丈夫だよ、おごるから」

 

出てきたねこまんまは、平皿に薄く盛られたライスの上に
青のり、かつおぶし、七味唐辛子が三色に分かれていて
真ん中に、ちょんとバターがのっていた
醤油をかけて、かき混ぜて食べる
これが、妙に旨かった


酒も飲まずに、アップルタイザーとねこまんまで語り合った夜
あの店の空気、彼女たちの笑顔、A1君のすかした顔
全部が、青くて、ちょっと怪しくて、でも確かに輝いていた

青春だった
あのねこまんまの味は、もう二度と出会えないかもしれないけど
記憶の中では、今もちゃんと旨い

 

 
ねこまんまとアップルタイザー、青春の味